2000年中期 青山俳句工場向上句会超特選大会

(非売品:売ってはいけない。)

今年2回目の超特選大会です。

第24-26までの3回分の句会から、特選句に選ばれたものを一覧にして、一句 のみ選出してもらいました。

工場長題はそれぞれ「猫」「樹」「球」。

一句題詠、一句自由詠として、それぞれの句会に二句つづ投句してもらったも のから選ばれた名句の数々、お楽しみください。

尚、青山俳句工場向上句会は、第30回(12月25日選句締め切り)を持ち まして、終了することとなりました。

第30回、最後の句会になりいます。ぜひご参加ください。

感想協力:宮崎斗士、Cygnus X-1、いしず、いちたろう、けん太、さにー、しんく、ぴえた、またたぶ、みずくらげ、古時計、五十嵐 秀彦、五島高資、合 歓、子壱、秋、小島けいじ、杉山薫、西島万里、千野 帽子、早川弘之、早川十三夜、足立 隆、中村 安伸、朝比古、天藤 志織、田中亜美、田中空音、田 島 健一、不見、夜来香、遊月、洋子、凌、てっちゃん、信時哲郎、yokot、はま お、白井健介、山口あずさ

全体的な感想

けん太:「説明的な俳句からの脱却」がたくさんあって、この句会はボクに刺 激をくれます。今回もいい句がいろいろあったのですが、好み優先に最後はな りました。悪しからず。

さにー:特選句会という言葉に引っ張られたわけではないと思うのですが、 全体的に引き締まった句が多いと感じました。当然1句選ぶのには苦労しま した。

Cygnus X-1:全体的に猫が多いですね。その中で「シュレーディンガーの猫…」 は、見事に私のツボをついてたんですが、いまいちグッとくるものがありませ んでした。俳句には猫がお手軽なんでしょうか?それともここの句会の傾向な んでしょうか?

ぴえた:< にんにくすりおろす国歌斉唱かな><球面の尖る猛暑となりにけ り><伯爵の猫伸び上がり夏に入る><ちちははに胡弓のごとく凪いでいる> < 国境は切手にまいで封鎖せよ><水遊び球ふくらんでいくように><縊死 の木か猫かしばらくわからない>この7句を超特選候補にしぼってから選びま した。開催時には選ばなかった句も、改めて拝見するとまた違った感想を持つ ものですね。(そんなに気まぐれではいけないのかもいれませんが)時間をお いて何度読み返しても色あせる事のない作品が生まれるといいですね。ありが とうございました。

みずくらげ:ことばの魔法、ことばの銀河、ことばの(たましい)、ことば のでたらめ。つい、手をのばして、おいおい、いいかげんにしてくれ、とぐ ちゃぐちゃにしてしまいたくなるような甘美で魅惑的な世界でいっぱい。わ たしもできるなら、このあやしい世界に身を投じて真摯で破廉恥な波にのま


れて溺れてしまえればどんなにしあわせだろう。

空音:その他に取りたかった句は、デッサン力のしっかりした「頬杖は黒猫 いっぴき飼っている」。言葉がひびきあって気持の良い「夜濯ぎや天球いよよ 騒がしく」。実景を実感あることばで切り取った「樹海よりぞろぞろ出たる裸 かな」。

薫:浮気な私にはたいへんな困難を伴う作業、それは選句。しかも超特選大会 では採り溢した句、ツバつけてたけど涙をのんで選しなかった句などが。犇め き合っているんです、毎回。苦しいッス。それから拙句を選してくださった皆 様、ありがとうございました。この場でまとめてお礼を。

健一:僕は、理不尽な句は好きです。全体的に、一見理不尽に見えて、何度か 読み直すと、作者の思考経路が見えてしまうような句が結構多かったです。 「切れ」が切れきれてないのかも知れません。「切れ」がもう少し鋭く切れれれ ば(れが多い?)、好きになれる句が結構あって、こころあらわられる(られ が多い?)思いがしました。しばらく、投句から遠ざかっていますが、とりあ えず感想まで。

弘之:一押しが無いのが残念。しいて揚げれば<なわとびに入りそこねて梅雨 といる>。

合歓:みなさんそれぞれの色と空気があって読んでいて楽しかったです。一句 だけ選句するのは大変でした。

志織:自分でもできるだけ句の幅を広くしようと努力しているけれど、正直 言って難しい句が多い。どちらかと言えば、言葉は平易で何度も読むうちに奥 の深さを感じる句に共鳴する。

十三夜:よい意味でも、悪い意味でも、青山工場らしい句が並んでいて、選句 に苦労しました。その中で超特選に選んだ<撒水車白き律動近づけり>は、新 鮮でもありました。相対的な選び方となったことは、やや否めません。 

朝比古: 1句選はやはり難しい。忍びない。でもやっぱり最後は「好きか嫌 いか」で選びました。

不見:難しい句ばかりでよくわからない。一般人向きではないですね。

帽子:超特選大会から逆選がなくなってよかったとおもいます。

凌:どの句を特選にしてもいいと思う句が30%ぐらいあった。しかし、特選 に推薦する理由とほぼおなじ割合で否定の理由も書けなくはない。いわば読み 手のスタンスのちょっとしたズレか、気まぐれによってどっちにでも転んでし まう句が多かった。もっとも私はそういうスリリングなところに立っている句 が好きではあります。

いちたろう:ぼくってこんな句しか作ってなかったっけ?と思ってしまいまし た。やはり恥ずかしいものです。破壊力のある俳句をつくるのは難しいです ね。ついつい子供っぽいインパクトのありそうな語をつかってしまって失敗し ます。ほんとうは「構造」こそが効果を生むのですが。どんな感覚でも芸術に までもっていくのは難しいものですね。

健介:次回の「超特選」大会には自分の句がもっとエントリーされているよう にしたいですね。でも難しいんですよねぇ…なかなか、私の句を特選に採って もらうのって…。それはともかく、魅力的な句がいくつもありますから、敢え て一句選ぶとなると“いまの気分”に大きく左右されますね。


超特選5点句

初夏のいちにち魚になる呪文   杉山薫

空音 古時計 万里 遊月 健介

万里:なぜか好きです。

遊月:一生魚やるのはつらいけど、いちにちだけ魚になれるのなら、そんな呪 文教えてほしい。というわけで選びました。

古時計:前回も選んだのかな、今回改めて詠んでみるとやさしい疲れが心地い いという思いです。

健介:一覧を見て改めて選をしたところ、いまの私はこの句にいちばん惹かれ るということでした。讃。

空音:特選にとっておいて言うのも何ですが、魚の前に3文字の形容詞をつけ てもらうと私にはリズムが安定するのですが、赤い、黒い、沼の、、、これは作 者じゃないとできません、その時の感じですから。季節感、アミニズム、時の 感覚などが出ていて良いと思いました。

はまお:これも好き。

薫:「初夏」も「魚」も、2通りに読める、ことに今気づいた。たくさんの方 に採っていただきありがとうございました。

超特選4点句

ふたりのことは、噴水の高さで計れ。   千野帽子

いちたろう 志織 夜来香 yokot

yokot:シンプルで力強くて印象的.(だって1回ざーっと全部見た次の日,あ たまに残っててなんだっけこれ?とかおもった.)命令形がいさぎいい!きも ちいい.あーさばさば。

いちたろう:シンプルな構造にひかれます。最近仕事が暗礁に乗り上げて悶々 としていますので。「ふたり」は縦棒2本、「噴水」は縦棒1本(だけど上向き ベクトル)、「計れ」と述べる人が「ふたり」の横方向から気持ちを向ける。「ふ たり」はやっぱり噴水みたいに上向きベクトルなんでしょうね。幸せになって もらいたいものです。

夜来香:はじめてこの句を読んだときにもはっとしました。ぐちゃぐちゃした 恋愛をしている人を見るとうっとおしい。そのことを代弁してくれていて気持 ちがいい。以前はこの句読点がいらないのでは?と思いましたが、今はある種 の意志を感じる。

志織:何を計るのかはっきり言っていないけれど、何か不思議ないさぎよさが ある。散文のようで、見事に言い切ったところに意外な韻律も生まれていて、 とても真似できない作品だと思う。

またたぶ:チノボーさんにとっては得意な分野のネタではないのかと憶測しま すが(それとも恋愛以外の「ふたり」なのか)、これからロマンス系?俳句を 詠みたくなったら、必ず振り返って指針としたい(されたい)句と思います。 にしても、「、」は要りますかねえ、未だに疑問です。


超特選3点句

球面の尖る猛暑となりにけり   中村安伸

いしず しんく 薫

薫:たくさん好きな句はあったのですが、今回はこの句に謹呈。「なりにけり」 という、もったいない5文字をこれじゃなくっちゃぁと思わせてくれる句は、 そうない。漢字とひらかなのバランスも最良。

しんく:比喩が良い。映像的な一句。

超特選2点句

憂鬱な樹果のジャムなら嘗めてみる   ぴえたくん

さにー 秋

さにー:ジャムは好きではないけれど、このジャムならやっぱり嘗めてみたい と思いました。決して甘くはなさそう。

秋:憂鬱らしくなくて、さらっとした感触が新鮮でよかった。現代の憂鬱は結 構こんな感じかもしれない。奇を狙っているだけではないように思う。

ぴえた:選んで下さってありがとうございます。意外にも擬人法と受け留めて コメントされている方があり、驚きでした。酸性の土壌でしか実らないブルー ベリーなら憂鬱な樹果にあたるでしょうか。

撒水車白き律動近づけり   朝比古

十三夜 隆

十三夜:何気なさ過ぎる日常だが、ここにあって、余りの清々しさに、選ばざ るを得ませんでした。散水車から捲かれ出る水を「白き律動」と表現するとは、 その発想力に拍手拍手。

朝比古:あまり自分では好きじゃない。「白き律動」が自己陶酔的なので。座 五は推敲の末、この表現となった。あまり捻ると尚更嫌味になると思ったの で・・・。

国境は切手にまいで封鎖せよ   凌

またたぶ 合歓

合歓:国境と封鎖プラス命令口調のバランスとリズムが良いです。重さを感じ させる内容を切手2枚で解決しようという発想も面白いです。しかし、これを 地図上の話に置き換えると、話はガラッと変わり、例えば地図上では国境は切 手で簡単に封鎖できる訳で、小さな国などは切手一枚で領土全てを覆う事だっ てできます。そう考えると、これから行われようとしている血生臭い計画が連 想されます。それに切手がどこの国のものであるかも気になります。言葉一つ 一つがインパクトを持ちお互い邪魔にもならずに組み立てられていて、一度聞 いたら覚えてしまうという素晴らしい俳句だと思いました。でも「二枚」とせ ずに「にまい」とした所、何かあるのでしょうか・・・?

またたぶ:清新でいて、含蓄がある。(作者を確認せずに書いてます、すみません)


バナナの樹ふかき傷あり虚空津彦(そらつひこ)   秀人

Cygnus X-1 洋子

洋子:虚空津彦(そらつひこ)この言葉よくわからないのですが、なぜかとて も惹かれます。

Cygnus X-1:色彩感覚が気に入った。「バナナ」で黄色、「そら」でブルーを連 想した。リストのページの背景色の影響もあったかも(^_^;。バナナは樹じゃな いと聞いたことがあるが、心地よいので樹でもいい。「虚空津彦」って最初見 たとき「攝津幸彦」かと思った(別にファンじゃないけど)。トロピカルムー ドなんだけど、「ふかき傷」で陰影が感じられた。「虚空津彦」って誰か知らな いけど、人間じゃなさそう。なんとなく精霊っぽいところに、透明感を感じる。

帰したくなくて夜店の燃えさうな   千野帽子

みずくらげ 安伸

みずくらげ:わたしだって帰りたくはないのです。しかし、人妻の身のわたし としたら、夜店が燃えさうなのだから、やはり帰らなくてはいけない。つらい つらい別れです。さあ、夜店が燃え尽きて無残なすがたを晒す前に帰りましょ う。さようなら、あなた。「燃えさうな」このことばの持つ臨場感、只者では ない。男女の機微を知り尽くした曲者だろう。もしかして、純情可憐なたんな るおセンチのなせるわざだったとしても……やはり、素晴らしい。

亜美:準特撰。韻律の傾ぎが、痛くてあまい。

猫車横転寺山修司の忌   朝比古

健一 秀彦

健一:この句がいちばん理を切っていると思いました。「猫車横転」がよいで すね。この場合の寺山修司は効いていると思います。もちろん、別の人物名で、 別の句にできる可能性は残っているとは思いますが、この句はこの句の世界と して、完成(完結)していると思います。

秀彦:確かに「猫車」と寺山修司とは通底している。しかも横転している。そ の通り。

朝比古:「車」の御題で作句。この句は瞬間的にできた。私にとっては「寺山 修司の忌」であり、「修司忌」ではない。理由は解らないが・・・。

超特選1点句

フリージア寡黙な家をかけぬける   古時計

はまお

はまお:家中の怖いくらいの静けさ加減と、フリージアの存在感が「バッ」と 映像で浮かびました。

洋子:とても好きな句です。フリージアのやわらかくすらりとした姿がかけぬ けるによく合うとおもいます。


炎天や通過の駅で球が跳ね   けん太

斗士

斗士:僕の特選句「フリージア」「炎天や」「樹海より」の中で、これが一番好 きだった。

けん太:「球」に寄りかかってしまった句ですね。言葉も流れなくて。もう少 し吟味をします。でも選句いただいた方、ありがとう。

草いきれオヤ臨月の爬虫類   後藤一之

あずさ

あずさ:語調の良さに惹かれた。

歌舞伎町白刃だけが涙色   いちたろう

帽子

帽子:俗情と結託するなら、行くところまで行け、という見本。ちょっとでも 中途半端な結託ならしないほうがいい。この句を見習いたい。

にんにくすりおろす国歌斉唱かな   宮崎斗士

凌:「にんにくすりおろす」ことと「国歌斉唱かな」のあいだには何の因果関 係もない(あるのかも知れない)。しかし、たとえば二物衝撃とか、意味性、あ るいは無意味性の何かを生むという企みも見えない。それでいて言葉の流れに 違和感がない。それぞれ別の二つの状況を一つに提示することによって、そこ に風刺あるいは批評する作者の位置が示されている、と読んだ。多分前にはこ の句を素通りしていたはずですが、それは私が言葉を求めすぎていたからだと 思う。

ひな壇や舌よく曲がるあくび猫   子壱

てっちゃん

てっちゃん:余りいいのがなかったから。月並みだけど。

子壱:この句は最初は特別な意図で作ったものではありません。猫の欠伸の様 子を見て本当に良く曲がった舌でしたので、「これくらい曲がると気持ち良い だろうな」と感じた次第です。中七が最初に浮かび、あくび猫(余り芸がない と言われましたが)で良いかなと。投句するまでに上五を悩みまして、結局、 国会中継などちらと見ながら一寸皮肉にして見ました。

伯爵の猫伸び上がり夏に入る   またたぶ

朝比古

朝比古:「瀟洒」な句。この猫は黒に違いない。「伯爵」の音感が好き。


ちちははに胡弓のごとく凪いでいる   宮崎斗士

ぴえたくん

ぴえたくん:父母に対する子の抵抗(悪い意味ではなく)や切り離し様の無い 絆が、弦楽器の弾力を持って語られていると感じます。父母に凪ぐと言う表現 も、表には出さない子(男子らしい)の愛情表現として頷けます。

鉄球で砕かなければ秋は来ない   南天

けいじ

けいじ:言葉が持つ破壊力。そこに強い表現を沿えて。今になって、とても惹 かれる句です。

なわとびに入りそこねて梅雨といる   けん太

弘之

弘之:カタルシスに到達出来そうで出来無い不快感を、季感に重ねた所が、お 手柄。どこか懐かしく、どこか孤独な異空間に迷い込んだのは、どこの誰!?

けん太:この句は自分でも気に入っている句です。そんな句って1年に何句も できませんよね。大事にしたいと思っています。「梅雨といる」が少しぞんざ いな感じもしますが。

ニッポンを水母のように刺す琉球   ぴえたくん

一之

斗士:やや説明的だが「水母」は効いているのでは。

シュレーディンガーの猫が大きくなりました(当社比) 千野帽子

高資

高資:うーん。散文のようで韻文。 死んでるようで生きている。とにかく「切れ」が効いていて面白い。

時計屋の正しい時間しゃぼん玉   またたぶ

子壱

子壱:<なわとびに入りそこねて梅雨といる>とどちらか悩みましたが、こち らを特選としました。措辞に特別奇をてらった所はないのですが、全体として 何かうまく出来ていて、下五とのマッチングが良く、気に入りました。

弘之:次点候補。句のプロポーションに均衡の良さを感じるも、上五、中七、 下五と、眼目が3つもあっては、散漫。

十三夜:「時計屋の正しい時間」という、これ以上はないぐらい規則正しい絶 対的なものが、実はしゃぼん玉のごとき、実態なきものであるという、「時」の 両面を描いているように思われ、うまい表現だなと。


樹海よりぞろぞろ出たる裸かな   後藤一之

不見

不見:現実と非現実のど真ん中にある句だと思いました。まいりました。

猫の舌ひろってあるく春の昼   村山半信

けん太

けん太:「春の昼」の無駄さ加減が伝わってきて好きです。「猫の舌」をひろっ てどうするんでしょう。説明的でないのがいいな。

ががんぼや樹まりこのカレンダー   朝比古

哲郎

哲郎:そんな名前の人がいましたね、たしか。名も知らぬ町を、夜中に一人で 一杯やるための酒を買いにふらふら歩いて、コンビニに転身するというような 才覚も度胸もなかった酒屋にはいって「トリスウヰスキー」なんぞを買う時、 レジの脇にもう十年近くも貼ってある樹まりこのカレンダーがある、というの はいかにもありそうなことです。

朝比古:「樹」の御題で作句。彼女は確かに一介のAV女優でありますが、他 の女優に見られる悲壮感や媚びた感じ、拝金主義的な立ち居振舞いも無く、も しかしたら本当に天職としてAV女優をやっているのでは・・・と思わせる稀 有な女優さんでありました。「ががんぼ」の浮遊感と哀感が僕の彼女に対する 思いの一端であります。

縊死の木か猫かしばらくわからない   凌

亜美

亜美:「縊死の木」はやっぱり凄い。私事ですが、現在「縊死の木」について ろんぶんを書いてます。でも全然よく書けない。このままでは、猫の次は私な のかも。

特選句

月食に眼球を水洗いして嵌める   風子

十三夜:例の月蝕を見た後では、こんな気持ちにもなるぞ、あんな赤銅色の眼 球がコレクションに欲しいぞという気分が強まる1句。

あずさ:『ドグラ・マグラ』的禍々しさがいい。

はじめての空蝉を持ちわが樹齢   宮崎斗士

弘之:次点候補。「実相的無常」を良しとするも、俳句として肉付の無さが欠 点。

あずさ:まだ若い樹なのだろう。空蝉の予感は初々しくそしてちょっぴり恐ろ しい。


春昼や地球最後のクラス会   山口あずさ

あずさ:夏にミニクラス会があった。いまはまだみんな元気で生きているけれ ども、そのうち一人欠け二人欠けするのだろう。ふと、地球最後のというフ レーズが浮かんだ。これから皆に会うというのに。。。縁起でもない一句。

朧夜や猫を抱く膝UFOめく   秋

あずさ:猫の想念とともにわたしの膝もどこか遠くへ飛んでゆく。

パン生地の眠るさなかを猫の恋   白井健介

あずさ:パン生地が発酵しているさなかに、猫は発情しているということなの だが、なんともほほえましい句である。

健介:内容的には平明な句ですし、改めて自解する要もないでしょう。採って くださった方々に深く感謝いたします。それ程まで評価して戴ける句とは思っ ていなかったので嬉しいです。

樹の上に眼球いくつ走り梅雨   満月

あずさ:まだ緑が青々している。雲が立ちこめて薄暗くなる。誰かに見られて いるような気がする。

蝮剥く力残して河原住み   いしず

斗士:「残して」に滋味あり。「河原住み」がそのまま過ぎるかも。

谷底へ猫の爪痕1000m   いちたろう

合歓:いいですね。トムとジェリーや、Tweetyを狙って失敗する情けない猫の キャラが浮かんできて笑っちゃいました。こういうこと私にもよくあります。 (涙)

あずさ:うぎゃにゃーーーーーーーーー。とでも鳴くのだろうか。

春風に吹かれて猫の勇み足   さにー

あずさ:猫は何をしようとしていたのだろう? 春風だからやっぱり恋かな。

さにー:「やっちまったー」って感じの、恋の句です。

湯上りの姉妹卯の花腐しをり   ぴえたくん

斗士:「卯の花腐し」ほどよい効き。

ぴえたくん:選んで下さってありがとうございます。季語の「卯の花腐し」が 大好きで詠みました。お花が腐るほどの長雨が喜ばれたはずもなく、かといっ て、五月雨のさわやかさ懐かしさも捨て難い「卯の花腐し」の雨への複雑な視 線が出せないかな、と思ったのですが、湯上りの女性のむんむんお色気に脱線 しちゃいました。


電柱に「仔猫あげます」麦の秋   ももこ

あずさ:ほのぼの。ちなみに、仔猫は春の季語で、麦秋は夏の季語らしい。と いうことは、もらい手がなかなか決まらなかった猫なのかも。

頬杖は黒猫いっぴき飼っている   宮崎斗士

あずさ:黒猫は知的に見える。頬杖の主の悩みはちょいと難題かも。

まひるまのサルスベリィ・ヒル百日紅   主水

あずさ:何度見ても駄洒落のような気がする。ところで、サルスベリィ・ヒルっ て、ほんとにあるの?

土曜日のミラーボールという運河   中村安伸

斗士:ミラーボールの光の流れを「運河」とたとえたか?まさに土曜日の感覚。

夜の水橋上まで来てはやく来て   南天

あずさ:夜の水は焦燥感を煽る。なにか切迫した感じのする句。

面倒だから柩はもとの樹に戻る   凌

十三夜:棺だって面倒で木に戻れるなら、人間もちゃんと土に戻りましょう。 でも、生半可な人生では、それさえも危ういか。

あずさ:何が面倒なのかはよくわからないが、投げやりな感じがうまく決まっ ている。

日焼してもうぎんぎんの占ひ師   しんく

斗士:想像すると可笑しい。

しんく:海の家の裏で開業していた占い師、そんな光景を見てふと出来た一句 です。

夜濯ぎや天球いよよ騒がしく   満月

あずさ:もしかすると天の川でも洗濯しているのかも。気持ちのいい句。

新樹に棲む小綺麗な嫉妬心   古時計

あずさ:新婚家庭のささいな焼き餅事件か。ちょっと嬉しいくらいの嫉妬。

傷ついた真似が得意な蝸牛   小島けいじ

あずさ:蝸牛は鬱っぽい印象を与える。雨のときに出てくるせいか。それにし ても、蝸牛、もう何年も見ていないような気がする。東京の蝸牛は絶滅寸前な のか。テーブルの上のエスカルゴ以外には、とんとお目にかからない。


樹冠では昨日の宇宙干されている   満月

斗士:おおらかな一句。「昨日の宇宙」というフレーズがいい。

皮一枚剥がして眠る朧月   さにー

斗士:「羊たちの沈黙」的な世界。

さにー:昼間繕っていた表情を素に戻して眠る、といった感じです。満月の夜 に変身する狼男とは、逆のニュアンスです。

樹下にゐて白痴迫真の笑ひ   山口あずさ

斗士:「樹下にゐて」が薄味だけど、そこがいいと言う人もいると思う。

あずさ:舞踏家を思い浮かべて詠んだ一句。

ぱらそるにわがままな耳ついている   古時計

斗士:やはり好きな句。情景とその雰囲気が伝わってくる。

打水や看板蒼き武藤歯科   朝比古

あずさ:武藤歯科は、きっと名医なのだろう。そんな気がする。

朝比古:私宅の3軒先に「武藤歯科」があり、その看板は確かに「蒼く」、実 際に「打水」してあったという、全くの報告句です。でも、そんな作り方結構 好きなんですよねェ。

完熟の人形しぼるように鳴く   満月

斗士:「完熟の人形」は膨らみのある措辞。

水遊び球ふくらんでいくように   宮崎斗士

あずさ:無重力の場所でだったら、雪合戦ならぬ、水合戦ができるのだろう か?

思いとどまれば修正液の桜花   室田洋子

あずさ:桜の花びらが散って道路を覆い隠すように、消してしまいたい何か。 修正液で消したのは涙だったかも。

洋子:花桜が好きです。満開の桜を見ているとあまりにきれいでなにか悲し く、切なくなりなす。