半年毎に開催してきました超特選大会も、今回で5回目を迎えました。 インターネットの時間の流れは通常の7倍という説もあるようですので、 ネット上だけで考えれば、この通信句会もさながら老舗の貫禄です。 投句数の増加から、過去5ヶ月分の特選句をまとめ一回分の超特選大会 としていましたのを、今回から3ヶ月分にしました。今後は、超特選大会 を年に3回開催する予定でいます。 ちなみに今回の超特選大会では、第21回〜23回までの工場長題『雪』 『旅』『書』で詠まれた句が含まれています。題詠、自由詠合わせて71句。 すべての句が、誰かに一番いい、つまり特選句に選ばれた句です。超特選 大会をお楽しみください。 向上句会とりまとめ:山口あずさ
感想協力:宮崎斗士、ぴえたくん、またたぶ、山本一郎、隠居、岡田敬子、鬼 灯、古時計、荒川美代子、(h)かずひろ、Yokot、いしず、いちたろう、けん太、 しんく、田中亜美、てっちゃん、とんびん、佐藤義明、三木田一彦、子壱、室 田洋子、主水、秀人、秋、小島けいじ、西島万里、千野 帽子、足立 隆、中村安伸、朝比古、鉄火、南天、浜風、摩砂青、満月、明虫、凌、白井健介、後 藤一之、岡村知昭、山口あずさ 全体的な感想: いちたろう:あらためて読み直すと、気が付かなかった印象を感じることもあ りました。「菜の花の波の間に忘れ物」も、今から見れば、どうしてあの時選 ばなかったんだろう、と思われる句です。自分が喪失感を感じている、そう いった心境のときによく見える句というものがあるのかと思いました。さまざ まな人の、さまざまな心境を理解できるようになりたいな、と思いました。 いちたろう:ぼくには、振り返ることのできる自作の句がほとんどありませ ん。載せていただいた句も今から見れば恥ずべき句になっています。ほんとう に出来がわるいと思っています。コメントするのも恥ずかしいので、お許しく ださい。情けないですが。 しんく:特選逆選ともに欠席してた回からの選です。がんばってでないとなあ と、反省しきりです。 とんびん:きっと、あと少しの粘りでもっと素敵になるんじゃないかな、とい う気がするのが多かったです。 古時計:どの句も個性的で若さがどんどん向かってくるようです。その中でい かに自分らしい句を貫けるかと思っています。 美代子:これだけ秀句が並んでいると、ホント、圧巻ですね。思わずボーッと |
|||
(半分口を開けながら)見入ってしまいました。精進精進。「朧月まだ探偵が 出てこない」も好きなんですけど……。1句だけって厳しい。 秀人:いい句がたくさんあるので、選ぶのに苦労しました。自分もこれか らがんばっていい作品を残したいと思いました。 朝比古: 71句から1句を選ぶのはなかなか難しい。どうしても、消去法に なってしまい、取り落としている句もあると思うが、最後は、好きか嫌い かで選んだ。 満月:今回、たくさん自句が入っていてびっくり。みなさまありがとうござい ます。「つっこみ」はどうにも性格が変わってきて、関わっている自分がすっ かりいやになったので当分参加しませんが、その分、選句コメントはもっと ちゃんと書くようにするつもりです。今後ともよろしくお願いします。向上句 会を、みんながおおらかにのびのびと参加できる句会に育てて行きたいです ね。まずすべてを貪欲に呑み込み、よいところを大きく受け入れるところから しか、興味深い新しい作品をはぐくむ場は作れないように思います。こんな私 のエゴグラムは「養育的な親の心」が満点でした。けっこうしんどい。 洋子:一句を選ぶのは大変でした。 隆:今回の、超特選句の選句は困難でした。<冥王星凍てつく夜のピクニック ><風花のあてもなくゆくものの背に><後ろ手の麦踏の人栞にす>も入れた かった。 凌:「新宿は濡れてるほうが東口」が歌舞伎町界隈と繋がるという現実ではなし に、その現実を切ったところに立っている一句の無責任な断定(いい加減さ)も特選 にしたかった。たとえば無責任なオジさんに「アッチだよ」と指差されて、その 先に迷路が見えているのに歩き出してしまうような感じ。 けん太:こうやって特選の句をみていくと壮観ですね。と言ってごまかすのも手 かもしれないが。あえて、ボクは感性、詩性が低い句が多い、とあらためて言い いたい。詩情をイメージできる句がもっとあってよいのではないかということな んです。こんなことを書くと一大議論をしなくてはならないが、これからは「つっ こみ」にも参加して、この句会の行く末を考えていくことにします。ハイ。 子壱:超特選句の感想でも書きましたが、一見インパクトを与える表現、用語、 新しい意味を見出す句が沢山並べば並ぶほど、超特選句を選ぶのが難しくなり ます。読み手が慣れてしまうのが悪いのかも知れません。あるいは、それだけ 印象の深い句が突出できないのかとも思いました。本当に難しいですね。 一郎:特選大会なのに、心惹かれる句がほとんどなかった。一方自分の句が一 つも特選に入っていなかったことを知った。これは、自分の力が足りないか、 自分のものさしが違っているかのどちらかだろう。後者にしておこうっと。 知昭:久方振りです。句の一覧を見て途方にくれるような感覚がしたのは、な ぜなんだろう‥‥。 健介:いつそのようなことが起こっても不思議はないとあらかじめ覚悟してお りましたが、とうとう「超特選」大会に一句もエントリーできぬ事態となって しまった。自句自解をしないで済むのは“超楽”なんだけど、参加資格があり ませんというふうにされた方が気分的にはもっと楽ですね。ま、いっか‥‥。 (h)かずひろ:平素はなにかとご指導をたまわり誠にありがとうございます。盛 夏のおり皆々様御身ご大切に。 |
||
超特選4点句 出雲にて金魚のみみのみみかざり 鬼灯 特選:てっちゃん 特選:あずさ 特選:古時計 特選:帽子 逆選: 健介 あずさ:この不思議感に大きく○。つっこみで話題になったこともこの句の印 象を深くしたと思います。 てっちゃん:6年前の夏、記録的な猛暑の中、出雲を訪ねたことがある。その 時、出雲で出会った女性が涼やかな耳飾りをしていたのを懐かしく思い出し た。出雲では子どもの頃の夏の風がすり抜けていった。 古時計:金魚に耳飾りをする耳はないのですが、音と聞き分ける気管のみみの みみかざりととりました。見えない耳に耳飾りいいですね。又、現実に金魚が みみかざりをして優雅に泳いでいてくれたらどんな楽しいかみてみたい。その 上、出雲ですから。 帽子:言いたいことはもうこの句が出句されたときに書きました。今回とくに つけくわえることはありません。なお、ぼくの記憶に間違いなければこの句の 作者はその当時、選句なさってません(間違ってたらごめんなさい)。残念でな りません。 健介:「金魚のみみのみみかざり」とは<金魚の耳の形を模してデザインされ た耳飾り>という意味か? <金魚の耳に着けられている(或いは着けるため の)耳飾り>ということなのか? そのいずれにせよ私は想い描けないという 感じ。その発想に面白さを見出せませんでした。あしからず‥‥。 鬼灯:出雲と金魚の取り合わせで、さびしさと懐かしい景色に出会いたかった。 超特選3点句 朧夜のわたし朱肉になりたがる 宮崎斗士 特選:いしず 特選:けいじ 特選:凌 けいじ:20点句だったんで敬遠しようと思ったんですが、この句が出た回は不 参加だったんで結局これにしました。朱肉の艶かしさというか、ゾクゾクする ような雰囲気が好きです。 凌:男か女か詮索無用。「朧夜のわたし」で十分に官能をそそられる。しかし、 それがずぶずぶのエロスに堕ちないのは「朱肉」の明るさというか、現実感と いうか、アッと驚く意外性。たとえば「肉になりたがる」とした場合の陳腐さ を思えば、この「朱肉」という語の一句を支配する力は大きい。それにしても 「朱肉」という言葉がこういう形で俳句で使えるとは思わなかった。 斗士:朱肉、なりたいよねえ。 亀鳴くや癒し女優と人は言ふ しんく 特選:斗士 特選:主水 特選:美代子 美代子:一字たりとも無駄のないセグメントであります。言葉だけでなく、場面 の切り取り、余韻……どれを取っても素晴しい。んもーそうとしか言えません! 主水:私事でたいへん恐縮ですが、今日は誕生日なので貰って一番うれしいも |
|||
のを選ばさせていただきました。 斗士:私の特選句「亀鳴くや」「冬の旅」「津軽路に」から、この句を選ばせて いただいた。上五が中七下五と絶妙なバランス。心地よくさせてくれる。 あずさ:次点でした。 しんく:つっこみ句会に入ってからAVの話しになり、作者としては本上さん あたりを想定して詠んだので、ありゃ、ちょっと違う方向に進んでるなと思っ た次第であります。で、「癒し系女優と呼ばれ亀鳴けり」と改作すれば、そう いう誤解もなく、谷さん言うところの断定にも近づけるんじゃないかと思った けど、どないでしょうか?作者本人としては、この句より同じ回に詠んだ「代 書屋にガタロと告げぬ菫草」のほうが、お気に入りだったんだけど、「ガタロ」 が、みなさんに理解されなかったみたいで、この場を借りて説明させていただ くと、がたろ(川太郎)=淘屋(よなげや)川底やごみ捨て場の土砂をふるっ て金属などを回収する者。(広辞苑より)よかったらぜひ一度上方落語の「代 書屋」を聴いてみてください。 超特選2点句 柳絮とぶ水のむこうにある原書 満月 特選:一郎 特選:朝比古 朝比古: 「水のむこうにある原書」はやはりイイ。実景として捉えるか(近 景に水溜りなど)、観念として捉えるか(水の冷たさ、透明感などのイメージ)、 理屈として捉えるか(原書は海外から来るなどという理)は、読者に委ねられ ている。私の場合は、上五に実体感のある季語が据えられているので、中七以 降は観念として捉えるのが、自然な感じがした。 一郎:句会の感想欄にあった「島国日本では原書は常に水の向こうからやって くる」と一蹴されてしまうところがこの句の弱点なのか。わたしはそう読まな かった。つかもうとしてつかみきれないなつかしいものがそこにある、その向 こうにある、という感じにこの句を読んだ。わたしはやはり、「句の意味」や 「句からにじみ出る人の思い」が好きである。 満月:中村さんの<川底に古文書はまた産卵す>を思い出した方がいらっしゃ いましたが・・・・白状します。そうなんです。あんなのを書きたかった。< 原書>というものが日本ではたいてい海外(水のむこう)にある、という国際 的学者氏のご指摘はなるほどでした。私が思ったのは日本のふる〜〜〜いやつ ばかりだったから。 卒業歌旅芸人の三代目 朝比古 特選:健介 特選:敬子 岡田敬子:卒業していよいよ実社会での人生が始る。その意気込み、厳しさが 感じられて好い句だと思います。 健介:「超特選」とする場合には、その句の(謂うなれば)ポテンシャルへの 感興を踏まえること以上に重視すべき評価の基準は、一句としての“完成度の 高さ”であるという認識に基づいて私はいつも選をしています。というわけ で、今回はこの句を「超特選」といたします。讃。 朝比古:「旅」の席題で作った句。旅芸人→転校が多い→卒業に対して、我々 |
||
とは違う感慨があるはず・・・といった連想ゲーム的な構造が見えてしまうの が、この句の底の浅い処。正直、「旅」という席題は最も難しかった。 梅一輪月の兎のピアスにぞ 後藤一之 特選:一彦 特選:秋 逆選:隠居 一彦:兎がいる満月。梅の木に咲く花。その二つが重なる光景。スペインに住 む私に、日本の美を思い出させてくれる。なんと古風な美しさだろう。だが一 輪の梅は、兎の簪(かんざし)ではなく、ピアスなのだ。古典のなかに、現代 がしっかり顔を出す。 隠居:梅 兎 ピアス サンダイ話頂けません。皆ばらばら。 秋:千野さんがするどく野次っておられましたが、なお、この句のメルヘン チックな清冷さに惹かれます。「ピアスにぞ」っていうあたりとてもモダンな 感じがして、新鮮でした。 雪降ればくちびる少しずつひらく 凌 特選:子壱 特選:青 子壱:超特選句を選ぶのは難しいですね。一見強い印象を与える句ばかりが並 ぶとかえって超特選句が解らなくなってしまいます。選出句は表現には特に 凝った所は無いのですが、全体の感覚の良さで際立って居ると感じられまし た。 青:雪からくる情緒からぬけでてはいないけれど、くちびるというもっとも敏 感な感覚器にピントをあわせたところがよかった。 吹雪く夜の驢馬を思えり驢馬熱し 満月 特選:鉄火 特選:明虫 鉄火:とにかく好きだとしか言いようがありません。騾馬がべつの騾馬のこと を思っていると解釈しましたが、なんだかあまり解釈もせずにこの句の韻律を 楽しみたいと思った。 明虫:きっちり定型にしてこれだけ激しく情をぶつけたところ、俳句には珍し いと思う。中、下句の重複的表現もこの場合効果的のようだ。 満月:これ、作者としてはけっこう好きなんです。取っていただいた皆様、素 敵な読みをしていただいた皆様、本当にありがとう。 いもうとが木琴になる雪の朝 宮崎斗士 特選:満月 特選:ぴえたくん 逆選:隆 ぴえたくん:いもうとの平仮名表記がとても好き。いま、実の妹の体調が悪い せいか、「木琴になる」が実景ではなく、生命を絶つようにかなしく感じられ ます。気がくるいそうな寂しさが雪景色の冷たさ明るさによく表現されている と思います。全部を何度読み返しても、この作品が心に残りました。ぴえの超 特選です。おめでとう! 満月:いろいろ考えたがこの句に決めた。雪の朝、硬く凍って木琴のような音 を立ててしまう、そんな家庭内孤児かもしれない<いもうと>が心底いとおし い。そのつめたく硬くなったいもうとを演奏する木琴奏者であるかもしれない |
|||
登場人物は、孤独な<いもうと>とこんな形でしかたわむれることのできない 心底孤独な存在なのか。いやそんなこともあるまいが。(この「いもうと」感 覚は兄弟姉妹のいない人の多い現代ではわかり難いのだろうなと思う。)この 句にはそんなことはいっさい書いてない。しかしおそらく無意識に、いろいろ な読みを拡がらせる成分がたくさん仕込まれている。読者はそこから自分の無 意識を引き出されて、さまざまな深読みの世界に入ってゆける。それを許して くれる。そんな風に思わせる間口のやわらかい句である。親族名称がパターン 的に用いられていないことがうれしい。 隆:好きな作品です。それだけに、宮澤賢治の詩を思い出してしまうことが、 欠点になってしまっているのが残念です。 斗士:その節は、つっこみ句会上にてお騒がせいたしました。 まだ私楷書体です春卵 いしず 特選:知昭 特選:一之 逆選:ぴえたくん ぴえたくん:確かその回の最高点でしたよね。ちょっと苦手なんです。ごめん なさいm(__)m どうして苦手なのか説明したいのですが、「まだ〜〜です」の 「〜〜」に何でも入るような気がするくらいで、ごめんなさいm(__)m 知昭:ちょっと堅いけど新鮮さがいいですね。 超特選1点句 穴を出る一個旅団の蟇(ひきがへる) 後藤一之 特選:隠居 隠居:蟾蜍と旅団と言う古めかしい語彙がうれしい。蟾蜍は出る時期には全く このような状態です。良く観察してあり特選の価値あり。 冥王星凍てつく夜のピクニック (h)かずひろ 特選:万里 あずさ:少女趣味のような気が。。。。 斗士:「夜のピクニック」というフレーズの魅力。「冥王星凍てつく」がも一つ 膨らみ不足か。 h)かずひろ:逆引き広辞苑の中で「凍てつく」と「ピクニック」はすぐ近く。 「凍てつくピクニック」というイメージはそこからです。 叱られし子のふらここを見てゐたる 朝比古 特選:隆 朝比古:この句の批評で、地方俳壇という言葉を知った。自分でもこの句は読 者に媚びている感じがあって、全くいいとは思っておらず、きつい批評を受け るのはやむを得ないと思っていたのだが、ただ、揶揄的に「地方俳壇」という 言葉が使われたのだとすれば、地方で頑張っている人に対して失礼だと感じた。 隆:今回の全71句中、最も素直な作品。それを根拠に選びました。その他に も、選出したい句はありました。 |
||
また消してまた書いている朧かな 山口あずさ 特選:亜美 亜美:過剰な説明は徹底的に避け、営為だけを柔らかく書く。その省略と抑制 ゆえ、一句に内在する時間と空間の膨らみを感じる。リフレインのゆるやかな 往還から、微妙な心理の陰影が感じられ、それがそのまま下五の「朧かな」に 説得力を与えているような気もします。素敵な句です。 あずさ:<また書いてまた消して>にしなかったところが、我ながら良かった と思う。 使はれぬ機械夜明けの雪の嵩 杉山薫 特選:秀人 秀人:いい俳句はたくさんあったのですが、このまともな作品を超特選にした いと思います。まともな句がまともな評価を得られることが、現代の俳句に とって重要だと考えているからです。 朔風やさんかくの馬駆け抜けて 田中亜美 特選:安伸 あずさ:朔風は北風、鋭利な印象の一句。 亜美:当該馬は、白井氏ご指摘の三角木馬とは無関係です。でも、「〜木馬」の 方が韻律いいですね。さすが、白井さん。 脳のやや弱いところに水揺れる 凌 特選:義明 義明:この句が好きです。脳というと体温があって赤くて、というイメージで すが、水というとヒンヤリとして青いイメージがあります。「やや」、「弱い」、 「揺れる」というあいまいさと脳と水のこれまた「原色」というよりは中間色 (水は無色でしょうか)のあいまいなイメージが好きです。 ソクラテス語り終えたり野水仙 またたぶ 特選:南天 南天:その場の空気が流れて来る感じ。野水仙は絶対うごかない。 ひまわりに亀裂あやうい午後になる 凌 特選:いちたろう いちたろう:ひまわりが大好きです。喪失感におぼれそうな者の心に放射状の 形、大きな円形、中心が濃いでで縁が明るめの色調、そういった印象がしみわ たります。亀裂にはまりやすい感覚、どんどん色が鮮やかさを失い冷めていく ような午後の感覚、そんなところにも意義やあじわいがあるんだということを 感じさせてくれます。 |
|||
津軽路に紅い雪舞う僕の肺 神山姫余 特選:けん太 けん太:篠原鳳作の「しんしんと肺碧きまで海のたび」を思い出しました。着 想は似ているのだけれど、津軽路と紅い雪の取り合わせも結構なものだと思い ました。紅い雪がなぜか哀しい。そんな詩が伝わってきます。でも、類句とい う人もいるかもしれないな・・。 ひいらぎの樹液たっぷり時刻表 村山半信 特選:鬼灯 鬼灯:ひいらぎの葉にはとげがある。その樹液がたっぷりある時刻表。この時 刻表にはミステリアスな旅がいっぱいあるようでワクワクする。 健やかにシナプス伸びる春の旅 杉山薫 特選:とんびん とんびん:「健やかに」、という、言葉と「シナプシス伸びる」という言葉のつ くりだす、適度にエロチックな世界が、「春の旅」という非日常によって引き 起こされるあたり、何か、期待や予感というものを感じさせてくれる句とし て、大変きにいりました。 ふらここに蜂蜜垂るる如くゐる 朝比古 特選:洋子 洋子:ちょっと甘くて、けだるい春愁。とても好きな句です。 朝比古:つっこみ句会で多少話題にして頂いた句。これは私個人の感覚だが、 「ぶらんこ」には春の季感がないような気がしている。また、「るる〜ここ」の 韻についても言及があり、作者の意図を読み取って頂き、うれしかった。 いそぎんちゃくは他のお客様の御迷惑になります 宮崎斗士 特選:またたぶ 逆選:秀人 またたぶ:当時と変わり映えのしない選、という点では不面目ですが、とにか くねじ伏せられるような可笑しさパワーを感じます。 秀人:これが「俳句」だというなら、「セブンイレブンは7時から11時まで 営業しています」も俳句だということになるでしょう。緊張感も飛躍もありま せん。こんな扱いをされては、いそぎんちゃくがかわいそうです。 斗士:いそぎんちゃくって独特の威圧感がある。そこらへんを描きたかった。 新宿は濡れてるほうが東口 千野 帽子 特選:Yokot 逆選:帽子 Yokot:どういう俳句がいい俳句か全然わからないので選びようがないんです がこれはほんとに「うん,そだよね!」と感じたので選びました.たしかに東 |
||
口は濡れてるよ,スタバが出来ても.ちなみに西口はいつも日射ってかんじ. 帽子:拙句。超特選大会を基本的にメデタイ場と思っているので、今回から逆 選がルール化されて大いに苦しみました。ふだん、句会ルール原理主義な発言 をしている身としては、自作に逆選をつけるのもほんとはルール違反なので心 苦しいのですが、そもそも超特選大会は出句してない人にも投票権があるとい う一点を口実に、謹んで自句に逆選つけさせていただきます。ごめんなさい。 というのも、超特選大会において逆選が制度化された以上、この句などは逆選 のかっこうの餌食なのではないか、こういう句のためにこそ超特選大会の逆選 が制度化された意義がある、と思い(卑下でも自虐でもありません)、それなら ばこの期に及んでこの句が被る逆選の数が増えてもたいした違いはなかろうと いう判断です。ルール違反の謗りは甘んじて受けさせていただきます。 サンクトウス響く僧院鱧を焼く 秀人 特選:(h)かずひろ 逆選:敬子 (h)かずひろ:「異国情緒に満ちた夏の風景がリアルに思い浮かびます」と、こ の句を選んだのは、まだ肌寒いころでした。 敬子:気になる句ですが、キリスト教の僧と鱧の関係が良く分かりません。 秀人:祇園祭といえば鱧である。パルムといえば僧院である。コンビニといえ ばサンクスである。グレゴリア聖歌といえばキリエである。ヨーロッパの寒村 と日本の古都を結ぶのに17文字。世界は狭くなった。戦国時代に生まれた日 本のキリシタンも賛美歌を習ったようである。戦国時代の人が鱧を食べていた かどうかは定かではない。 てがふっとてがそっとてが梅の蔭 満月 特選:しんく 逆選:秋 逆選:一之 しんく:つっこみ句会では、「てが」のリフレインについての論争がありまし たが、私の場合「てが」の響きが東北弁のような気がして、そのリズム感がよ かったです。 秋:梅が迷惑するような、いやらしさが感じられて、こんなふざけたことは詩 ではない。 満月:この句をつくりながら阿波踊り(のまねごと)を3分間踊った。で、そ のままではあんまりだから<蔭>のいかがわしさ、こわさを採用した。そうし なければもうちょっとでどどいつになるところだった(さるところでしばらく どどいつを書いていた)。 雪女99%タンポン派 山口あずさ 特選:浜風 逆選:てっちゃん 逆選:主水 逆選:朝比古 浜風:空想の世界と現実の世界が混在していて、視点が面白いと思いました。 てっちゃん:意味が全然解らない。感覚的に下品である。 主水:私事でたいへん恐縮ですが、今日は誕生日なので貰って一番うれしくな いものを選ばさせていただきました。 朝比古:やはりこれは、私の感性では、俳句とも川柳とも現代詩とも認めるこ |
|||
とができなかった。決して言葉遊びが悪いわけではないが、遊びなら遊びとし ての心地よさが欲しい。 あずさ:雪女と赤い爪という句をどこぞで見て、つまらない対比だと思った。 どうせならもっと凄い赤と組み合わせてやる!と思い、かつて書いた句が< わたし、生理なの。雪女>というもの。この句からさらに発展させて、雪女 にタンポンを使ってもらいました。雪女界にもフェミニズムの嵐が吹き荒れ ている! 特選句 ぱんの木ぱんの木と書いて疲れをり 摩砂青 斗士:ひとつの人生観みたいなものを受け取った。しみじみしてしまった。 ぴえたくん:初見の時はものすごく好きでしたが、いま改めて拝見するとあま り衝撃が無くてびっくりしました。作者さまごめんなさい。 月朧眉だけやさしい男かな 室田洋子 あずさ:<眉だけやさしい>を本質的なやさしさと解釈する説も多かったが、 わたしは文字通り<だけ>と読んでしまった。だって<だけ>と書いてあるの だもの。 斗士:たたずまいのいい句。作者の心情がいろいろに読み取れて面白い。 洋子:私にとって初めての高点(8点)でびっくりしました。朝比古さんあり がとうございます。本当に眉しか優しくないのですよ。 逆縁の列に加わる春の旅 いしず あずさ:タナトス。 なみだ枯れ睫毛につもる雪やさし にゃんまげ あずさ:睫毛につもった雪はやがて溶け、また暖かい涙を流すのか。 書留が菜の花畑通り過ぐ 朝比古 あずさ:書留と言えば中身は現金。殺風景な感じのする郵便物が菜の花畑を やってくる。母からの送金? 朝比古:「書」の席題で作った句。自分ではGa行の韻が嫌い。また、中七に 「菜の花畑」と置くのも常套的。 みんな冬ひなたゴリラの影のほか またたぶ あずさ:日溜まりにいるゴリラくん。お日様を友として。 斗士:もっと大きな影のほうが、わかりやすさ明快さは出ると思う。でもあえ て「ゴリラ」の影にこだわる感じもわかる。 濁声のガイドもいたり神の河 林かんこ あずさ:神の河のガイド。もしかして、モーゼ? |
||
春雨や裸眼なりの愛し方 田中亜美 あずさ:裸眼の視力はどのくらいなのだろう。愛するに当たって相手をじろじ ろと観察する必要はない。ちょっとぼやけているくらいの方が深く愛せるかも。 亜美:眼鏡(がんきょう)は不便ですが、救いもある道具でした。コンタクト レンズはいろいろと無粋だと思います。 雪だるま右目も落ちてしまひけり 後藤一之 あずさ:東京の雪だるまはすぐに溶けてしまいます。 斗士:景の深さ。きっちりと出来ている句だと思います。 風花のあてもなくゆくものの背に 柚月まな あずさ:風花にはゆくあてなどない。ゆくあてのない人の背で溶けてなくなる ゆくあてのない風花。ちょいときれいすぎるか。 初夢やずぶ濡れのまま立ち尽くす ぴえた あずさ:改まった感じのしない新年である。 ぴえたくん:特選に選んでくださった方ありがとうm(__)m。「ずぶぬれのまま 立ち尽す」はあまりにもそのまますぎる、と反省中です。「初夢や」も何にで も置き換えられると思っています。ごめんなさい。 春は名のみの介護法静電気 秋 あずさ:介護法は春の到来を告げているのか、しかしなぜか静電気を含んでい るような。。。ちょっと表現が直截的過ぎたか。 秋:あまりに調子がいいものですからふざけて遊んでいるように取られてしま いましたが、介護法には、両親のこともありますし、自分自身のこととしても、 ピリピリしていまして、実感がありすぎるわけです。 冬晴れて猫が寝起きの上着柄 谷 あずさ:起きたら猫が上に乗っていた、というわけではないですね。猫の寝起 きのような上着柄なのかな? いったいどんな柄なんだ? 旅行鞄大きくあける月の下 満月 あずさ:鞄の中身は月に反応する何かなのか。 斗士:「月の下」が薄味かな、と思ってたけれど、旅の気分があざとくなく、ほ どよく出ているのかもしれない。 満月:<下>は一考の必要ありですね。みなさまご指摘の通り。わかってたん です。力量不足。うぅ。。 この雪の果てし無きほど鉄の海 いちたろう あずさ:鈍色の海。海に降る雪の悲壮。 斗士:「雪」と「鉄の海」との配合、素晴らしい。「果てし無きほど」にやや疑問。 |
|||
旅人のすれ違い続ける春障子 またたぶ あずさ:障子ってたしかにすれ違い。寂しいすれ違いを爽やかに詠んだ。 斗士:「春」が効いていると思う。 冥王星から書林書林昼寝覚む 秋 あずさ:<書林書林>とは、電磁波の一種なのかも。 秋:部屋に本をいっぱい散らかして昼寝してしまった時に出来た句です。 雪隠に駆け込む人の背鰭かな 中村安伸 あずさ:なぜ背鰭がと言ってもはじまらない。とにかく背鰭。雪隠と背鰭が響 き合う不思議を噛みしめたい。 陽炎を数える旅や老夫婦 宮崎斗士 あずさ:陽炎を数えるような一生を送って、今や老夫婦。羨ましい境地である。 斗士:そういえばうちの両親も老夫婦だよな。しょっちゅう二人でゴルフやっ てるけど。 春北風なぐり書きのようなあきらめ 室田洋子 あずさ:荒々しさを残した諦念。実は諦め切れていないのだね。 斗士:中七下五「なぐり書き」と「あきらめ」が近すぎるかな。 洋子:ようなが安直だったと思います。秋さんありがとうございます。 朧月まだ探偵が出てこない 千野 帽子 あずさ:まだかな、まだかな、というワクワクする感じがよく現れている。 <月朧>イコールミステリーのもやもやという気もしないではないが。 斗士:事件はすでに起こっているのか?! 帽子:この季語ではたしかに、作者が狙いたい軽薄さが出し切れていません。 もっとぺらぺらにしたかったので心残りです。 冬ざれの芯としてあり投手板 朝比古 あずさ:星飛雄馬がうさぎ飛びをした坂(だったりして)。 朝比古:今回選句リストにあげて頂いた、自分の句の中では最も好き。「とし てあり」の言い回しについては推敲の過程で大いに悩んだが、実力不足のた め、他の表現を見出すことが出来なかった。自分としては「冬ざれ」以外の季 語では成立しない句だと思っている。 茂吉忌です書類整理をいたします 満月 あずさ:青山脳病院院長の書類整理と読むべきか否か。。。 満月:これも斗士さんの<柚子置いて泉鏡花をはじめます>をなんとかやりた かった。ぜんっぜん違うじゃねーかっ。作者としてはモキチキという、もちつ きとチキチキバンバンを足して2で割った???みたいな妙な音感が離れなく |
||
なったので、それを使いたかったのです。なんで<書類整理>が出てきたんだ ろう。。たまたま自分がその必要を感じていたのかな(^^;←とにかくなんでも理 由にして仕事する人。 アボガドを切りながら雪松林 けん太 あずさ:<雪松>(ゆきまつ)は正月に立てる飾り松だそうな。雪の松林かと 思ったが、となると正月にアボカドを切っているということか。お節にカリ フォルニア巻き? 斗士:種に刃が当たった時、少し嫌な気分になる。「雪松林」絶妙。 けん太:「春の雪青菜ゆでていたる間も」細見綾子の句を意識しました。彼女 の句はあまりにも日常べったり。そこからどうやって離れていくか・・。アボ ガドは南の国の果物。松林へ降る雪。どうしても変な世界。でも、評でもあり ましたが松林の必然性が弱いです。 異人館十人十色の雪の熱 いしず あずさ:雪そのものの熱というよりも、雪を溶かす人の熱と読んだ。 後ろ手の麦踏の人栞にす 秋 あずさ:いつも同じ場所に同じ人がいる。懐かしい光景。 斗士:「後ろ手の麦踏の人」って確かに栞的な存在感。よくぞ持ってきた! 秋:最近は麦が植えられていませんが、以前はほとんど二毛作で、麦を植えて いました。小さい頃を懐かしく思い出して作った句です。 実朝忌うしろの正面誰だっ ぴえたくん あずさ:「っ」に思わずドキリ。 ぴえたくん:特選に選んでくださった方ありがとうm(__)m。これは自分でも 好きです。実朝さんはうしろからぐっさり刺されたのですが、ほんとはきっ! と振り返ってねめつけたかったのではないかしら? 寄せ書きのひとりひとりに椿かな 宮崎斗士 あずさ:寄せ書きを書いている瞬間って、一人異空間にいるような感覚にな る。そんな一瞬を捉えている。 斗士:寄せ書きって実はあんまり好きじゃない。ヘンにいい人になっちゃった りするから。まああとあとまで残るもんだからね。。 稟議書に判ふえてゆくホトトギス またたぶ あずさ:この判は、やはりめくら判でしょうね。 斗士:「判ふえてゆく」好フレーズ。「ホトトギス」もなんか可笑しくていい。 雪霏々と昭和の念寫實験に 千野 帽子 あずさ:昭和の昔感がたいへんよく現れている。 帽子:「雪」というお題はむずかしかった。 |
|||
倫理学吾が立つ位置の雪崩かな 足立隆 あずさ:アイデンティティ崩壊か? 斗士:これは自己批判しているのかな。 隆:雪の題で作ったものです。さいごの「かな」が全体を流してしまっていま す。「倫理学吾が立つ位置に雪崩して」のほうが流れないのではと。 水仙を言い河岸を別れけり 満月 あずさ:水仙を言うとはなんぞや? ナルキッソスの噂話か? 斗士:強引さが心地よい。内容もなんとなく伝わってくる感じ。 満月:若い方には「川岸」という言葉のある種の意味合いは一般的に通じない んでしょうねえ。。いや、若い方にかぎらず仏教や民間宗教的な部分を持たな い方には。そこを期待して書いたわけではないんですが全く意外でした。 雪催嘘つくための紅選ぶ 室田洋子 あずさ:女は嘘吐きだ。それがどうした。文句があるか。化粧していないわた しより、化粧しているわたしが好きなのは、あなた方でしょ? 洋子:陳腐、甘い、まんま本当にその通りです・・・けん太さんありがとうご ざいます。 旅路とは何ぞや猫の冬日向 二合半 あずさ:哲学的な猫。 菜の花や地獄極楽ひとり旅 林かんこ あずさ:地獄にも極楽にも同じ菜の花が咲いている。見る人次第なのかも。 ひな菊を書き殴り我れ傷害罪 いちたろう あずさ:描き殴りではないのですよね。 デンマークチョコレート買いに横浜へ 村山半信 あずさ:義理チョコならぬ義務チョコ。 菜の花の波の間に忘れ物 来夏 逆選:南天 南天:瞳うるうるの少女漫画の世界。 雪降るは静寂といふ音のこと 夜来香 逆選:一郎 とんびん:「こと」が説明的になって味わいがなくなるので、「音のする」とか 「の積む」といった、何かもう少し、感覚的なものを伴った表現にされたら良 かったのではないか、と思います。発想そのものは面白いの、おしいな、とお |
||
もいました。なんて、自分では全く作れませんので、みなさん作って、こうし てやってることだけでも凄い、と思います。 一郎:別にこの句がよくないというわけではなく、コメントしたくなったとい うことです。。「音のこと」というところに表現意欲を感じるのです。そこのと ころに、「雪降る」=「静寂」以上の何か屈折があると思うのですが、それが 見つけられなかった。 冬の旅まえもうしろもなかりけり 摩砂青 逆選:子壱 子壱:超特選句「雪降れば**」と逆の意味で逆撰しました。この句も冬を扱っ て居るのですが、雪国で一寸吹雪くと、前も後ろもなくなるのは当たり前で、 雪山や町外れの遭難の一大原因になります。やはり特別な惜辞を使ってはいな くて、内容で読ませる句と思いますが、その内容が余りに陳腐と感じました。 蛇穴を出づ没薬の苦き香 杉山薫 逆選:しんく しんく:満月さんも苦き香に、つっこんでましたが、生薬の味の分類からゆく と確かに苦なのですが、香りは、ほの甘い感じがします。と、たんなるあげあ しとりなので気になさらずに。搾るって漢字間違ってた人の言ってることだ し・・・。 余白に書き散らす時雨の恋文 来夏 逆選:あずさ あずさ:リズムの悪さが気になりました。切れが悪いとでもいいましょうか。 十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、春! 小島 けいじ 逆選:浜風 逆選:安伸 逆選:亜美 逆選:美代子 逆選:とんびん 逆選:知昭 とんびん: 発想は、悪くもないかも知れないけど、なんだかそのまんま、書い ちゃったって感じで、なんだかなー。 亜美:数字が定型にはまっているということへの着眼、および句作への実践そ のものは悪くない。意欲作だと思います。ただ、ここまでひっぱって最後に 「春」というのはちょっとあからさま(どぎつい「ハツラツ」かな)な感じが します。また、これは好みの問題かもしれませんが、読点および!も「ハツラ ツ」過剰で安易な感じがしました。 美代子:春=カウントダウン的発想に至るのはわかるが、筒井康隆の短歌(一、 二、三、四、五、六……)を思い出してしまってどうにもなりませんでした。 浜風:気持ちはよくわかりますが、私が詠うとすれば十、二、四、八、六、五、 九、一、七、三・・・はる。。。って感じですね。 知昭:もう少し絞ってみて下さい。 |
|||