第5回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

第5回向上句会選句結果です。さて、1998年上半期終了。超特選を選びます。山口は援助交際(※言説)にはまりかなり憔悴しております。が、それはそれ、選句結果をお送りします。

向上句会とりまとめ:山口あずさ@援助交際はあなたの恋に傷がつきます


投句:さとう りえ、やんま、案山子、松山けん太、村井秋、田島 健一、北山建穂、満月、岡村知昭、桑原しん、西村光一郎、足立隆、一之、大石雄鬼(豆の木)、白井健介、中村安伸、木村ゆかり、宮崎斗士、千野帽子、山口あずさ、(以上6名、青山俳句工場)


全体的な感想

満月:いろいろな傾向があって楽しいですね。初心者の方も多いように見えますが、これからそれぞれが、ある方向に矯められることなく、独自の詩境を開いていかれればいいなあと思っています。そのためもっと熾烈な意見交換があってもいいのでは?

やんま::娘遍路の清い瞳が忘れられない人は誰あれ。

けん太:今回は若々しい素直な句をたくさん読ませていただきまして、ありがとうの気分です。手練手管もいいけれど、たまには心洗われるような新鮮さもいいですね。今回はそんな気分に押されながら青春性みたいなものをテーマに選句をしました。

健一:KANSO:抽象的な句が多いですね。

知昭:作品は…やっぱりいろいろバラエティに富んで楽しませてもらいました。

隆:今回は粒揃い、というかとび抜けて良いもの悪いものがなく選は難しかった。だから10句位は同じという感じでした。

健介:“計らいを見せぬように仕組まれた技巧というものも含めて”シンプル・イズ・ベストなインパクトというのを改めて認識いたしますです、ハイ。

帽子:3回目の投句です。次回は上半期グランドチャンピオン大会とのこと。つまり今回は上半期最後の投句だったんですね。なのに弱っちい句しか出せず悔しいです。


8点句

蝶哭くやさらじゅりんさらさらじゅりん   満月

特選:ゆかり 特選:建穂 特選:秋 特選:やんま/逆選:帽子 
やんま:実写・破調を乗り越えて、この詩情(ポエム)こそ青山工房の魅力。
ゆかり:蝶は「さらじゅりん」と哭くのか。そういう感じ、します。なによりも語感が好きです。涼めそうな句。
建穂:『さらさらじゅりんさらじゅりん』の語の響きに心惹かれました。非常にメルヘン的な句。
秋:蝶を哭かせるとこう鳴くのかも知れないと思った。幻想的で美しい。
健介:如何に鑑賞すべきなのでしょう?
帽子:媚びを感じたので逆選。ごめんなさい。


7点句

芍薬にかこまれている不登校   宮崎斗士

りえ けん太 秋 あずさ 雄鬼 健一 満月 
満月:芍薬の頃の、まわりの急ぎ足へのあせりのような感じと、逆に別世界にぬけている感じ。芍薬は薬だが、花の毒−アヘンのケシを連想してしまった。
りえ:芍薬がきいている。昔は登校拒否って言ったっけね。
けん太:ポイントは芍薬ですよね。私は内にこもる不快感?に着目しました。
健一:不登校だけだとちょっと言葉足らずな感じがしましたが、よいと思います。
雄鬼:芍薬の根は薬用だそうだが、その薬という字によって、不登校に対する温かい目を感じる。
秋:偏差値教育の中では不登校になるのは分かる気がする。そうすると、心配をした色んな人に囲まれることになるのでしょう。
帽子:「不凍港」だったらよかったのに。絵づらもきれいだし。というのは冗談で、不登校が芍薬に囲まれているとはなにやら切実である。この句を作った人はデキる人だと思います。

ウェイトレスときどきこちら向く日永   田島 健一

特選:健介/りえ 隆 あずさ やんま 伸 
満月:タッソー蝋人形館の住人が、一時間に一回動く人形風パフォーマンスをしているような。人間の死に絶えた光景のよう。究極のつまらなさと不気味さが混在。
あずさ:ずっと見つめていたのね。
やんま:その日永、ウエイトレスを気にして座り続けている男がいた。
りえ:昔、ウェイトレスの名札を暗記して「**さん呼ぼうか」などと言っていた奴がいたことを思い出した。あまり見られるとどきどきしちゃうのは女も同じだ。
伸:かなりの時間この店でねばっていたのでしょうか。
健介:「ときどきこちら向く」のが分かるキミはその「ウェイトレス」を然り気なくずっと目で追っているんだね。なんだか向こうもこっちが気になっているみたいだし…旨くいくといいですね。でもちょっと待てよ…ただ単に気味悪がられてるとか、長居を迷惑がられてるっていうんじゃないだろうねぇ…まっ、イイカ。(アンナミラーズ?)
帽子:十代のころ好きだった「はにわちゃん」というバンド(解散。いまも好き)の「ウェイトレス」という歌(「♪十二時から一時までのわたしの頭の中身はほとんど真っ白け」)とは正反対。ちょっとヒマそうな店、少なくともヒマな時間帯って感じですね。ウェイトレスさんのお仕着せもかわいくてgood! と『地球の歩き方』してみた。


6点句

消しゴムの匂ひが好きで五月病   白井健介

けん太 建穂 斗士 健一 やんま 一之 
満月:ケシゴムフェチ。。。またの名をマタタビネコ?
やんま:消しては書いてまた消して、何を憂うる五月病。
けん太:最近はいろんな消しゴムがありますよね。勉強好きの学生がかかるのが五月病。ボクには無縁でした。
健一:ちょっと、このパターンはあるかなと思いましたが、よいと思います。
斗士:五月雨の複雑さが際立つ。
帽子:うわー、やだなーこのシチュエーション。句自体は好きだが。

天使魚をのせて深夜のバイク便   千野帽子

特選:雄鬼/りえ 知昭 健一 伸 
りえ:好みの映像。
健一:天使魚とバイク便がよいと思います。深夜はなくてもよいとおもいました。
雄鬼:深夜のバイク便というとてもリアルな感じと、天使魚という美しさがよいです。仕事人によって、どこかへ幸せが運ばれていく感じ。
知昭:単純な構図でできていますが、そのことがまるで一句を都会のおとぎ話みたいにしているのが不思議。
秋:天使魚って何かしら?
伸:天使魚の安否を気づかいます。
健介:この「天使魚」の行く末がおおいに心配なところ。


5点句

裸子のまはしてゐたる天球儀   大石雄鬼

りえ 健介 隆 知昭 健一 
りえ:舌触りのいい句だ。
健一:余計なことを言っていないのでよいと思います。裸子という言葉は古い感じがします。
知昭:構図の面白さを素直に受け取りました。
健介:地球儀だったら採れないが「天球儀」が佳い。「裸子」さん“おいた”は程々にね。
帽子:なにやら寓意的。狙いすぎていないのでイヤミではないと思います。

青インクまだ思い出を飲みこめない   さとう りえ

けん太 建穂 斗士 光一郎 やんま 
満月:青血病(アオチビョウ)になる前にインク飲むのやめようね。
あずさ:ラストエンペラーで皇帝溥儀は自分が未だ皇帝の座にいることを示すため家来にインクを飲むことを命じた。飲めと言われても飲めないものもある。
やんま:これといって特記することも無く過ぎ去った初恋、しかし、いっときずっしりと重たくなる。
けん太:青春ってこんな不消化な時期なのですよね。青インクがとても印象的です。
建穂:一見ありがちな句のようにも思えますが、青インクが生きていたのでとりました。
斗士:別れの手紙か。「思い出を飲みこめない」の哀切。
秋:もう少し乾かして欲しい。
健介:そっとしといてやろうじゃないか。
帽子:そのインクで飲み下しちゃえば?

空炊きのからだでのぞく山椒魚   大石雄鬼

特選:安伸 特選:斗士/光一郎 
安伸:山椒魚の触感、質感、色などを、「空炊き」というまったくかけはなれたものを持ってきて、表現した感覚に脱帽しました。「からだ」音の重なりも効果的です。
斗士:山椒魚の存在感と「空炊き」との対比がうまく決まった。きちんと「自分」を表しているところがよい。
秋:これは自虐なのか?よく分かりませんでした。
健介:“言葉遊び”以上の要素を読み切れなかったので…
帽子:正しくは空「焚」きでは?

噴水が気になっただけのいちにち   千野帽子

けん太 秋 知昭 やんま 伸 
あずさ:映画「無能の人」でぷっとおならをするシーンが2回出てきた。何も映画の中で2回もおならの音を聞かされなくてもいいとわたしは思ったが、この句もぷっとおながら出ただけの一日と何も変わらないように思う。
やんま:かたかなで書く平凡な「いちにち」の、その安らぎのすばらしさ。そのときにはわからない。
けん太:少し歳をとっても、青春を感じるときってあります。そんなとまどいが出ています。
知昭:生活の中のほんの小さな違和感を小さなまま出していて、句を大きくしています。
秋:少しもの足りない気はしましたが、よく分かるのでいたたきました。
伸:「庭少し踏みて元日暮れにけり」てな句を思い出しますが、同感できる句です。
健介:(私には)何かひと味足りない感じがしました。

涙腺が強いとロバに乗れません   岡村知昭

特選:あずさ/建穂 安伸 斗士  
あずさ:この因果関係は凄い。
安伸:僕たちがロバに対して抱いている、童話的なイメージを、強い言い方で喚起してくれます。
建穂:そうなのか……
斗士:ロバって、確かに「悲しみ」を含んでいる。
帽子:涙腺に強弱があったなんて。

あわあわと鬼である日のけだるさよ   満月

特選:一之/ゆかり けん太 帽子 
けん太:私の好きな世界。この鬼には本気が入っていませんよね。チョット軽い。あわあわとが逃げになっていませんか。
ゆかり:ちょっと湿っぽい感じがしますが、けっこう好きです。けだるいというのがよいですね。
帽子:今回「今夜も哺乳類」だったり「ときどきは樹木でい」たりする句もあったけど、オーソドックスな句を選びました。上五が「あわあわと」なのでこの下五はややくどいか。

子を叱る蜘蛛の巣破ったかも知れぬ   村井秋

建穂 知昭 やんま 一之 満月 
満月:微妙な感覚を蜘蛛の巣破るでよく表している。川柳的に現実側に世界が置かれている印象。「叱る」で原因となった特定の個人的行動を説明してしまったせいか。〈梅雨雲よ蜘蛛の巣破ったかもしれぬ〉などでは?
やんま:蜘蛛でよし。そのきんきん声、亭主には向けられたくない。
知昭:子供を強く叱った親が感じる恐れ、おののき。共感する人は多いでしょうね。
健介:「かも知れぬ」で叱ったらアカンっちゅ〜ねん。
帽子:「かもしれぬ」で終わる句は作ったことなくて、作ってみたいと思っています。でもこの句のような感じでは作れないだろうなあ。上五とそれ以後のバラケ具合がちょうどいい。

蒲公英や 地球は狭くなりました   北山建穂

特選:健一/りえ 秋 健介  
りえ:そうですね。たんぽぽにとっては死活問題か。
健一:蒲公英の群れて咲いている感じがよく出ていると思いました。「地球は狭くなりました」が大袈裟な感じがしなくていいと思います。
知昭:眼と頭では狭くなって、体では狭くなっていないのではと思いますが。
秋:日本たんぽぽは希少になってしまった。
健介:「蒲公英や」にとどめて“蒲公英の絮”への連想にワンクッション置いたのが良かった。以下を口語表現にしたのも好いと思う。
帽子:たんぽぽという季語というかことばがとても好きで、好きだからか句が作れない。そんな帽子から見て、この句はそれほどたんぽぽという語に思い入れのない人が作ったものと思われます。いい悪いではなく、それくらいでないと句にはならないものですね。としみじみしてみた。

ときどきは樹木でいます午後三時   満月

ゆかり けん太 秋 安伸 隆 
けん太:誰もが樹木でいたいと考えることがありますよね。これはどんな樹木でいたいのか不明ですが、なんとなく安心感があります。
ゆかり:私も樹木になりたい。
安伸:午後三時というのは特別な時刻です。「ときどきは」樹木と同化していると感じられる。もちろんそれは理想ではありますが。
秋:樹木でいるというのが分かるようで分からないのに何となくいい様に思います。
帽子:下五が音数合わせではないかと思われます。ただ無季にしたかった気持ちはわかるような気がする。

ふきのたうひらがなでかくふらんすご   木村ゆかり

特選:満月/雄鬼 健一 伸/逆選:隆 
満月:全かな書きが効果を上げている。でもフランス語ってひらがなで書くのが不可能な気も・・・そこがふきのとうなのか`('−')´
健一:よくあるパターンで、ちょっと作為がみえているのですが、わかりやすいです。よいと思います。
雄鬼:フランス語をひらがなで書くと、とっても美しそうですね。
伸:れんぞくくうちょうろかしすてむ。とれびあん。
あずさ:「じゅ・てーむ」
健介:「ひらがなでかく○○○」という発想の句は割と多いようなので、いま一歩のプラスαが欲しい気がします。
帽子:「ふきのと」をフランス語で書くとfou qui note。意味は「書き取る狂人」。俳人=俳人説を裏付ける証拠か。


4点句

騙し絵に垂れしアイスクリームかな   大石雄鬼

特選:伸/斗士 一之 
斗士:異世界に、溶けたアイスクリームが絶妙な現実感。
伸:このアイスクリームも騙し絵の一部なのかもしれぬ。
健介:リズムがいまいち好くないためか、「かな」止めがうまく利いていない。
帽子:ちゃんと十七音あるのに一音足りないような気がしてしまう句。けっこう好き。

電話での声は低音明易し   桑原しん

りえ 健介 隆 一之 
あずさ:フランク永井。
りえ:音的にちょっと気になるが。
知昭:こういう句、ありそでなさそで、うーん。
健介:“電話での声がいい”と評判の男を知っております。彼は「オレは電話の声でイカせる」などとうそぶいております。「明易し」…まあ旨くやってください。
帽子:「での」でいいのでしょうか。季語ははじめ合ってないと思ったけど、いやいや待てよ、この季語の選択は捨てがたい。かなり微妙なとこ狙って作った句ですね。

薔薇水を鼻に注がれ古典主義   中村安伸

ゆかり けん太 秋 帽子 
ゆかり:エロスがあると思いました。ロココ調のSMって感じでよいと思います。
秋:古典主義の例えがとてもユニーク、語調が悪いが内容がよくていただいた。
帽子:しりあがり寿『おらあロココだ!』を思い出したので。

げぢげぢの腹を見てゐるステンレス   一之

特選:知昭/安伸 健介/逆選:ゆかり 
ゆかり:ステンレスをはいまわっているげぢげぢという状況を思い浮かべました。それを「ステンレスがげちげちの腹を見ている」と表現するのは、理屈が勝っていると思いました。
あずさ:食欲減退。
安伸:無機質な物質としてのステンレスを主役にしたのが新鮮でした。
知昭:ステンレスの銀色全てが眼なんでしょうか。視点を逆転させるだけでこんなに世界は面白くなるのか…。
健介:一読した感じでは内容が分かり難かったが(鏡に映る時とはまた違った感じで)「ステンレス」に映っている「げぢげぢの腹」を「見てゐる」作者な訳ですね。
帽子:「ゐる」で切れているののかどうか不明。


3点句

蛇(くちなは)とすれ違ひたる雷魚かな   一之

健介 帽子 伸 
伸:素十の句に「雷魚殖ゆ公魚などは悲しからん」というのがありますが、蛇と雷魚ではやはり蛇に軍配があがるのでしょうか。
健介:「すれ違」ったということが両者の力関係の拮抗を雄弁に物語る迫力ある光景。
帽子:70年代東映やくざ映画を思い出しました。

北鮮の銀行へ来て番茶かな   足立隆

特選:帽子/あずさ 
あずさ:上野裏のあたり、御徒町あたりにありそう。銀座赤坂ではないと思う。
知昭:ひとり喜んでるだけ。外国の銀行で番茶出て何が悪いかってなもんですよ、全く。
帽子:語の並びを見てあっやられたと思った。なんだか納得させられてしまったから特選です。

こんな坂なんだ坂ヘイ!忍冬花(すいかずら)   村井秋

あずさ 知昭 帽子 
りえ:ハイホー、ハイホー、都が好きー。
知昭:結句の忍冬花が一句を引き締めてます。勢いよく始まりうまく着地しました。
健介:「ヘイ!」と声を掛けられましても「忍冬花」は戸惑っておられるかと…
帽子:いやー、気持ちいい句ですね。コメントに困る句だけどかわいいので一点。
あずさ:がんばれ!

朧の夜文化シャッター半開き   田島 健一

秋 健介 伸 
満月:俳諧的。文化シャッターも古いが、そこ以外「現代」がないゴーストタウン。これも新しい道なのか、前近代的感性がめずらしいのか?伝統俳句では褒められるのかも。
あずさ:朧というほどの夜だったのでしょうか。説得力にいまひとつ欠けているように思います。
りえ:ぶっそうですよ。リモコンガレージなら出し入れカンタン!
知昭:商品名を入れた句の難しさよ。
秋:朧と文化シャッターと半開き、三つの取り合わせが良い。
伸:文化シャッターという響きがいいですね。
健介:「文化シャッター」は商品名ということですね。“瀧夜の”という切り方をした方が好いかも。なんとなく不穏な空気が感じられます。帽子:中七下五は文句なし!季語が状況説明になってるので残念です。

はつなつのキャロットジュースから気泡   田島 健一

建穂 雄鬼 満月 
満月:新鮮。淡くほの甘く、すぐはじけそうな若い女性を彷彿する。はつなつのツ音、キャロット・気泡のキ音の重ね、キャロットの撥音、みな効果的。
あずさ:はつなつのシャルロット・ゲーンスブールより気泡
建穂:キャロットジュースがいい。『はつなつ』と、平仮名で表記したのには、やはり意味があるのでしょうか?
雄鬼:ただのジュースでなく、キャロットジュースの響きが、はつなつと気泡にマッチしています。
健介:飲んでもだいじょうぶかなあ…
帽子:気持ちいい句ですね。個人的にキャロットジュース飲むのも好きだし、これも採ればよかったかな。ごめんなさい。

風呂沸かす炎の音や神軋る   松山けん太

特選:隆/斗士  
斗士:「風呂沸かす炎の音」いいところを持ってきた。
あずさ:何を用いて風呂を沸かしているのでしょうか?時代錯誤というかおどろおどろしいというか。
帽子:下五を実感できるかどうかが評価の別れ目。ぼくはこの句には読者として選ばれなかった。つまりこの句を読者として選べなかった。ご縁がなかったのでしょう。

夜の音春はずっと座っている    松山けん太

あずさ 光一郎 やんま 
やんま:夜の音を聞いているのは寝もやらぬ、物思う人でもある。
りえ:夏は走ってて、秋は立ってて、冬はねているのだろうか。
帽子:「春はずっと座っている」。いいじゃないですか。上五が違っていたらあういは採ったかも。

サッカーボールとしてデビューするわたしの頭   山口あずさ

安伸 隆 帽子 
安伸:大江健三郎の「静かな生活」のマーちゃんは、頭がまんまるで演劇で毬の役をしたというのですが、その印象を思い出しました。
知昭:かつて両脚をサンドバック代わりに愛用された私には何かしら痛みを覚えます。
健介:なんにせよそりゃあめでたい。どうかぐわんばつてッ。
帽子:晴れがましい。誇らしげですらある。この句会の選句結果が出ることには岡田ジャパンの運命も決まっているだろう。この句を選んだからといってべつにサッカーファンではないんですけど。


2点句

波蹴ってなおあまりある怒りかな   さとう りえ

特選:光一郎 
帽子:石川啄木って感じ。
あずさ:けっこう好きな句。「なおあまりある」よね。

ぱきすたん七つの海を折り畳む   山口あずさ

特選:りえ 
りえ:タイムリーですね。言葉遊びの感が強いけど、好きな発想。
知昭:よくもやりやがったなーっと怒るのは当然です。あの核実験には。でもこのことは句の読みに関わらせたくないので…
帽子:だからなんで平仮名?

春愁のどこかにありしミルク瓶   北山建穂

一之 満月 
満月:うまい。ひたすらとろとろうつうつ。胎内回帰的。春愁とミルク瓶がちょっとつきすぎているかなあとも。
あずさ:フェルメールの絵をちょっと思い出したが、ちょっとだけでした。
知昭:牛乳瓶じゃなくミルク瓶にしたところがポイントでしょうが、うーむ。
帽子:この「どこか」はちょっと逃げてない?

水族館勤務は鶏肉の歯ざわり   宮崎斗士

ゆかり あずさ 
あずさ:確かにビーフではない!
ゆかり:金子兜太の銀行員の句を思い出しました。おもしろいと思います。
知昭:海と山を対比させた狙いは面白いけど、「鶏肉」が漠然としてるように感じました。
帽子:なんか鶏を丸ごと食う猛魚がいそう。

喉に水通し今夜も哺乳類   岡村知昭

雄鬼 健一 
あずさ:魚って喉が乾いたりするんだろうか。
健一:この感覚がよいと思います。今夜もは余計だと思いました。
雄鬼:水を飲んでいかなくてはならない哺乳類。ちょっとした発見。哺乳類でなくなるかもしれないと言う感覚も面白い。
知昭:(自解)他人がこの句書いたら私無視すると思います。
帽子:採らなかったが、実感あると思う。

格子状の海こそ君の中にある   中村安伸

光一郎 雄鬼 
雄鬼:格子状の海。よくわからないけど、詩的な感じのよい言葉です。
帽子:「君」が出てこなかったら「格子状の海」というダリかマグリットかエッシャーみたいな手柄がもっと生きたのではと残念です。

木更津を過ぎれば春のくじら憂く   松山けん太

ゆかり 帽子 
ゆかり:私は千葉県の方はディズニーランドまでしか知りませんが、なんとなく茫洋とした感じがして好きです。
健介:春ですからねぇ〜…鯨だって春愁…
帽子:この句のばあい句末が「憂く」で平句っぽくなっているのが擬人法ふうの印象を薄めています。そこを買いました。広がりがあってすてきです。


1点句

梅雨の晴れ虫歯が痛いガブリエル   山口あずさ

ゆかり 
ゆかり:ガブリエルは虫歯なんですかー、知りませんでした。そういやあ、そんな感じしますね。
健介:あっしにはかかわりのねえことでござんす。
帽子:大天使も虫歯になるのか。「天使の虫歯」ってちょっといいですね。

腹黒き人形のなし半夏生   白井健介

一之 
あずさ:腹黒人形って売り出せばけっこう売れたりして。
帽子:なんか季語と合ってますね。

ねむくなるどんどんねむくなる緑雨   千野帽子

知昭 
満月:眠れない夜にオーダー!
りえ:読んでたら眠くなりました。
知昭:ほんまぬむとうなってきました。「緑雨」でとどめさしてます。

蛇使い新緑を来て雨やどり   足立隆

雄鬼 
あずさ:絵が浮かびました。
雄鬼:蛇使いと新緑の取り合わせに惹かれます。雨やどりはちょっとどうでしょう。
帽子:採らなかったけど、景として楽しい。採ればよかったかな。

五月雨が 外出こばむ 銀行印   案山子

隆 
あずさ:銀行行かなきゃ。でも雨だし。。。って?だからどーした俳句。
りえ:「が」の使い方が疑問。
帽子:なんで分かち書き?

無花果のかたちの海は嫁の海   中村安伸

斗士 
りえ:歌謡ステージの口上調。
斗士:ちからわざ。意味を追わないほうが面白い。
帽子:ごめんなさい。なんで?

極楽と地獄のはざま 鉄線花   北山建穂

光一郎 
健介:「鉄線花」の花の印象も、その名前からくるイメージも、あまりにも“らしく”し過ぎちゃったことをずばりと言ってるので、却って広がりに欠ける感じでしょうか。
帽子:観念的な断言。

はつなつのモノレールゆく曲りゆく   桑原しん

安伸 
安伸:さりげない風景を詠んだ句ですが、曲がりゆくというあたりから背骨のような、モノレールの軋みが伝わります。
帽子:うっわー、情報量好くねー。俳句のひとつの極致。思い切ったことするなあ。

花と蝶ことば無き世を戯れる   やんま

光一郎 逆選:知昭 
知昭:一見批判精神がこもっていそうに見えて、実は単なるひとりよがりになってしまう、ここに俳句の難しさありというところか。(自分のことは棚に上げよーいうね)
健介:「ことばを持たぬ世を戯(ざ)れる」とする手も考えられますね…
帽子:こういう動植物を「戯れ」させる句って観念的ではないでしょうか。


その他の句

樹林の霞の中からきて会釈くれて娘遍路   西村光一郎

あずさ:リズムが悪過ぎる。
秋:長すぎる。
帽子:「娘遍路」という言葉に思い入れを強いられても困ります。

桜舞う路何を求める娘巡礼ひとり   西村光一郎

あずさ:付過ぎ。
秋:韻律を整えてほしい。
帽子:70年代中盤のフォークって感じ。

トランクスの隙間のちらり夏なりし   白井健介

りえ:タンクトップの脇もちらり。
ゆかり:見たくないけど、見てしまうだろうなあ(笑)
帽子:「俗」を狙っているんですよ、という姿勢がいかにもすぎてちょっと苦手。

歯ぐきから血の出る朝だ五月晴   木村ゆかり

あずさ:「血の出る朝だ」と言われても、、、
りえ:デンターしましょう。
健介:ともあれどうぞおだいじに。
帽子:じつは最近うちの歯ぐきも。

蒸留水瓶より溢れ肌老いる   岡村知昭

りえ:ピテラの働きが効くかもしれない。
帽子:とりあえずヘチマコロンかボディショップで売ってる緑茶入り化粧水をおすすめしておきます。潤うわよ〜。

へびの子が小川に出たよげんげ草   やんま

健介:わざと小学生っぽい言い回しにしたのだとすると、ちょっとシラケるかな…
帽子:「よ」を使うなら「子」は使わないでほしい。両方いっしょに使うと媚びてると思ったので。季重なりはふだんそんなに気にしていないけど、この句の季重なりは気になる。

葉脈が 身震いすれや 五月闇  案山子

満月:「すれや」は入力ミスでしょうか。文法的に'?'アキも無意味。内容の不気味さは買う。
あずさ:ふるふるふる。
帽子:なんで分かち書きなんだろ。「すれや」ってなに?

アカシアや我が躯にもある垂らすもの   村井秋

あずさ:「垂らすもの」って何ですか?
健介:「垂るるもの」と少し抑えた方が好いか?
帽子:定型に入れるなら「躯」と書いて「み」と読まなければなりません。浅学にして「躯」の訓読みは「からだ」しか知りませんでした。

アイリスやキリンの檻を捜しつつ   桑原しん

帽子:俳句はじめて1年、相変わらず人一倍花の名を知らぬ帽子は、この季語でいいのかどうかいう権利はありませんが、勝手にコミカルな哀愁を感じて好感抱きました。

くちづけの後のミンティア痛々しい   さとう りえ

知昭:はいはい。もうつき合ってられんわ。
健介:「痛々しい」ったって他人の「くちづけの後の」ことまで心配せんでええッちゅうねん。
帽子:うーむ、ミンティアねえ。どうしてもピーバス&バットヘッドがキスし合ってる絵が浮かんでしまう。申しわけない。

死に華の色は何いろなめくぢり   一之

帽子:えらく観念的じゃないですか。

花曇り猫に無視されてひっくり返ったよ   やんま

逆選:満月 
満月:勝手にコケてください。
あずさ:何をおっしゃるやら。
知昭:踏んじゃったから?
帽子:あはははは。「憲兵の前で滑つて転んぢやつた 渡辺白泉」を思い出した。

藤が紫色なので首しめました   木村ゆかり

逆選:伸 
伸:作者は白藤をお望みだったのか?それともカミュの「異邦人」のパロディ?
健介:その色は“ふぢいろ”と名付けられているという点で、まず引っ掛かるんですよね…
帽子:「怒らぬから青野でしめる友の首 島津亮」と「♪月がとってお青いから遠回りして帰ろ」を足した?

三つめの螢火バレリーナはじまる   宮崎斗士

逆選:あずさ 
あずさ:バレリーナがはじまるってどういうことでしょうか?
帽子:ごめんなさい。よくわかりません。

悲しみの果てはあんなにも清い瞳(め)になれるのか娘遍路   西村光一郎

逆選:りえ 逆選:秋 逆選:斗士 逆選:健介 逆選:健一 逆選:一之 
満月:感動はわかるのですが。。。常套語や日常の文脈でない表現で読みたいのです。
りえ:この長さの必然性は?
健一:長くてキザなので。
知昭:ここまで言われると何も言葉が出ませんね。
斗士:なんでこんなに長くする必要があるのだろう。五七五で十分に表現できると思う。
秋:29字あまりにも長すぎる。そして語りすぎる。
帽子:「瞳」と書いて「め」とはまた『ホットロード』的ヤンキー少女漫画センスというか、「親友」と書いて「マブ」の演歌世界ですね。
健介:いったいどこまで長くしようっていうんだろうか?このシリーズ“娘遍路”
あずさ:♪へーんろはつづくぅーよ、どっこまっでっもぉー♪