第6回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

1998年上半期超特選大会も好評のうちに終了し、気持ちを新たにして第6回、選句結果の発表です。インターネットの俳句リンクもますます充実! 新しい句友も増えて、ますます俳句にはまってしまいそうな秋を迎えました。季節より時代の方が移り変わりが速いと常日頃口にしているわたくしも、やっぱり栗ごはんは食べなくっちゃ、だわ。

向上句会とりまとめ:山口あずさ


投句:一之、岡村知昭、桑原伸、坂間恒子、さとうりえ、またたぶ、一鮪、愚石、松山けん太、船外、胆石、鉄守一彗、田島健一、北山建穂、大石雄鬼(豆の木)、はにわ(ToT)、 南菜風、満月(以上3名、FHAIKU)、宮崎斗士、千野 帽子、中村安伸、白井健介、山口あずさ(以上5名、青山俳句工場)

感想協力:野末たく二



全体的な感想

知昭:今回は句を選ぶ基準として「単純さ」と「句の持つ世界の広がり」をいつも以上に意識しました。両方を合わせ持った句を読むと、体がすごく喜びます。いやほんとうの話そうなんですよ。一句でもそのような句に出会えたらいいし、また自らも作っていきたいものです。

満月:今回は逆選ねらいが多かったような。。。でも、まだまだ作品のバリエーションが欲しい気がします。自由律ももっと欲しいし、一行詩的作品も集まるとおもしろい。応募要領に「自由律その他」とか加えたらどうでしょう。

けん太:青山俳句工場4号を買いました。表紙を開けると、いきなり選句を求められてるようで。それがよかったみたい。最近、スランプだったのですが、なんとなく解消されそうな気分になりました。今回の句は話題にしたい作品がありませんでした。なんとなくよくできていて。なんとなく今ひとつなのですよ。もっと、大きな目標を掲げてすすみたいものです。小生も反省しました。

帽子:4回目の投句です。昨今チノボー大不調で、ヒドイ句を投句して、当句会の水準を下げてしまってごめんなさい。句評のときに自分のことあげておくための棚を増強しなければなりませんでした。今回は伝統系の句に惹かれます。とくにいくつかの形のよい句がぴかぴか光って「あたしを採って!」と言ってるように見えたので、まんまと採ってしまいました。

建穂:今回は特選句が難しかった。

健一:おしゃべりな句が多いと思います。もっと自分を削って作ったような句が見たいみたいな。

たく二:ふだんインターネットを使っているのに、そういえば俳句で利用したことはなかったな、と思い、YAHOOで検索したら、ここがひっかかりました。ふだん60代の方々としか相手していないので、なんだか新鮮でした。また、のぞいてみます。


12点句

ひぐらしやがんばるときのかたえくぼ   さとうりえ

特選:満月 特選:船外 特選:健介 特選:健一 知昭 伸 一之 けん太 

健介:すべて“ひらがな”とした巧まざる技巧。作者が憎らしいほど。
一之:作者の実感が読み手に移ってくる。「ひぐらしや」が効果的。
伸:「あばたもえくぼ」なんてのはもう死語なのかな? なんにせよ一生懸命な姿は美しいと思います。
知昭:一つのことに必死に取り組む人の持つ輝きを、かわいらしさから捉えてます。なかなかやりますね。
あずさ:ペコちゃんがんばれ。ポコより。
満月:私もえくぼが欲しい。「がんばる」が悲愴じゃなくなっていい。ちょっとカマトトっぽい気がしないでもないけど。
船外:無性に応援したくなります。
けん太:こんなに素直に表現されたら、こちらも素直になりました。
帽子:総平仮名俳句ってそんなに効果的?嫌いじゃないけどちょっと多すぎません?
健一:片方ってのがいいですね。いい。いいです。さわやかですね。こういう突き抜けてさわやかな句って、全部ひらがなで書くと幼稚に見えてしまって損しちゃうんですよね。「ひぐらし」くらいは漢字にしてもいいかも。余計なお世話ですが。
たく二:(選)男性から女性を見た情景でしょうか。暑気もゆるんで、何か行動を開始するとき(案外、会社が終わっていっぱいやるかという時なのかも)、ふと見せるえくぼに好印象。

点句

夏風邪やひょっこりひょうたん島に崖   大石雄鬼

特選:建穂 南菜風 斗士 健介 健一 一之 またたぶ あずさ 

斗士:中七下五が面白い。「ひょっこりひょうたん島」の主題歌は楽しくて哀しい。
健介:私としては“島の崖”であったなら特選にしていたかも知れません。内容は素晴らしい。野暮なコメントは不要です。
一之:「崖」に焦点をあてたのが手柄。夏風邪では重過ぎる、「春の風邪」の方が良い。「や」もとれてすっきりする。
知昭:大きくきましたね。季語は動きませんね、見事に。
あずさ:ほどよい崖ぐあい。
南菜風: 熊倉一雄(でしたっけ?)のくしゃみが聞こえてきそうな。その勢いで島がまた動きはじめたり…。
りえ:ドン・ガバチョに教えてあげなくっちゃ。
帽子:『ひょっこりひょうたん島』の話はよく知らないけど、好感持ちました。
建穂:「崖」の一文字で生きている句。ひょうたん島ののどかそうなイメージからは、おおよそ発想がつかない、「崖」という強烈な単語を用いることによって読み手をハッとさせる句。夏風邪との取り合わせもよい。鮮やか。
健一:なんか、滑稽な感じがしますね。人生とかそういう小難しいこと言わないで、さらっとね。その辺が、共感できます。

キャベツより翼剥がして誕生日   大石雄鬼

特選:一彗 特選:りえ 特選:またたぶ 満月 健一 安伸 

知昭:キャベツの葉の一枚一枚を翼にしたわけですか。一年ごとに何かを知っていく人の哀しみが伝わります。
あずさ:キャベツ畑から赤ん坊ってなんかありましたよね。
満月:特選を迷ったが「より」が引っ掛かった。キャベツのたった一対の翼を奪うようで。キャベツが翼のかたまり、と思える表現なら文句なく特選だったのだけれど。
安伸:「キャベツより翼」という見立ても美しいですが、「誕生日」がハマリましたね。
一彗:キャベツとは孵化(誕生)寸前の鳥卵のこと、卵殻内に翼を丸くしている未生のひな鳥の翼剥がすとは驚異(シュール)である。
りえ:キャベツの外側のしわしわは翼だったのか。
帽子:けっこう好きです。
健一:キャベツの葉の一枚一枚が翼だっていうのはちょっと大袈裟だけど、豊かな感じがします。幸せな誕生日ですね。

8点句

実印と同じ重さの杏子かな   宮崎斗士

特選:安伸 帽子 南菜風 伸 健一 りえ はにわ(ToT) 

伸:「をりとりてはらりとおもきすすきかな」蛇忽はすすきの重さは発見しました。作者は杏子が実印の重さであることを新発見!
はにわ(ToT) :実印と杏を組み合わせるなんて。価値観の違いがGOODです。
満月:杏子と実印を間違えて捺さないように。
南菜風: こんな風に実印の重さを思ったこと、私はいっぺんもなかったです。はたと、そう思うのがなんだかいい。
安伸:「実印と同じ重さ」には社会的な諷刺的な意味合い感じることもできるのですが、それよりも「杏子」(人名ととったほうがおもしろい?)と「実印」が同じ重さに「感じた」という直感の句だと思います。「かな」と強く断言しているところが良かったです。
帽子:おみごと。
健一:自分を証明する実印と、杏子が同じ重さって、なんか存在のちっぽけさをかんじちまいますぜ。でも、ほんとに実印と杏子って同じ重さなんだろうか?そのへん、ちょっと疑わしいですね。

6点句

禿山の禿に人いる五月かな   田島健一

特選:知昭 特選:一之 特選:あずさ 

一之:新緑の候の禿山。印象鮮明な句。「禿山の禿」と念を押して成功。
知昭:楽しい!一見見過ごしそうだけど句の完成度は高いですね。シンプルイズベストですね。
健介:「五月かな」の安直さでぶち壊しですよね。こういう内容は納得させさえすれば言ったもん勝ちというところ。この季語には慎重を期されたい。
あずさ:性格の良さそうな禿だ。
りえ:おかしいですよね。生え始めた毛みたいで。
帽子:句の形きれい。

球体を投げて歪みを知る晩夏   南菜風

特選:帽子 特選:伸 りえ またたぶ 逆選:健介 

伸:「かつて川上哲治は好調の時にはボールの縫い目が見えた!」というのは古い話か。
りえ:受け止めてもらえない、通じ合えない、みたいな。
帽子:なんの歪みか。球体のか、それとも球体は歪みを計るための道具か。歪んでいると困るのか、それとも歪んでなきゃダメなのか。毎年晩夏にこんなことをやっているのか。この作業はきみの職業か、興味本位でやってるのか。それとも夏休みの宿題なのか。
健介:「球体」が漠然とし過ぎ、違和感もある。せめて“白球”であれば「歪み」というイメージの手掛かりともなり好いと思う。ただし“高校野球嫌い”の人には向かないが。

麦秋や父の作りしオムライス   宮崎斗士

雄鬼 伸 恒子 建穂 健介 りえ 

健介:何より美味しそうに詠まれていることが好い。ちょっと不細工かもしれないけどきっとすごく美味しいんだろうなぁって思わせてくれる。当季と少しずれているせいでちょっと損したかも知れないですね。
恒子:現代の父の明るい景とよみました。
伸:大阪では明治軒のオムライスが有名です。とろけるような玉子のオムライス。機会があれば是非一度御賞味を!
あずさ:明治軒のオムライスたべたーい。故伊丹十三監督の「タンポポ」の中に出てきたオムライスも美味しそうだった。ぜひ一度食べてから死にたい。
知昭:俳句は「もの」をどう捉えるかにかかっているということを、この句を見つつ再確認しました。
りえ:素直に親子のあったかい句なんだろうと読んでみました。
帽子:「麦秋」で「父」とくればどうしても小津安の世界。小津の『彼岸花』が好きなチノボーとしては、この句にもほっとけない魅力を感じる。
建穂:一見何でもないような句に見えるが「軽み」を感じる句。父という言葉が生きている。
雄鬼:不思議に惹かれました。内容的にはなんでもないことなのですが。オムライスがちょっと恐竜の名前のように思えてしまった。変な感想ですね。

5点句

キャッチボール夏の運河と平行に   田島健一

特選:南菜風 船外 恒子 健介 

健介:「夏の」にほんの僅かだが取って付けたような印象を残す気もするが、スケールの大きな把握が何よりの魅力。<源流にゐて夏シャツの筋目たつ>の句と同様に気分の良さ満点の句。
恒子:清潔感が漂っています。
あずさ:すがすがしい。
満月:平行にすっと伸びた流れと飛線が涼しい。
南菜風:水の流れと投げ合うボール、少しずつずれていく人の線、そして時間軸が並びあってそれぞれに存在し、遠景として重なり合う。ノスタルジックでもあります。運河がいいですね。
船外:私の家の近くに「利根運河」があります。紙飛行機は対岸に届きませんでした。
帽子:すなお。
たく二:(選)最近、キャッチボールをする少年を見なくなりました。別に少年でなくてもいいんだけれど。運河も、おそらく一時代前のもので今はせいぜい観光に役立つ程度でしょう。そこで「平行に」となったら、理屈ですが、もちろんここは細い運河に沿った道でキャッチボールをしているのです。白いボールの動線を手がかりに、さまざまな景が見えてきます。

炎昼の街マヨネーズかきまぜる   宮崎斗士

雄鬼 建穂 健一 はにわ(ToT) あずさ 

健介:ここまで暑苦しい気分にさせる句ってのもそれはそれでスゴイっすねェ。
あずさ:マヨネーズそのものが持っている温度を感じた。
はにわ(ToT) :そうそう こんな感じですよね ドロドロに溶け出したような 。
満月:炎昼とマヨネーズはおもしろいアナロジーだが。街がかきまぜるのか街でかきまぜるのか。炎昼の街でマヨネーズをかきまぜている人と会ったらけっこう不気味だ。
帽子:けっこう好きなんだけど、でもどうしても「街」入れたいですか。たしかにあるのとないのとは違うんだけど。
建穂:炎天の街のイメージにドロっとしたマヨネーズはぴったり。
健一:手製のマヨネーズじゃないですかね。分離しないようにね。炎昼の街でね、こう、マヨネーズが分離しないようにね。あー、暑苦しい。
雄鬼:炎昼と、ねっとりとした黄色のマヨネーズがよく響いています。
たく二:(選)買ってみてはいないけど、自分で作るマヨネーズというものが売り出されたようですね。でもテレビコマーシャルで流れなくなったところを見ると、不評で発売中止になったのでしょうか?あのぐにゃぐにゃした感じと炎暑の街の様子との取り合わせが妙。なんかぐにゃぐにゃして、気味悪いですけどね。この句、きっとすぐ発売中止になるかも。

この家に地下あるごとく百合香る   南菜風

満月 斗士 安伸 けん太 あずさ 

斗士:こまやかな生活感。さりげなくて重厚。
あずさ:地下室に百合ってとてもよくわかります。最も地下が似合う花かもしれない。
満月:地下があると百合が香るとはミステリアス。地下とは香りの製造所なのか。これも特選候補だった。
安伸:地下室や秘密基地には、隠されているがゆえの甘美さがあります。百合の香りにそれを嗅ぎ取る感受性に惹かれました。
けん太:百合の香りの粘っこさが想像力を高めてくれるのですね。特選に入れたかった。
帽子:下五が好みではない。かといって「百合の香のこの家に地下あるごとく」でもごたごたするしなあ。

4点句

夕立雲背番号なき素振(すぶ)りかな   白井健介

雄鬼 満月 知昭 伸 

伸:スポ根ドラマの一コマを見るような思いです。
知昭:これぞ夏の一句。野球少年の素振りと夕立雲の取り合わせをきっちりまとめ、多くの人の共感を得ること間違いなし。
あずさ:背番号なきがどこか誇らしいが、ちょっと少年ぶりっこのような気もする。
満月:ふと「瀬戸内少年野球団」を思い出した。素朴な光景が今もあることがなんだか嬉しい。
りえ:タッチを思い出しました。
帽子:ちょっとありがちでは。
雄鬼:背番号なきがよいです。まだ背番号を張り付けていないユニホーム。その状態をそのまま表現したと取りました。補欠とかそういうことではなくて・・・
たく二:(選)青春のドラマですね。世代的(昭和30年代前半)に野球には弱く、すぐ取ってしまいます(笑)。

その中の傷多き枇杷剥きにけり   桑原伸

知昭 恒子 健一 りえ 

健介:「その(中)」というのがもう少しイメージできそうな感じでないと単に詠み手の“独りよがり”という印象になってしまいます。
恒子:ひかえ目な人柄が句にあらわれています。
知昭:「その中」が何の中なのか考えさせます。それが作者の狙いかもしれないと思うと少し悔しいけど…。
りえ:傷が多い方が実は甘かったりして。
帽子:達者。この構文はどっかで見た気もするけど、こういうストレートアヘッドなテクニシャンも句会にいなくちゃねえ。勉強させていただきました。
健一:わざわざ傷の多いやつ選ぶっていうところは、作者の優しさですね。「その中の」が良くないですね。この5文字分がこの句の命になるんじゃないですかね。中七下五はパターンがあります。
たく二:(特選)柿と同じく枇杷は、落とすときに傷がつきます。あまりに傷が激しいものは、除外しますが、ちょっとした傷のあるものはそのまま。でも傷すぐに色が変わり、あとで気付くことになります。そんな枇杷から早めに食べておこうという、ただそれだけなのですが、わずかな感傷が日常的なできごととの感傷と重複してみえ、奥行きがでてきます。

風上は屍(かばね)の匂ひ螢舞ふ   北山建穂

一彗 一之 はにわ(ToT) あずさ 

健介:「匂い」と書く場合には“好ましいもの”であることを意味している。そうでないなら「臭い」とすべきだが、一応「匂い」だとしても“風下へ屍匂へり”とすべきでは?
一之:屍臭と螢。凄いイメージ。しかし「風上」「舞ふ」は言わずもがな。こういうゆるみから散文化が始まる。
あずさ:遠くに鳥葬の街がある。ここまでは匂わないけれど。何か情景が浮かぶ。
はにわ(ToT) :蛍の火の幻想的な様子を上手く引き出せてます。
一彗:死体は腐臭を放ち、魂は蛍になり舞う、無情。
りえ:文法的におかしくないか?
帽子:「舞ふ」はないでしょう。陶酔する作者の姿が見えて残念。

少年と船の午睡に近づかず   南菜風

知昭 伸 一彗 安伸 

伸:詩情を感じますが、「船の午睡」が少し気になります。
知昭:「少年」という語はよく使われていますが、「少女」ともどもあまりいい印象がなかったんです。でもこの句はぶっきらぼうさにうまく溶けこんで世界を船ともども作ってます。
満月:そっと寝かせてやって。
安伸:うつくしい句です。船のなかの少年と船そのものが午睡している。どことなく近づきにくいような、近づきたいような、そんな気分があらわれている句ですね。
一彗:眠りを起こすと我が存在が吹っ飛ぶくらい危険なものがあるのか、一度くらいは起こしてみたい。
帽子:構文が取りにくい。というか何とおりにも取れてしまう。

3点句

夕焼を見たから手紙書き直す   千野 帽子

船外 恒子 建穂 

恒子:投函できない手紙になってしまいました。夕焼けの美しさが見えてくる。
伸:なぜ手紙を書き直したのかが、いまいちわかりにくい。
満月:「見てから」の方がよかった。「見たから」では因果関係を言っただけで終わる気がする。「書き直さなくては」なら、夕焼けを見たことで変わった気持ちが出る気もするが。それでも「から」はいらない。
船外:俗事うんぬん、にひとこと詩のフレーズを書き足す。「会いたい」が「さよなら」に変わる。
建穂:夕焼けと手紙の取り合わせって結構合うものですね。ふと、大西泰世の「夕焼けを飲み干すごとに手紙来る」の句を思い出しました。

愛らしい玩具のような「非国民」   山口あずさ

特選:斗士 恒子 

斗士:もともと「非国民」という言葉に、なんだかユーモラスなものを感じていた。たまごっちみたいに、「非国民」を育ててゆくゲームなんかがあってもいい。欲しい。
恒子:例えばサッカー嫌いなども含まれるでしょうか。
知昭:惜しいなあ。非国民とカギカッコでくくらない方が句に広がりが出たのではと思いますので。
帽子:なぜ鍵括弧か。「非国民」という記号列自体が玩具のようだというのだろうか。戦争の句が増える夏場、ちょっと気になる句です。
あずさ:(自解)「ジョバンニ、おとうさんから、ラッコの上着が来るよ。」ジョバンニは、ぱっと胸がつめたくなり、そこらじゅうきいんと鳴るように思いました。(『銀河鉄道の夜』宮沢賢治より)…ところで、「非国民」という言葉はすっかり力を失ってまるで抜け殻のようではないか。

法王に薔薇の香りの下半身   中村安伸

帽子 斗士 またたぶ 

斗士:雰囲気が出ているが、「下半身」やや大雑把な感じも。
あずさ:いずれにせよ、めったなものには触りたくない。
満月:なんだか淫靡
りえ:下半身が薔薇?でも、陰毛に香水をつけると香りが立ち上る、という話を聞いたことがあるぞ。
帽子:ユイスマンスの『腐爛の花』を思い出した。

鍵穴に鍵のかたちの薄暑かな   北山建穂

帽子 またたぶ けん太 

あずさ:類想あり、のように思います。
けん太:ちょっと謎解き風なのだけれど。薄暑より酷暑であって欲しかった。
帽子:正統派のイヤミな句だなー。でも好きだから採っちゃおうっと。性格悪いが顔が好きって気分。もちろんほめているのです。

源流にゐて夏シャツの筋目たつ   大石雄鬼

帽子 斗士 健介 

斗士:淡々としたなかに、確かな私性を見る。
健介:「筋目たつ」で折り目をきっちりとアイロン掛けした麻の香港シャツや開襟シャツといった質感を醸し出し、着ている人のキャラクターをも偲ばせる。「源流」という手を切るように冷たく清らかな水のイメージと相俟って清涼感が実に心地よい。「源流に」という言葉がやや突出し過ぎの感もあるかと思うが気になる程ではない。
あずさ:形状記憶シャツだろーか。
帽子:去年の夏は飛騨川行って(源流じゃなかったけど)こんなだったなあ。おととしのいまごろはブリュージュで遊覧船乗ってたし。今年は青山俳句工場の合宿にも行けるかどうかわからない。忙しすぎる今年の夏のバカ!
たく二:(選)不思議な句です。源流ですから山登りでないと行けないところ。シャツの筋目とは、すわっていて背中につくものですよね。背後から見て、リュックサックか何かを背負っていた跡ですか? よく意味がつかめません。源流の細い流れとシャツの筋目の類似に何か意味が見い出せそうですが……。

庭石の猫に化けたる熱帯夜   白井健介

建穂 一之 けん太 

一之:上五中七の古俳諧風の表現がおもしろい。
あずさ:確かに化けそう。今年は熱帯夜が少なくて過ごしやすかったけれど、夏をあまり感じられなかった。
けん太:大阪の暑さはこんな気分です。今日も暑い!
帽子:蕪村ふう。
建穂:発想が面白い句。「の」の文字の取り方次第で意味が変わる句でもある。私はこれを主格の「の」と取りましたが……

向日葵の無邪気なふりが許せない   さとうりえ

満月 はにわ(ToT) あずさ 

伸:原田芳雄は「トマトのデカいつらが許せない」と言っていた。
知昭:そうは言われましても、もとからそうであるかもしれないわけで、はい。
あずさ:確かに向日葵が無邪気なはずはない。
はにわ(ToT) :なんか心に邪なものがあるんでしょうか 気になります (笑)。
満月:向日葵にたとえられるような明るく無邪気そうな人って、疲れる。媚をどこかに感じるせいか。ほんとは炎天でじと〜〜〜っと汗かいてうらめしげに人をにらんでいるおじさんが向日葵の実態だったりして。。。
帽子:「を許さない」なら迷わず採った。けっこうお気に入り。

五月雨や夜のどこかにブルースが   桑原伸

特選:けん太 船外 逆選:はにわ(ToT) 

知昭:今時酒場でブルースを聴くことはないよ。さびしーねー。(演歌の花道調で)
はにわ(ToT) :ん、イヤミのようなキザさが鼻につきます。。
満月:五月雨、夜、ブルース、みな同質。
船外:雨、夜、ブルース、私のカラオケの定番。今夜は「裕次郎」でいくか。
けん太:五月雨とブルースって違和感がありますよね。これに魅力を感じるのでしょう。夜とブルースはつきすぎかもしれませんね。よくありがちなブルースのイメージをうち破ったことがこの句は勝利なのでしょう。うん、ブルースが聴きたくなってきました。
帽子:日活アクション。

どれみふぁの どからどまでのなつやすみ   北山建穂

特選:はにわ(ToT) 一之 

一之:お子様ランチの良さ。
はにわ(ToT) :やられたなって感じで好きです。ひらがな表記が柔らかいし待ちに待ったなつやすみ!!って感じが迸ってますね。
満月:かわいいけど、夏休みが高音部へ盛り上がって行くばかりというとちょっとイメージが違う。それとも上がって下りてもとのドかな。
帽子:「ドレミファのドからドまでの夏休み」だったら採った。総平仮名書きの「無邪気なふりが許せない」ときがあります。

癒えぬよう傷の電池を入れ替える   千野 帽子

斗士 りえ はにわ(ToT) 

斗士:「電池」が新鮮だった。心象もよく伝わってくる。
あずさ:じゅくじゅくしてしまいそう。
はにわ(ToT) :それでも癒えてしまうのですよね。。傷なんて。。
満月:ご勝手に。
りえ:「癒えるよう」ではないところが作者の意図だと思うが、少しひっかかる。

青い線ひとつ描いて海がある   山口あずさ

特選:恒子 はにわ(ToT) 

恒子:単純な構図から美しい海が見える。
はにわ(ToT) :この絵、できるならクレヨンあたりの武骨な線が好ましいですね。
りえ:素直だねえ。こんな頃もあったっけなあ。
帽子:「青い線ひとつ描いて海がある」?まあそういう児童画みたいなキレイゴトはやめにしましょうや。

2点句

筋肉の素描背景は郭公   坂間恒子

特選:雄鬼 

雄鬼:筋肉の素描がよかったです。それと郭公の組み合わせ。これにより鉛筆か木炭による筋肉のデッサンがよく見えてきました。欲を言えば、背景という語を消せればなあと思います。
知昭:この句は分かち書きしても大丈夫と思います。
帽子:これはウマい。好きです。

宇宙卵にっこりと集中豪雨かな   満月

帽子 あずさ 

健介:「と」が無い方がリズムはいい。それにしても「宇宙卵」て何んざんしょ?
あずさ:以前、お菓子のおまけにありましたね。なんか裏返すと丸くなってぐにゅぐにゅっと元の形(怪獣)に戻るというへんてこなやつ。色は確か濃い青だった。あの戻り方は確かににっこりという感じがした。集中豪雨とうい感じもした。が、他の人は知らないと思う。。。
帽子:ここで宇宙卵について宇宙発生論的な蘊蓄を垂れてしまうと、このテクストを既知の情報に置き換えて、読みを貧しくしてしまう気がする。この句のポイントは宇宙卵ではなく「にっこり」です。

禁色の蛇舞い堕ちる日本海   鉄守一彗

南菜風 またたぶ 

南菜風: なにやらくぐもったようでいて、印象鮮烈。
帽子:「禁色」で「堕」。作者の陶酔が見えて残念。禁色といえばどうしても、太宰と並んで過大評価されてる作家・三島を思い出します。

産卵の穴場のS字カーブです   岡村知昭

斗士 安伸 

斗士:「産卵」の神秘性。「S字カーブ」との契合がいい。
安伸:「S字カーブ」への産卵、普通は思い付きませんな。確かに「穴場」です。
帽子:こういう句のばあい、口語にするほうが古くさくなるかも。「かな」なら採った。

まなうらの夕焼 袋のごと渇く   一鮪

雄鬼 安伸 

満月:「袋のごと」が難しい。
安伸:「袋のごと」は理屈のような、そうでないような。
帽子:けっこう好きです。
雄鬼:袋のごとという表現に惹かれました。ただ、乾くと言いたい気持ちは分かりますが、袋に乾くというイメージがあるのかという点が引っかかりました。

夏雲の尿意あかるし海南島   中村安伸

雄鬼 またたぶ 

あずさ:おしっこに濡れるのは嫌だ。
満月:「尿意」は使われすぎている語だが、海南島が「あかる」いから許したい。
帽子:「あきらか」ではなく「あかるし」というのはウマい。でも擬人法は嫌い。
雄鬼:尿意あかるしが面白い表現ですね。それは多分雨のことで、そこがちょっと答えがあるようで気に掛かりましたが、それでも惹かれました。

朝食を少し早めに桜桃忌   桑原伸

雄鬼 恒子 

恒子:上五中七は季語と何の関連もないが、季語が生きてきます。
知昭:健全な生活と太宰とのアンバランスさに賭けた一句。
満月:上品。斜陽のおばあさんが浮かぶ。好みとしては「少し早め」がかなの方がいい。
帽子:《スウプを一さじ、すつと吸つて一言「あ」》(うろ覚え)なんて言ったりします?それにしても三島と並んで過大評価されてる作家・太宰。
雄鬼:何気ないことですが、深刻でない桜桃忌がよかったです。

昼日中麦酒飲み干しゆらゆらら   はにわ(ToT)

船外 健介 逆選:帽子 

健介:「飲み干し」の曖昧さがいけません。大びん五本を「飲み干し」たのならば大抵の人は「ゆらゆらら」です。あまり強くないひとを想い描きたいところ。例えば「麦酒二杯にゆらゆらら」なんてことになると『これはチャンスかぁ』ってやつです。…反省。…
伸:昼からビールを飲む。これほど贅沢なものはないと私は思います。うらやましい。
船外:私の日曜日そのまんまを読んでいただきました。
帽子:音読がためらわれる擬態語である。句会で司会してるときにこれ出てきたらどうしよう。都合により音声でも変えてもらうか。だって「ゆらゆらら」ですよ。

夏帽子ボクにんじんをたべたんだ   船外

知昭 伸 逆選:安伸 

伸:芭蕉は「五つの童に俳句をさせよ」と言ったとか。
知昭:「ボク〜たべたんだ」の口調と合うのは夏帽子しかないわけです。出来上がりのいい一句。俳句嫌いが治るかも?
満月:中七下五に「」がないので気持ち悪いカマトトになってしまった。
安伸:子供を甘やかすのはよしましょう。
りえ:偉いでちゅねー。
帽子:この「無邪気なふり」はギリギリ許せる範囲内。でもあくまでギリギリですからね。
あずさ:馬が詠んだ句(だとおもしろい)。

その男凶暴につき月見草   坂間恒子

満月 けん太 逆選:伸 逆選:りえ 

伸:映画のタイトルをそのままもってくるというのは安易な気がします。
あずさ:その幼子凶暴につき歯形かな
満月:月見草は毒草という。凶暴な男にその毒を盛れというのでは単純だが、月見草の美しさが妙に耽美的で、男がより酷薄そうに見えてきて、その孤独さも増す。
けん太:意外でした。月見草ってどこか哀しい感じなのに、凶暴ともよくなじむのですね。野村監督って、凶暴なのだ。たけしって、結構情けないんだ。いろいろ考えてしまいました。(わかります?)
りえ:既成の表現。「つき月見草」もこなれてない。
帽子:「つき」と「月見草」の音の並びがうるさくて採らなかったが、ではほかの季語となるとむずかしい。音を度外視すれば「月見草」がぴったりなのです。


1点句

すつぽんのひつくり返る暑さかな   一之

健介 

健介:「すっぽんのひっくり返る」という何ら関連性のない謂わば馬鹿ばかしい具象に「暑さ」を納得させられちゃうということ、これこそが“具象の力”です。
帽子:句形が美しい。だけど転義的な驚きの表現として「ひつくり返る」という言いかたが実在している以上、そういうふうに解釈されてしまう可能性があるので残念。字義で取らないとつまらない。それともダブルミーニング狙った?このばあいは狙わないほうがいいと思います。

物の怪やみんなさしてる夏の傘    松山けん太

南菜風 

南菜風:傘というのは、不思議な道具ですね。あれには何かあると私はにらんでます。
帽子:この「物の怪」は水木しげるでも宮崎駿でもなく、杉浦日向子。
満月:カラカサオバケ。

ペンキ塗る大海原の午後を背に   またたぶ

健一 

健介:やはり季語は欲しいところか。(それとなく夏の季感はあるのだが)ただ「“大”海原」と言ってしまうことでやや御仕着せっぽくなるのが惜しい。“大”と言わずしてそのスケール感を出せればもっと良くなるはず。
知昭:はっきりしすぎかもしれないけど、景色がすぐ想像できます。
満月:気持ちよさそう。
帽子:なんかかっこいい風景を持ってきて、それに「を背に」をつけると、安さ爆発句になりやすいものだけど、この句は安くはないですね。でもやっぱり「を背に」はカットして、小ずるく季語に甘えるのが得策。
健一:かっこいいですね。大海原。いいですね。「海を背に」ではなく「午後」っていう時間を背にうけているっていうのが、かっこいいな。作者に会ってみたいですね。

司書少し上目遣いや夜の秋   田島健一

一之 

一之:きちんと出来ている句。欲を言えば「や」が古い。「に」で軽く切ってはどうか。こういう句は「遣ひ」と旧仮名で。
りえ:誘っているのか?
帽子:中七の「や」がいい感じ。
たく二:(選)夏休みの図書館は行くもんじゃないですよね。勉強にかっこつけたこどもが多くて。ポケベルとかうるさくて仕方ない。司書は、本来子供の見張りをする人ではなく、本のプロでいろいろ相談に乗ってくれる人。ボルヘスなど司書で文学者という人は多いですが、どこか鼻眼鏡ですかした表情がよく出ています。少し涼しくなった夜は、こどもがいなくなって、図書館も落ち着いてきます。昼と夜の違い、なんとなく夏も終わりだなあという実感のある句ですね。

冗談は嫌い卯の花腐しかな   さとうりえ

満月 

健介:「冗談は嫌い」という観念と取り合わせる季語にはもっと具象的な(つまりは“目に見える”)ものを置いた上で理屈を超えた説得力を持たせないと句全体が理屈に終始する。
満月:しとしとする長雨に降り込められている時にヘタな冗談はじつにうっとうしいですね。ピシリと言い放った語感が好き。
帽子:西川のりお師匠の「冗談は、よせ」を思い出しました。

ふらふらとフラスコ舐めてる紅蜥蜴   はにわ(ToT)

けん太 

健介:「ふらふらと」の単なる語呂合わせ的な印象にシラケてしまう。
伸:少しシャレっぽいですね。
けん太:紅蜥蜴というかなりの大見得、仕掛けが好きです。
帽子:「て」は不要。中七の字余りが野暮。

月族の代々の王佇(た)って死ぬ   千野 帽子

南菜風 

伸:月族ってなんですか?勉強不足ですみません。
満月:読み手がイメージできる手掛かりをください。
南菜風: 準特選。「月族」って、知らないのですが、なんか、すごい。ぴたっと 決まってます。どんな状況で死を迎えても、死ぬ瞬間に佇ってしまう?

帰ろかな木苺摘んでゆらら橋   船外

知昭 

健介:固有名詞でもあるまいから「ゆらら橋」の思わせぶりは却えってマイナスな感じ。「帰ろかな」から「木苺摘んで」へと展開するのには読み手として違和感あり。
知昭:この句のポイントは「ゆらら橋」。単なる田舎の句から不思議な世界へ運んでくれました。
満月:つぶやきに終わっている。
りえ:ゆらら橋っていいなあ。
帽子:「♪白樺青空南風(中略)あのふるさとへ帰ろかな 帰ろかな」(千昌夫「北国の春」)。

夏の樹も留守電セットしているか   中村安伸

帽子 

健介:擬人法に対する評価がかなりシビアな昨今、それ以前に訳わからんのですけど…
りえ:セットしてると思います。
帽子:気持ちいい句だと思いました。

くもりぞらジーンズ濡らす発泡酒   岡村知昭

船外 

健介:「発泡酒」という語を敢えて遣ったことに効果はあったのでしょうか?
伸:発泡酒の味がいまいち好きになれません。値段が安いのは良いのですが。
あずさ:裏表どっちが濡れたのかとつい思ってしまった。まさかお漏らしってことはないよね。
船外:空は曇っても、心は晴れだ。シュパッと栓を抜いて、お宅もどうです。
帽子:上五が説明調。

愛語交すなめらかなジッパーである   またたぶ

一彗 

知昭:なめらかに読めませんでした。
あずさ:ポルノ景俳句。
一彗:なめらかな黒エナメルのボンテージ姿の女性を想うのは私だけか?
りえ:「愛語」ってのが浜省みたいだ。
帽子:なかなかラヴリー。

イルカ啼く闇の銀河を鳥渡る   鉄守一彗

船外 

満月:イルカのゆくえを想像しようとしたら突然鳥に変わった。。。
船外:海と宇宙との大きなスケールの中に、命あるものの呼応が感じられる。
帽子:去年俳句はじめてすぐ気づいたことのひとつに「動詞がふたつあって、最初のが連体形のときは、体言のあと《や》などでハッキリ切らないと、そのあとで動詞の終止形・連体形が使いにくくなる」という法則?があります(諸先輩方、詳細をお教えください)。たとえばこの句の構文だと上五と下五入れ替えて「鳥渡る闇の銀河をイルカ啼く」でもまったく効果は同じになってしまうのです。それにしてもなんで季語が三つもはいってんだろ。

その他の句

引き出しに単語忘れる長梅雨や   松山けん太

健介:内容の面でもやや疑問ありだが、それよりも「長梅雨“や”」として下五に置くという意図が解せない。
知昭:頭がサビつくんですよね。
あずさ:単語はあちこちに忘れる。引き出しとは限らない。
帽子:チノボーも抽斗と梅雨で作ろうとしたけどできませんでした。この句は「単語忘れる」が効いてます。ただ句末を「や」にするのが好きではなく、採りませんでした。ところでみなさんは机の抽斗にライター溜まったりしません?

青梅雨の 空は曇れど 晴れし声    愚石

健介:「青梅雨の」と言ってるのだから「空は曇れど」などと既に含まれている情報は無用。その上「曇れど」「晴れし」という理屈っぽい見え見えの展開もいけません。
伸:前回、帽子さんも「なぜ分かち書き?」と疑問を持たれていましたが、私も勉強不足で分かち書きの意味がよくわかりませんので、作者の方からのコメントが欲しいです。伊丹三樹彦さんがよく分かち書きをされていますが、そういう関係もおありなのでしょうか?
満月:梅雨空はたいてい曇っています。青梅雨になるとどうなのかな。字空け無意味
帽子:声が「晴れ」ているというオヤジ的転義を、空が「曇」っているという字義に対比するのは、「無言の帰宅」「嬉しい悲鳴」みたいなニュース文体。一字アキも野暮。

累々と背骨立ちのぼる水海月   鉄守一彗

健介:いくら何でももっと上手い嘘をつかないとなぁ…
満月:深海魚のTV吟行?「累々と」が「立ちのぼる」と相反してイメージを殺し合っている。
帽子:好みではないのに、気になってしまいます。この作者のほかの句が読みたい(ってたぶんこのなかにあるんだろうけど)。

かき氷八百屋お七の鬘ぬぎ   一之

りえ:ホラーだ。
帽子:もう一工程二工程でカッコよくなりそう。いじっていじって。

七月の 真青なる海 光る波   愚石

健介:うーん…何と申し上げればよいか…別の意味で今までにはないパターンなので…
伸:歌詞などによくありがちな表現ですね。
帽子:万葉期の長歌の歌い出しは、五七調で同じことを少しずつ違う言いかたでぐだぐだくり返すことによって独特の雰囲気を出しているとか。この句はそんな長歌の冒頭十七音だけを取り出した感じします。ひとこと「夏濤」という季語でじゅうぶんだし、一字アキも野暮。
あずさ:子供の絵日記ですね。どうぞ行ってらしてください。

紫陽花を人形と見てる祖国かな   松山けん太

帽子:「て」は不要。中七の字余りが野暮。と思ったが「と見る」だと「と見立てる」という意味も出てきてしまうことに気づきました。俳句はむずかしい。

大切なもの風にやるシャボン玉   船外

伸:大切なものをもっと具体的に詠んでほしかった。
帽子:ちょっとおセンチすぎましたね。おセンチ自体は嫌いじゃないんですが(チノボーの句もおセンチ)。

アスファルト急落したる蝉の腹   胆石

帽子:急落っていうとどうしても「TOPIX」「ウォール街」「オリコン」ですが、それを昆虫に使ったのがミソか。

首吊りのマリオネットや長い雨   あずさ

帽子:人形の句はどれも似てしまう。

友萎えて図鑑は濡れて夏二階   一鮪

あずさ:図鑑見ながら何やってんだよー。え?誤解?
りえ:なんか生々しい。
帽子:好きなんだけど「夏二階」はちょっと苦しい。語彙の選択は「安井浩司」+「攝津幸彦」+「西川徹郎」でしょうか。ひとつひとつはおいしい極上の刺身と究極のカレーと名人の鰻の蒲焼きを、丼のなかで混ぜてしまって食べられないという無念。

陽炎へいたいいたいと跳びはねて   満月

知昭:陽炎がある限り跳びはねてそう。
帽子:平句も好きだが、なんで平句にしたのかわからないなこの句は。

勇気のあわいにじゃがいもの花   坂間恒子

満月:「勇気のあわい」じゃ説明不足。
帽子:けっこういいですよ。最近短句に興味あります。

半夏生 匂いくるもの 焼けし鯖   愚石

伸:季重なり?
あずさ:食欲俳句。
満月:「匂いくる」まで読んで美しい下五を想像してドッとコケたのは私だけでしょうか。字空け無意味。
帽子:季語ふたつ使う理由がわからないし、一字アキも野暮。

サングラス尻の青さは隠せない   はにわ(ToT)

知昭:精神年齢おいくつ?
満月:ちょっと前に出ていたお尻まるだしのヒップブラなるものを思い出してしまった。
帽子:川柳もいいけど、この句は川柳として浅い。
あずさ:黒いサングラスの似合う人が好き。が、はずすとがっかりする人は嫌。と子供の頃言い続けていたが、基本路線に変更はない。(←何のはなしだ?)

悲しさは一枚の紙手に重し   胆石

あずさ:そりゃ重いでしょうが、この句からは、“悲しみ”を感じない。
満月:どういう紙なんでしょうか?恋人からの別れのメモ?召集令状?
りえ:全体が説明っぽい。
帽子:リストラされたのか。それとも成績表か。ちょっと思わせぶり。

オフサイドトラップ躱(かわ)されて裸   白井健介

帽子:理由はよくわからないけどなんかホモっぽい。

悪人を叩き起こせしウランかな   岡村知昭

満月:ウランって鉄腕アトムのウランちゃん?まさかね。
帽子:アトムの妹ってことはないよな。
あずさ:起こしてどうする?

みごもりや地図挿し入れし指の痕   一鮪

逆選:知昭 
健介:ちょっと訳わからん、という感じ。
知昭:言葉が1つ1つバラバラなんですよ。
帽子:まさかとは思うけど、ひょっとして「エロティックだね」って言ってほしいのかな?観念はときにフェロモンの敵。
たく二:(逆選)まったく、どこがいいのか分かりません。妊娠中毒症で入院した奥さんが、「どこか旅に出たい」というので、地図を差し入れにもっていって、手が汚れていたので指紋がついていた、のではないですよね、もちろん(挿し入れだもんね)。なんだか分かりませんね。季語もないし。でもいいか?

青き海ビキニ姿や雲一つ   胆石

逆選:あずさ 

健介:<三段切れ超付き過ぎや雲一つ>
伸:三段切れ?
あずさ:単なるコマーシャルフォト。鼻の下が伸びることはあっても、誰も感動しない。
りえ:あるものを読むだけというのはやめよう。
帽子:企画ものCDのジャケ写。俳句やる人ってどうして「…ひとつ」が好きなの?

ほたるればほたるるばかりの洗い髪   満月

逆選:一之 

一之:当会に加藤郁乎氏が出句していたとは!
伸:ほたるは動詞になりうるか?
あずさ:らりるればらりるるばかり太い麻
南菜風:ほたるの下二段活用?はおもしろいと思った。
りえ:ほたるるって何?ほてる?
帽子:「の」は不要。中七の字余りが野暮。

葡萄酒にしみる剃り傷 ママンが死んだ   またたぶ

逆選:健一 

伸:またもや「異邦人」が登場しました。
知昭:もろ「異邦人」やな、渡辺真知子のじゃなかったカミュの。
満月:葡萄酒、ママン−映画のひとこまのようだが、ふと日本人顔の作者像が浮かんで落差にガクゼンとした。
りえ:シャチの次はママンが。
帽子:仏文学者としてはちょっとホッペかゆいです。
健一:「葡萄酒」とか「剃り傷」とか、ちょっと気取りすぎじゃないですか?ママンってなんでしょう?飼ってる亀かなんかかな。
あずさ:ママンと言われても。。。髭の生えたおかま?

スペルマの祭典(まつり)のごとき花火かな   一之

逆選:満月 逆選:斗士 

斗士:別に「スペルマ」という言葉自体に抵抗があるわけではない。ただみんなで花火を見ているとき、「スペルマみたいだね」なんて誰かが言ったら、すごく興ざめだと思う。
りえ:AVのパッケージの売り文句のよう。
帽子:祭典と書いてまつり。こういうルビもホッペかゆい。
満月:花火見てスペルマなど思い出したくない。今日はせっかくの本当の花火大会だったのに。。。祭典と花火もつきすぎ。