第7回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

秋暑しの今日この頃、大石雄鬼さんのホームページでは俳人がいかにアナーキーな生き物であるかを証明するごとく、各自立場を忘れて作句に励む光景(その日実際に体感した季語、あるいは体験する可能性のある季語を一つ決めて俳句を作るという企画)が展開されています。みなさん、俳句のやり過ぎでクビにならないようにねっ!
第7回向上句会も総出句数81句と大盛況。参加者はどんどん増えて欲しいし、句が多すぎるとみなさんの選句も大変。文字どおりの嬉しいダブルバイドに心悩ませた結果、第10回(11月25日〆切分)からは出句数を2句にしたいと思っています。(※8回、9回は今まで通り3句です。)
あと、それからそれから、皆さん選句の際には句番号をきちんと記入するようにしてください。(句が何番か探すのがたいへんなのです。)
と、ゆうことで、選句結果です。

向上句会とりまとめ:山口あずさ


投句:桑原伸、後藤一之、大須賀S字、朝吹鯨酔、岡村知昭、坂間恒子、さとうりえ、松山けん太、またたぶ、林かんこ、愚石、鉄守一彗、田島 健一、金 太郎、肝酔、山本一郎、石津優司、北山建穂(俳諧新月座)、大石雄鬼(豆の木)、満月、あかりや(以上2名、NIFTY FHAIKU)、宮崎斗士、中村安伸、白井健介、千野 帽子、青嶋ひろの、山口あずさ(以上7名、青山俳句工場)


全体的な感想

一郎:初めて参加しました。とても楽しいです。選ぶとき、どうしても謎のある句を選んでしまいます。「何か分からないけれど惹かれる」という句を採りました。

けん太:久しぶりということもあってでしょうか、とにかく注目したい句がたくさんありました。いつもは選句したものに差をつけたくないと思って、なるべく特選を取らないようにしていたのですが、今回はできるだけ多くの句を選びたくて、特選もつくりました。新しさ、楽しさ、ユニークさ・・・。俳句雑誌などでみかける俳句とは違うものがあります。たしかにこの句会は向上しているのではないでしょうか。

健一:今回は自分も含めていい句が少なかったですね。がっかりしました。言葉の組み合わせだけの句が目立ちました。どうも理屈っぽくていけない。イメージが伴っていないと飛躍しないです。

建穂:今回は、私の好みの句があまりありませんでした。そのために特選を撰ぶことができませんでした。すみません。

健介:私の好きなタイプの句が増えてきたような印象を受けます。私個人としてはたいへん喜ばしい傾向です。選をするのもとても楽しかったです。

満月:いろんな作品があって楽しかった。俳句とは何かを考えるのをもう止めてしまおう。・・・とっくに止めてるか。。ただ、全体に遊びに徹したものが多く、生真面目に人間を、人生の喜怒哀楽を書きたい人はちょっと投句を臆するかも。

またたぶ:出句が多いと、ただでさえ節穴な私の選句眼はますます鈍る。今回も人の評を読んでから「しまった」と思うことでしょう。

(金)太郎:初参加のくせに、勝手なことを書きましたが、失礼があったらご容赦下さい。結果を楽しみにしています。


10点句

ころがって月の音する桃の核   千野 帽子

特選:満月 特選:一之 またたぶ 一郎 けん太 健一 かんこ S字 

かんこ:月の音ってどんな音だろ? でもなんだか聞こえたような気がします。 
一郎:楽しくて採りました。渋面を作った俳句より、楽しくてしかも謎ある俳句を作りたい。
けん太:「桃の核」から「月の音」がする。作者だけが聞いた音。わたしにも聞かしてよ・・。桃の核(しん?)を俳句にしてしまう。そこがうれしい。
健一:「核」がいいですね。太陽の音がする西瓜、青空の音がするメロン、月の音がする桃。よくある表現です。もう一歩踏み込めたらなぁ。
S字:イメージの展開、心ひかれる。
満月:ろりろりと音が聞こえてきそうだ。玲瓏ということばを思い出した。桃にはいろいろな伝説的イメージがつきまとうが、あのうぶ毛、柔らかくてジュウシィな果肉を経て至った核は、最後に楽器として神秘の力を発揮するのかもしれない。作者自身の魂も、きっと。
またたぶ:「ころがって月の音する」に詩があるとみました。でも「月」と「桃」との相性については?が残っています。
あずさ:つ、きん、ころ、ころ、ん、ろん。

8点句

ありもせぬリセットボタン探す秋   北山建穂

特選:伸 特選:鯨酔 愚石 かんこ あずさ S字 

かんこ:やっぱりもの想う秋。過ぎた恋。 
愚石:辛い恋いに胸を焦がしてもいるのであろうか。あの人に出会う以前に戻りたい。
鯨酔:「覆水盆に返らず」とか。悔やみながらも何とかやり直し出来ぬかと悶える時。単純な季語の働きも見事。
伸:不器用な私は、TVゲームをしてもすぐにリセットボタンを押してしまいます。日常においても秋という季節はそんな思いをしてしまうのでしょうか。
帽子:「ありもせぬ」がクセもの。人生のリセットボタンか?ってわれながらダサイ解釈。
S字:時のうつろい、そのもどかしさ、共感。
あずさ:リセットしたいことって山ほどあるよね。

想像の月まぶしくて目をあける   千野 帽子

特選:雄鬼 特選:りえ 鯨酔 一彗 ひろの あずさ 

一彗:一緒に想像するのも・・他の句に期待できます。
りえ:悩んだのですが、気になって気になってとってしまった。
雄鬼:実感があります。本来虚である想像の月が、とてもまぶしく感じられた作者。この作者の裸の心を見ているようです。それは、読み手にも同じような体験があり、同じ心になれるという感じでしょうか。「目をあける」も、何気ない表現ですが、虚から実の自分へ戻るその瞬間を表しているようで、うまいと思います。驚きに、かっとみひらいた目が見えます。
鯨酔:なかなかのロマンですね。目を開けた途端に思わずまた目を閉じたりして。素敵なものは想像の世界に止めて置くべしか・・・。
満月:想像の月って何?まぶしくて目をあけてしまうとすれば、外界より明るいもの−−太陽ならともかく、月がまぶしいというのはそうとうなコンプレックスありそう。
ひろの:短編映画みたい。散文的にしない方がもっと印象明瞭になったかなあ。でもこのひとりごとみたいな言い方がいいのかなあ。
あずさ:まぶしくて目を瞑っていられない。

7点句

浮輪の口つきだしている生家かな   大石雄鬼

特選:健介 特選:あかりや 健一 一彗 安伸 

健介:きっと海が目と鼻の先という「生家」なのでしょうね。「浮輪の口」が「つきだしている」という本当に何気ない“具象”により全てを語らせているという感服させられた一句。実に素晴らしい。
あかりや:浮輪を膨らますときのフュスーフュスーという音は哀しい音だ。蓋を外したままの浮輪の口が生家の瓦屋根に生殖器のように起立しているのが見える。
安伸:浮輪に空気を吹き入れるための口が生家からも突き出している、つまり生家も浮輪みたいなもの、そのような隠喩として捉えても面白いと思います。海辺の古い家からあの透明な口が突き出しているという、奇妙な光景だけを思い浮かべても楽しいです。
帽子:「つきだしている」には賛否両論出るかもしれませんが、チノボーとしては「是」とします。
一彗:胎内回帰願望とみるか、どうするか。
りえ:かやぶき屋根のお家を思い出した。
健一:内容がいいですね。中七下五がちょっと説明的な気がします。

縁談の真ん中に置く鳳仙花   宮崎斗士

特選:健一 健介 一郎 けん太 優司 帽子 

一郎:言葉に無駄がなく、洗練された句という感じ。
けん太:「縁談」と「鳳仙花」の組み合わせ(取り合わせではないよ)がおかしい。楽しい句でした。
健一:鳳仙花が非常に効いてますね。今にもはじけそうなね。縁談の緊張感がよく出ていると思います。
健介:実際にありうることなのかどうかは分からないが、洒落っけが利いていて面白い。はじけちゃわないようにねっ、てなわけで…
伸:鳳仙花の花言葉「私に触れないで下さい」この縁談は御破算か?
満月:はじけてしまいそう。鳳仙花にしたのはたくらみだろうか。
帽子:鳳仙花の実は爆ぜる。この縁談、なかったことにしましょう。

雲の峰忽然とある商都かな    松山けん太

特選:帽子 鯨酔 ひろの かんこ 雄鬼 優司 

帽子:形がしっかりした句。うまい。蜃気楼のように町があらわれてくる。
かんこ:天然現象ではなく、排気ガスの異常な多さで積乱雲が発生する異様な光景が「忽然とある商都」から目に浮かびました。
雄鬼:三橋敏雄の「いつせいに柱の燃ゆる都かな」を思い出してしまいました。その裏返しのような。その辺がこの句の弱さかもしれませんが、とってもいい句だと思います。商都は、惹かれる言葉です。
鯨酔:「商都」の語感が生きています。忽然と現れたものは又、忽然と消えるのではないでしょうか。砂漠で出会った蜃気楼の様に。経済価値の儚さをしみじみと感じます。
満月:力強い。蜃気楼のように現れたのに、この商都からは雲の峰のごとくたくましく活動している様が立ち上がってくる。忽然と、がまた、突如眼前に立ちはだかった巨大な生命のようで迫力ある。
ひろの:「商都」が忽然とあると読んで採りました。「雲の峰」が忽然とあるんじゃあいまいちだなあ。切れをはっきりさせて欲しいかもー。

6点句

向日葵の点滅東京駅痩せる   坂間恒子

特選:あずさ 健一 けん太 S字 雄鬼 

あずさ:東京駅痩せる。この向日葵の点滅は凶々しく、恐ろしい。
帽子:痩せましたか。東京駅の大丸食品街が好き。築地「松露」の玉子焼きを売ってるから。
けん太:東京駅を痩せさしてしまった。こんな人あんまりいないから、これがエライ。「点滅」が少し判りにくいから並選。
健一:点滅と痩せる、どっちかでいいですね。こういう感覚的な言葉はひとつにしぼった方がいいと思います。
雄鬼:向日葵との対比で、東京駅が痩せるのがいいですね。どういう状況かわかりませんが、納得できます。点滅はちょっと言い過ぎではないでしょうか。
S字:ギラギラした詩の感覚。恐い。

人体に南北の果て鳥帰る   鉄守一彗

特選:一郎 またたぶ あかりや 満月 帽子 逆選:ひろの 

一郎:「人体にも南極や北極があったんだ」という感覚、私好みです。
帽子:シュアな句。今月は形がしっかりしたこういう伝統的な句に目が行ってしまう。
りえ:採りたかったけど。南北と鳥帰るは近いかもな。
伸:風水に凝っていらっしゃるのでしょうか。鳥も帰る方向によって運命が決まるのなら、あまりに不幸。
満月:生物の体内には磁石があって、それが方向感覚をつかさどるという。特にそれが強い鳥は渡りができるけど、言われてみれば人間にも磁石があるわけだ。さて、どこへ。「果て」が効いている。実にきっちりした句。
あかりや:鶴屋南北を連想してしまいますが、どうでもいいことですね。人体には極南から極北まで有りながら、私はどうも楽なところを旅して歩いているようです。
またたぶ:人間は頭が肥大してしまったけれど、本来の体には頭では掬えないようなものが備わっているはず。
ひろの:8番目に好き。「鳥帰る」じゃない方がよかったと思うけど、作者が気に入ってるならいいや。

大いなる なーんちゃって 草茂る   肝酔

特選:安伸 伸 建穂 ひろの S字 逆選:斗士 逆選:(金)太郎 

帽子:わはははは、こりゃいいや。
建穂:やられたな、っていう感じ(^_^;)俳句と言えるかどうかは分からないけれど、こんな句もたまにはいいかな。
りえ:なーんちゃってが死んでないか?
伸:なんちゃっておじさんなるものが、流行したのは何年前のことでしょうか? 草茂るが「なーんちゃって」の普遍性を物語っています。
S字:日本の大草原という感じがして、滑稽だ。
斗士:不愉快。脱力感。
安伸:笑わせてもらいました。「大いなる」という言葉じたいのいかがわしさを最大限に活かしたギャグですね。こうなったら細かいところはどうでもよい、作者が憎たらしいくらいです。
(金)太郎:この句が一番ひどいと言う訳ではありません。ただ、「なーんちゃって」は意表をついたのかもしれませんが、俳句では無理だと思うのです。この句会の様に「なんでもあり」の場合は特に(逆に)、自分の許容範囲をはっきりさせておかないと、作句も選句も甘くなると思うので、あえて逆選にしました。悪しからず。
ひろの:分かち書きをしてるからはじめての人かもしれないけど、なんでこんなにおもしろいの? 「なーんちゃって」を「ヘへヘ、こんなの俳句にしちゃったぞ」という感じじゃなくて、ほんとに自然に五七五に入れちゃったのがいいな。
満月:なんかわからん なーんちゃって 草ぼうぼう

5点句

虹を見たぼくを冷蔵庫に入れて早く   青嶋ひろの

満月 安伸 けん太 あずさ (金)太郎 

帽子:おお、これは急がねば。
けん太:これは俳句なのでしょうか。「早く」という口語体になんともひかれます。やっぱり新しい俳句です。
りえ:ああ、入れなくちゃ、という気にさせる。
伸:虹を見た感動を、一刻もはやく保存しておきたいということでしょうか。ま、しかし食べ物であれば、なるべく鮮度のよいほうが、美味しいんじゃないでしょうか。
満月:「入れて」がいるだろうか。ちょっと冗漫になってしまっている。ただこの世界は好き。虹を冷蔵するんじゃなくて虹を見たぼくを凍結する。いいなあ。マンモスみたいだ。
安伸:とても好きな句です。虹を見た感動をなんとか保存したいという素朴な気持ちと、「入れて早く」という傍若無人な態度が共存しているのがリアルで面白いです。ただ「私の虎私の羊を食べてはやく/前島篤志」があるので、特選にはできませんでした。
(金)太郎:めちゃくちゃ言ってる様で、メルヘンタッチに魅かれます。
あずさ:青嶋ひろの全開! 待ってたよ、ひろのちゃん。

失言を取り消す気なし髪洗ふ   桑原伸

特選:(金)太郎 りえ かんこ あかりや 

かんこ:無性に自分に腹がたって、髪洗う。3回も洗うこと私もあります。 
りえ:「気なく」だと普通になっちゃうのだろうか。
健介:キャラクターはよく描けているが、「髪洗ふ」では設定がありきたり。
満月:ことばも行為も現実側に終始しているこれは川柳。川柳としてもけっこう淡い。
あかりや:髪を洗っている時の姿をシルエットで映し出したら、一匹の動物の姿があらわれるだろう。そして、動物に過去は無い。
(金)太郎:女性の句と思いました。悪いと判っているけど謝らない。何かちょっと恋模様も見えたりして。気丈さとはかなさがいい感じです。「髪洗ふ」がきいてます。−−−男はこういうのに弱いと判って作ってあるなら、やられたというところでしょうか。
帽子:諦め・怒り・焦燥感・寂しさなどマイナー系感情表現に季語をぶつける句って、それなりに戦略あってのことだし、好きな人も多いと思いますが、どう作っても同じような気がして。ちなみにこの手のマイナー系感情表現にぶつけるのにいちばんおあつらえ向きの季語ってどれだろう。まちがいなく「桜桃忌」でしょうね。
あずさ:がんこな奴。こーゆー奴は早く惚けるのだそうな。わたしなど取り消しても取り消しても取り消せないほどの失言をしていて、もう一生口を利くのを辞めようと何度思ったことか。。。(惚ける前に刺し殺されたりして。。)

4点句

踊りつつ夭折しつつある眉毛   中村安伸

特選:ひろの りえ S字 

帽子:ウチの眉毛、こないだ枝毛になってた。
りえ:なんかちいちゃくまとまったような気もするが。
S字:物悲しく、やるせない気分。
ひろの:「眉毛」がちょっと地味かしら。純粋にイメージの句と思えばいいのに、またぞろ「コギャルの跳ねたまゆ」とか思い浮かべる人がいそうでかわいそう。作者は具体的に誰の眉かなんて想定して詠んでないと思うよ。

炎昼の穴掘る遊び遠いサイレン   あかりや

特選:けん太 健一 満月 

満月:こわい遊びだ。炎昼の穴は、掘っても掘っても炎昼そのものが出てきそう。そこを遠いサイレンに向かって掘って行くのか。「遠サイレン」という形式的な表現を打ち捨てたところにこわさが出た。
けん太:意味のない作業を一生懸命している。汗だくになりながら、その作業は永遠に続く。遠くでサイレンの音もしているけれど、それも特別に意味のあることではない・・・。これは「つげ」ワールドです。「遊び」とわざわざ言わなくてもよかったかな。いままでの俳句ではあまり表現しなかった世界がマルです。
帽子:「炎昼」と「サイレン」が近い。「遊び」と「遠い」も近い。そもそも「…遊び」っていう句が世の中にはちょっと多すぎる気がします。
健一:上五中七はいいですね。「遠いサイレン」こういう言葉は句を水増ししているように感じます。

ドレッシング三つに分離台風来   白井健介

健一 鯨酔 一之 またたぶ 

帽子:三つかあ。バルサミコとヴァージンオリーヴと、…醤油?
健一:ドレッシングの分離と台風はいいんじゃないですか。台風と分離がちょっとつくかな。三つじゃなくてもいいですね。
鯨酔:日常と非日常を分離するものは案外身近かな出来事かも知れぬ。そして、作者は密かに台風の襲来を待ち望んでいるのかも・・・・・・。
伸:ドレッシングの分離、台風の天気図、あと、ウルトラQのオープニングさえあれば…。
またたぶ:荒れの静かな予感を感じさせる。

片肺に金魚が跳ねる伽草子   山口あずさ

特選:斗士 建穂 一郎 

斗士:伽草子の世界観を身体感覚に投影した。その発想と力量に感服。
建穂:「片肺に金魚が跳ねる」……この感覚は素晴らしい。でも「伽草子」は、他にもっと良い言葉があるような気がする。
一郎:伽草子がわかりにくかったけど、片肺で金魚が跳ねる感覚、共感できます。
帽子:先日べつのところで「肺+金魚」の句を採ったので、ごめんなさい。パス。
あずさ:げ、ばれたか。青山俳句工場本誌に一句書いた覚えがあります。でもそっちを採ってくれたのね。ありがと。

ひまわりがひずみ始めるジムノペディ   またたぶ

斗士 建穂 鯨酔 一郎 

建穂:ジムノペディーの物悲しくも美しいメロディーとひまわりの取り合わせが綺麗。「ひずみ始める」と言ったのは見事。
一郎:ジムノペディの意味が分からないので、「ひまわりがひずむ」というドラマの一番いいところで砂嵐(テレビのジャージャーというやつ)に遭った感じ、ジムノペディってどういう意味?
りえ:ひずむというのが好き。
鯨酔:それは物憂い夏の昼下がりの事であった。日輪を浴びて歪む向日葵。遠い日の夏、ムルソーの夏が想起されます。
斗士:乾いた感覚が心地いい。準特選。
満月:晩夏から初秋、ひまわりが種になって変形しだす。ジムノペディは秋にぴったりの曲だと思うけど、あれをひずみと感じるかなあ。。私には心地よい。変態でしょうか。
帽子:サティは好きだけど「ジムノペディ」は嫌い。

パラパラマンガ作り直せし西日中   さとうりえ

雄鬼 伸 健介 ひろの 

雄鬼:西日中のパラパラマンガがいいです。一枚一枚の積み重ねと西日に感じるものがあります。でも、なぜ作り直すことがこの詩に必要なのか、ちょっと疑問がありますが。
健介:「パラパラマンガ」と言われても分からん人はいるでしょうけど、ほかの呼び方ができるもんでもないですからね。かなりの暑さなのに、それをものともせず夢中で描いている「西日中」、とても雰囲気が出ています。早く改良版を見たいよね。
伸:退屈な授業中、よく教科書にパラパラマンガを描いていた、私にとってノスタルジックな句です。
帽子:「中」は説明っぽいです。
ひろの:せっかくたくさん描いたのにー、動きがいまいち気に入らなくてー、ああ太陽があんなに低いー、それでもボクは描き続けるー。こういう子は明るいオタクになりそうで、安心です。

白鳥的思考うまれる秋の街   坂間恒子

建穂 一彗 安伸 S字 

帽子:句のかたちは好きだし、発想も好きだけど、白鳥のかわりに季語でないものならよかった。
建穂:「白鳥的思考」という言葉が、秋の街の色彩感覚と良く合う。
一彗:ロシア人の俳句作家を発見しました。それもシベリア東部の住人です。
S字:風の白さまで、見えてくるよう。
満月:白鳥的思考とは?きれいに見えて、近寄るとぎょっとするほど大きくてけっこう汚れている白鳥−−彼らが何考えてるか、、、?秋ならいま渡ってきたところだから、遠くへ飛び立ちたいというのとは違うし。
安伸:「白鳥的思考」という言葉に、広がりを感じました。

ここかしこおじさんが盛る夏の砂   松山けん太

帽子 伸 一之 あずさ 

帽子:「砂盛りおじさん」というのがいて、「はいはい、どんどん盛っちゃおうね」と盛り狂っているさまが思い浮かんで笑える。工事現場と考えるとつまらないけど。「夏の砂」はちょっとどうかと思いますが。
伸:失業率の増えつつある昨今、公演の砂場でこういう風景が日常になると、あまりにも悲しい。
あずさ:世の中微笑ましいおじさんもいるのだね。

包帯を替えて雉子になりつつあり   中村 安伸

帽子 斗士 またたぶ あずさ 

帽子:17音破調として読むのもいいけど、雉子を「きぎす」と呼んで576の字余りで読みました。
斗士:包帯を替えるときの心象の機微。しゃれた演出である。
満月:雉子って、どうやらくるみこまれたまるいイメージで捉えられているらしい。雄の雉は尻尾が長くて細長いかたちしてるけど。ケーンと鋭く鳴く野生の鳥というイメージですねえ、わたしは。卵抱いてる雌でしょうか。これ悦花さんっぽい。
またたぶ:「鶴に包帯」「鶏に包帯」は聞いたが、きじは鳴きすぎてうたれたのか?
あずさ:やばいよねぇ。ああもうこんなに雉子になってる。

3点句

これきりの花火はんぶん雲の上   林かんこ

特選:S字 安伸 

安伸:「これきりの」という言い方に想像力がかきたてられます。「はんぶん雲の上」は非常に大きくて美しい景です。
帽子:「雲の上」が説明調か。「これきりの花火」ってのは好き。
S字:佗びしさ、哀しさが素直に伝わる。
あずさ:今年の東京湾花火大会、ちょっと曇っていましたよね。花火に託された手の届かない何かに対する諦念。

野球中継かつて綱越し原爆忌   白井健介

雄鬼 一之 ひろの 

帽子:高校野球のTV中継をつけっぱなしで仕事してると、こんな感じですよね。
雄鬼:そういえば網越しだったなあと、懐かしく感じました。そして、懐かしさだけでなく、網越しというところに、暗示しているものがあると思います。原爆忌は、気分としてはわかるのですが、ちょっと無理なような気がしますが。
ひろの:「網越し」かと思って採ったら「綱越し」だった。??? 何かエピソードがあるんでしょう。でも「原爆忌」との響きあいで何となく雰囲気が伝わってきて好き。

夏のバス岸田今日子が昼寝する    松山けん太

特選:かんこ あかりや 

帽子:みなさん、この句はいかがですか?
かんこ:なんてったって岸田今日子が効いてます。これが広末涼子でも山本陽子でもいけない。バスに揺られて昼寝してる岸田今日子。いかにも夏です。
伸:昼寝している岸田今日子はムーミン谷の夢を見ているのでしょうか。
満月:逆選候補その2。岸田今日子は好きだけど、昼寝にはあんまり出会いたくない。
あかりや:浴室ではないようなので、乗合自動車でしょう。<今日子>という刹那的な名前は<夏><バス><岸田><昼寝>に共通する苗字に感じます。
あずさ:妙な夢を見ていそうな感じがしますね。

誰の視野にもおらぬプール監視人   またたぶ

満月 健介 (金)太郎 

帽子:むかし監視人のバイトしたことあったけど、「誰の視野にもおらぬ」どころか、小学生のオモチャになりました。
健介:「誰の視野にも」“入(はい)らぬ”の方がいいかもしれない。また“監視員”の方が一般的か? ともあれまさに“発見の句”。ほんとにその通りですね。感心しました。ときどき“おねえさん”だったりすると(私の場合)こ限りではないのですが…
満月:もしかしたら本当に存在しないのかもしれない。あってない存在。なくてある存在。空(くう)を描いたらこうなるのかも。デ・キリコとかポール・デルヴォーあたりの絵画のよう。
(金)太郎:都会の不気味さを感じます。

てのひらは林檎を乗せるためにある   宮崎斗士

満月 愚石 (金)太郎 

帽子:嘘は好きだが、おもしろい嘘にかぎる。これでは「脚本・山田太一、主題歌・いとしのエリー」止まり。
愚石:逆転の発想が新鮮と言える。
伸:梨じゃ駄目なのかな?
満月:そうだったのか!うん。そうだったんだね。
(金)太郎:こう断言されると、思わずウンと言ってしまいそうです。これは林檎だから良いので、ミカンでも葡萄でもダメでしょう。多分、男性の句。男は結構、林檎にロマンを感じるんです。
あずさ:いや、林檎以外のものも載せます。

夕焼けに濡れて飼い猫だねきみは   青嶋ひろの

斗士 かんこ (金)太郎 

斗士:「飼い猫」が「野良猫」だったら選ばなかったと思う。飼い猫には飼い猫の叙情がある。
帽子:構文は好きだが「夕焼けに濡れて」がフォークしてるのがちょっと。
かんこ:猫大好き人間なので、私も道歩きながらしょちゅう知らない猫に話し掛けています。金色に輝いておっとりきれいな猫ちやんだねきみは。 
りえ:キザいけどいわれてみたいかも。
健介:「飼い猫だねきみは」という口語調の言い回しがカワイくてリアリティーがある。ただ「夕焼けに濡れて」という措辞がこの雰囲気とちょっと合わない感じだったので…
(金)太郎:「濡れて」は多少ひっかかるのですが、詩情がいいと思います。
満月:でれでれすんなあーー!

相槌がいつか寝落ちて虫の闇   金 太郎

伸 健一 鯨酔 

伸:幼子を背負い、虫の音を聴きにゆく。いつしかその子も寝入ってしまう。俳壇では、いわゆる孫俳句というものは×とされていますが、私はこういう表現ほのぼのとして、いいと思うんですけども。
帽子:「寝落ちる」って造語?だとしたらうまい。でも句の内容は苦手。
健一:わかります。もう少し目が効いているといいんですけど。どこかで一度切るっていう手もありますね。
鯨酔:人間との会話が途切れ、自然との対話に入る瞬間の時空が良く出ています。
健介:この場合「寝落ちて」と言ってしまわずに例えば<相槌がいつかとだえて虫の声>などでも解るのではないかと思ったのですが…

ヴァニラの木抱く くるしくて一晩抱く   千野 帽子

特選:またたぶ 斗士 

りえ:わかるような気がする。離したいけど離せない。
斗士:シンプルだけど深く食い込んできた。
満月:ヴァニラじゃないといけないんでしょうか?甘ったるい芳香を抱いてないとくるしいなんて、マザコン?それとも自虐的に芳香のくるしさを一晩抱いてる?
またたぶ:「くるしくて一晩」はくどいかな…とも思ったけど、それを超えるものがあった。「くるしい」ってひらがな表記にすると、まるで「くるしさ以外の全ての情念」も包みこむような拡がりを感じる。「く」音の重なりにも宥められてるような。

カルピスのほとんど氷お葬式   田島 健一

雄鬼 帽子 健介 

雄鬼:透明な氷に占領されたカルピス。お葬式への大きな転換が、この句をぐっと面白くしていると思います。
帽子:おとなしい句なんで最初見落としてましたが、よく読むと好み。でもさらによく考えるとへんな状況ではある。
りえ:カルピスはもうメジャーなので、変わったつくりにしないと。
健介:「お葬式」がやや切れ味に欠ける感じなのが惜しまれる。とはいえこの“こども風”の冷めた視点がスルドいし、面白い句ですよね。
満月:カルピスを冷やしておく暇がなかったんでしょうか。氷はたくさん準備してあったんですね。ドライアイスでなくてよかった。きれいな句ではあります。

2点句

花板の包丁走る秋の水   朝吹鯨酔

特選:一彗 

一彗:句姿が見事にきまっている。有季定型の魅力にひかれる一句です。
帽子:いま手もとに辞書がなくて、「花板」がわかりませんでした。

椎の実の世界の廻る速さかな   大須賀S字

優司 かんこ 

帽子:形が美しいけど、「の」のかかりかたがもう少しはっきりしてたら。
かんこ:椎の実の独楽がくるくる廻っているのでしょうか。それとも椎の実がくるくる廻りながら落ちてくるのでしょうか・・。巨きなまなざしから見たら、地球も椎の実みたいにくるくる廻っているのかもしれませんね。

稲妻に微笑む婆の金歯かな   後藤一之

一彗 (金)太郎 

(金)太郎:これくらいのグロなら、面白い。
一彗:俳句がうますぎます。
帽子:うげげ。ちょっとヤな絵。
りえ:ふぉっふぉっふおっという効果音。
伸:稲妻と金歯がつきすぎてると思うのは俳人だけでしょうか。
満月:逆選が三句あればまちがいなく入れてる。
あずさ:ぎらっ。

ボサノバやナッツをつまむ夜長酒   桑原伸

特選:愚石 

愚石:どことなくアンニュイな感じが漂ってくる。大人の恋の果てか、はたまた軽い充足感か?
帽子:作者本人が酔っています。

柿の葉を真一文字に姉眠る   鉄守一彗

一郎 またたぶ 

帽子:ん?ん?どういうこと?
一郎:何のことだかよく分からないのだけれど、何となく惹かれてしまう。後ろの75に惹かれるんだと思う。
健介:「真一文字に」という意味がわかりませんでした。
満月:どういう光景だろう。柿の葉を敷き詰めた上に姉が眠る?真一文字なのは柿の葉か、姉か。はたまた柿の葉と姉の位置関係か。最後だとするとなぜ葉か。助詞はこれでいいの?
またたぶ:「真一文字に眠る」が好きです。

コスモスの土手切れ目なく長々と   愚石

特選:優司 

優司:秋ですね。そう、コスモスがうちの近くでも咲き出しました。コスモスって一輪ではなく、こうやって群生となって地を覆います。風に揺られて、サワサワサワサワ。お弁当持って行こうかしら。そんな気にさせてくれる一句を、摘んでみました。
健介:「長々と」でまさに長々と説明してしまった印象を受けます。
あずさ:もっと言葉を練って欲しい。「切れ目なく」「長々と」ではしつこい。
帽子:腰折れ短歌の上の句。

籤運の悪き女や秋の蝿   朝吹鯨酔

りえ けん太 

けん太:「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの」という好きな句があります。こちらは「秋の蠅」で、何か哀れさを感じます。
りえ:正統派。ここはぜひ「わろき」と読みたい。
健介:これは類想が多数あるように思います。
帽子:「失言を取り消す気なし髪洗ふ」のチノボーコメントを参照。
満月:かわいそうだからもっといいもの取り合わせてほしい。
あずさ:虫運も悪い?

後戻りできぬ恋なり蟻地獄   金 太郎

愚石 一之 

愚石:恋は不思議なもの。決して理性ではないのである。
帽子:季語を説明してどうします?
あずさ:後戻りできる恋ってあるのでしょうか? ところで、貴乃花はりえちゃんを引きずっていて、彼らの関係をぶち壊した回りの大人たちに復讐している、と思うのはわたしだけだろうか。好きな人に好きでなくなったと言うのは実に辛いことです。後戻りはできないけれど、ごめんねって言ってもいいんだよ。(←俳句の話をしろって!)

制服を脱がせようにもにわか雨   岡村知昭

愚石 りえ 

りえ:脱ぎにくいんだよね。って、経験あるのか、オイ!(自爆)
愚石:シチュエーションがよくわからないが、あどけない位置風景を切り取っているような、エロティシズムが漂うような。
帽子:制服じゃインパクト弱い。中七下五は好み。
満月:あずささんが怒るか?!それともにわか雨で脱がせられなかったから許してあげるか?このひとは善良な人のようです。
あずさ:満月さん、お気遣いありがとうございます。が、わたしが危惧しているのは援助交際(=売買春)によるエロスの死滅です。惚れた腫れたの類であれば、制服だろうがなんであろうが脱いでいただいて構いません。にわか雨に臆するデリカシーがあれば、まったくもってだいじょうぶ。可愛い娘を嫁がせてもいいくらいです(って、どこに娘がいるんだ)。

峰雲や国旗のようにくたびれる   大石雄鬼

斗士 健介 

斗士:そういえば国旗って、くたびれている感じ、確かにある。峰雲独特の哀感も伝わる。
帽子:どうも切れがはっきりしない「や」ですね。
りえ:警察の国旗が特にくたびれていると思う。
健介:私は“雲の峰”とする方がよいように思うが、「国旗のようにくたびれる」という捉え方が巧みであり、とても面白い。
伸:ニューヨークの国連本部前の国旗たちも、かなりくたびれているようですね。

クリスタルルームに残るサングラス   坂間恒子

雄鬼 愚石 

愚石:おしゃれにまとめられている。
雄鬼:透明な、清楚な感じのクリスタルルームと、サングラス。どこがいいのかわかりませんでしたが、惹かれました。
帽子:クリスタルルームってなに?

古井戸に落とせし素顔虫の声   大須賀S字

優司 伸 

帽子:なんか動詞が落ちつきません。
伸:古井戸と言えば、さなえちゃん。今では古井戸と言えば鈴木光司氏なんかを連想します。
満月:せっかく上五中七がおもしろいかと思ったのに「虫の声」?手抜きじゃないですか。

左翼手の背走越しに夏果てぬ   朝吹鯨酔

優司 伸 

帽子:野球用語と政治用語の関係はエロティックですね。「菊月夜君はライトを守りけり  攝津幸彦」。
伸:夏の甲子園での一コマでしょうか。アルプス席のチアリーダーたちの歓声が聞こえてきそうです。
満月:なんだかとても健全できれい。だからたーくさんありそう。

天皇と同じ布団に降る夕立   中村安伸

斗士 けん太 逆選:一彗 

けん太:わたしが常日頃、表現しようと思っている世界のひとつがここにあります。天皇ってどんなパンツ穿いてるんやろ?という興味みたいなものです。
帽子:惜しい。どこがどうとは言えないけど、あと一押しで採れたんだけど。
一彗:句の主意はイロニーだとおもいますが、下5の降る夕立が言葉として安定感を与え、現在的なものにすりよる危険性があります。夏石番矢氏の句に/天皇よ月下の海を歩む一群/・・よ・・/には批評的な落差があります。世代的感覚のズレでは済まないものを近代は宿してきてると思います。
斗士:前回は「非国民」で、今回は「国旗」や「天皇」。あえてこういった対象を扱う、その意気や良し。この句も、鮮烈なイメージ世界の中に、中枢が見え隠れしている。
満月:「同じ」布団ですか。そこで諧謔が甘くなった気がします。
あずさ:昭和天皇の下血のニュースを見ていて、天皇におへそがなかったらいいのに、と思ったわたしは、ひこくみんだろーか?

1点句

地動説丸き背中を日に焼いて   田島 健一

建穂 

帽子:無季にしたかった気持ちは伝わるが、「丸き背中」って「お俳句」してます。
建穂:面白い発想の句。ただ「地動説」が、ちょっとピンと来ない。もっと良い言葉が有るような気がする。二句一章体って難しい……
りえ:下の句の処理が残念なり
満月:丸き背中を焼いているのは地球?灼くではないのね。宇宙の中で、ぼろぼろになりながら回っている我らが地球−−それでも「地動」しなきゃならない。そのうち丸き背中でなくなるかも。。。

十六夜のレンタルビデオ延滞に   さとうりえ

(金)太郎 

(金)太郎:僕もビデオは良く見るので。夜中にひとり映画を見るのは楽しいんですよ。
帽子:これも作者がただごとに酔っています。
満月:十六夜と延滞がちょっとつきすぎか?イメージはきれいだけど弱くなった。
あずさ:素直に延滞料を払おう。

空蝉を血の岐かれ目で鳴らすなり   またたぶ

ひろの 

ひろの:空蝉を鳴らすっていうだけでいい感じなのにー。「血の岐かれ目」もおもしろいけど懲りすぎてて、読者に一句としてすっと入っていきにくいかも。私は好きですけど。
帽子:「空蝉」で「血」も「重くれ」。「分」や「別」ではなく「岐」を使ったのも重すぎ。陶酔系。だれだったかの名句(うろ覚え)に「空蝉を吹き暮らす」とかいうのがあったので、これは採れません。
満月:わかりそうでわからない。作者が空蝉を鳴らすのは血の絆を切ろうとする行為だろうか。空蝉がみずから鳴るほうがこわくて好きだ。そっちならわかりそう。

しののめの白きからだを見せて飛ぶ   田島 健一

愚石 

愚石:「白きからだ」と「しののめ」のとりあわせの妙。
帽子:「の」は主格?
りえ:上と下のつながりがよくわからない。

アイスティー三つ居眠り三様に   白井健介

一之 

帽子:ほらほら、薄くなっちゃうって。
あずさ:微細狙いというのはわからなくはないが、微細にこそダイナミズムが必要なのでは。

花の名を七つ憶えて夏が行く(ワッカ原生花園)   石津優司

健介 

帽子:但し書きがなければよかったのに。
健介:“前書き”は必ずしも必要ではないでしょう。“ナ”の音を多用して韻を踏ませているのもさり気なく利いています。こういう普通っぽい句が実は力があるんじゃないかなぁと思う。ただ“夏行きぬ”の方がいいかも…
伸:俳句をしてなければ、こんなにも花の名を知ることはなかったでしょうね。
満月:この手は類想が多いかもしれないけど好きです。( )内の詞書きがなかったらいろいろに広げられたのに。実録もやりたいだろうけど、そこから読み手が広げる大きな世界があるとしたら、潔くゆだねてみるのもおもしろいと思うんですが。

まひまひや お前ははなから πである   肝酔

りえ 

帽子:一字アキが野暮。
りえ:そうだったのか。まひまひ。決めつけられる心地よさ。
満月:かもしれない。字空けと「お前は」の「は」がなかったら読み手の中に違った時空が出現していたかも。

ざわざわを愛すれば降る金の花粉   満月

一郎 

帽子:「ざわざわを愛す」は買いです。しかしこの手法もすぐマンネリ化するのでは。
一郎:やまだみこく風。FHAIKUで知ったばかり、気に入っている。でも、やまだみこくだねと言われそうで、この技法は使うのがむずかしい。

八月の遠くまで子ら笑う声   愚石

優司 

帽子:「八月の遠く」というつながりだったらおもしろいけど、なんとなく違う気がします。「子ら」って使いにくい言葉。

宵闇にむささび待ちて溶けており   林かんこ

鯨酔 

鯨酔:闇に溶けて待つものが素晴らしくて頂きました。
帽子:イメージだけが先行しています。

焼肉の銀河のように焼けてゆく   大石雄鬼

安伸 

帽子:「の」は主格ですか?それはそれとして「焼肉の銀河」って屋号の店があってもおかしくない。
りえ:霜降りなのでしょうか。
伸:あまり焼肉がどのように焼けているかなどと考えたことがないので、作者の着眼点に感心致します。
安伸:「銀河のように」という直喩のほどよい乱暴さがいいです。
あずさ:銀河が臭いそう。

曼珠沙華腹のふくらむお嬢様   後藤一之

満月 

満月:なんだかおかしい。妊娠なのか、物言わぬは・・・ってやつか。ここはのどかな感じがしてしまうので婚前妊娠としたい。曼珠沙華がこんなにのどかになるとは思わなかった。
帽子:ありがちかとも思いますが。
伸:ま、お嬢様といえども人間ですから、することはするんです。
あずさ:妊娠だとつまらない。しかし腹がふくらむと言われればそのように思ってしまう。

柩車と似て非なるもの降りてくる   鉄守一彗

安伸 

安伸:「似て非なるもの」に不気味なインパクトがあります。
帽子:「似て非なる」という語を再活性化できませんでしたね。「柩車に似たもの」と書けばじゅうぶんでは。

こそ+已然形にて終る夏   北山建穂

一彗 

帽子:いい具合のおセンチさ。好きです。
一彗:いつもそんな夏ばかり、+記号は文字化けしたのか、一瞬思ったが、文字も記号だった。
りえ:うまい。
伸:俳句をはじめてから、文法とのつきあいが多くなりました。掲句の「こそ+已然形」、和歌などでは、よく見かけますが、俳句においては、あまり歓迎されてないように思うのですが、どうでしょうか?

膣あおく未完の樹冠欲したり   満月

一彗 逆選:健介 

一彗:素直な欲望の裏側が気にかかる。
帽子:観念はフェロモンの敵。おブンガク少年が妄想で作り上げた、お芸術っぽい句のような気がします。こういうのは八木三日女の「森の陰部の鰓呼吸」の時代で終わったと思っていましたのに。チノボーは「エロティシズム」とやらをめぐる言説はあまり信用しておりません(いちおうガリマール版でバタイユ全集持ってますけど)。「エロティシズム」よりも「エロ」のほうが好きだな。
健介:“樹幹”とするほうが適切なのでは?と思う。所謂ポルノ小説を読むような感覚のものとして“この手のもの”を嫌悪するという意味の逆選では決してない。私個人としては次の作品(また逆選にしたくなるような)を密かに期待している。ともあれ“あおく”というのはちょっとコワいよなぁ…。

悪いことしてると湖底の村が妖怪になっちゃうよ   山本一郎

あずさ 逆選:一之 

あずさ:なっちゃうかも。こわい。
帽子:それは困る。
りえ:鬼太郎とかの世界?
健介:そうだぞッ! そうなってもしらないぞッ!
満月:子どもに言って聞かせる風を装いながら、湖底の村を登場させる。悪いことの具体性がないから、なぜ湖底の村が妖怪になるのかわからない。村が妖怪にというのも無理を感じる。雰囲気だけの妖怪なんてちっともこわくない。
ひろの:「湖底の村の」じゃないのがよかった。好き。でも「悪いことしてると」はもうひとひねりあってもいいのにー。

夏暁だれかを泣きながら殺す   青嶋ひろの

りえ 逆選:S字

斗士:「・・・・気持ち悪い。」
りえ:好きなつながりだけど、ちょっと直接的すぎか。
帽子:「だれかを」なんて入れるから弱くなるのでは?
S字:人殺しという行為を、よく考えて欲しい。安易に詩を作るな!
満月:逃げないではっきり誰といったらどうなの。そんなじゃだあれも殺せやしないよっ!
あずさ:ま、殺人はやめておきましょう。

ソーダ水騙され上手を演じけり   金 太郎

一之 逆選:帽子 

伸:中島みゆき的な悲哀を感じます。ソーダ水がいいですね。
帽子:「失言を取り消す気なし髪洗ふ」のチノボーコメントに同じ。
満月:TVドラマのワンカット。それだけ。

まちがえて目を生んでしまいました   山口あずさ

帽子 逆選:鯨酔 逆選:一郎 

帽子:まちがえなかったらなにを生んだのだろう。
りえ:それはないだろう。じゃんけんで負けて蛍に生まれないと。
鯨酔:何でもありでは・・・・・・。
満月:昔々、給食のゆで卵に目のようなものがあるのがあったっけ。そのころは有精卵だったから、時々ひよこになりかかっているのも。。。(>×<;
一郎:8つ目に選びたかった句です。「目」をいろいろに替えて遊べました。この句のスタイルは好きです。ただ、何を産むかがむずかしい、何でも入れられる。「人の子」を入れるとちょっと恐ろしい句になる。
あずさ:(自解)我子が目、つまり、認識の塊だったら、親はさぞ恐ろしい思いをすることだろう。もっとも、親は自分の子供が何者かなどということは理解しない(できない)ものかもしれないが。

その他の句

白昼の下駄の跡踏む介助犬   岡村知昭

帽子:この句のばあい無季は不利。

砂丘を駆け上がればオホーツク(サロマ湖)   石津優司

帽子:但し書き、ねえ。
あずさ:駆け上がって何かが見えるだけなのであれば、いくつでもできてしまう。どうせなら何か飛んでもないものが見たい。

合掌の里手毬がはねて夜這い星   山本一郎

帽子:三題噺って感じ。夜這い星は秋、手毬って新年の季語でしたっけ?

涼風に宝珠をのせて花筏   林かんこ

帽子:おキレイすぎ。きらいではありませんが。
伸:夏? それとも春?

ブリキなる曇天が好き加藤 茶   あかりや

帽子:最後に加藤茶を持ってきたところは買いますが、「ブリキなる曇天」は苦しすぎ。

煉獄やダビデを恋うて白深し   満月

帽子:クリスチャンじゃないからなあ、よくわかんない。
伸:ダビデの著した詩論96編の「新しい歌を歌え」に習い、今日も私は俳句を作る。

太祇忌や覚えたる句をみな申す   後藤一之

帽子:炭太祇の手跡は好きです。
りえ:いいぞいいぞ。

観覧車のはやさで柿を食べている   宮崎斗士

帽子:遠くから見ると遅いけど、近くで見ると結構早いってことですか?
りえ:早いのか?遅いのか?
健介:「観覧車」に乗りながらだとすると「柿」なぞ「食べている」場合ではないんじゃ?

キタキツネ消えし薮にははまなすの実(ワッカ原生花園)   石津優司

帽子:なんだか薮が消えたみたい。

法師蝉我が立つところふるさとよ   愚石

帽子:人間いたるところに青山(俳句工場)あり、ってね。
満月:法師蝉とくるとふるさとがすぐ思い浮かぶ。ふるさとの何?ふるさとのどこ?ふるさとのいつ?それが聞きたい。

青年だもの種芋とごろつこう   岡村知昭

帽子:どうする青年たち。この「だもの」は奥田民生よりは相田みつをのほうだな。チノボーには縁のない句だ。
りえ:芋とごろついてないで表をぶらつきなさい。

街を過ぐ野分やGODZILLAあらはるる   桑原伸

帽子:野分とGODZILLAがなにしろ近すぎます。
満月:台風が来てる上にあの新型GODZILLAまで現れたらたまらん。九州の台風は凄いよお〜〜〜!けど、あの新型GODZILLAってかわいくない。

濡れ坂を犬降り来るや漂流記    あかりや

帽子:「白昼の下駄の跡踏む介助犬」のチノボーコメント参照。

宵闇のきみの月面宙返り   さとうりえ

帽子:「宵闇」で「月面」だからおもしろい、ということなのでしょうか。
伸:デートをしていて、不意に彼女が月面宙返りをしてくれたら楽しいだろうな。
満月:きみってバッタ?

鴨川となりし加茂川 夏の果   北山建穂

帽子:あれってどっか合流地点で名前がかわるんでしたっけ。なんにせよ半角アキの必然性を感じません。
あずさ:地理の勉強?

合掌の村次男の苦さで鳴く蛙   山本一郎

帽子:「次男の苦さ」がなんか社会性俳句って感じでちょっと。
満月:村から出られない苦さを味わうのは次男より長男じゃないのだろうか。ねえ、飯田龍太さん。
あずさ:もう、お兄ちゃんばっかり。ゲロゲロ。

あんたが大暑 午後八時二十分   大須賀S字

逆選:りえ 

帽子:いい調子。
りえ:ここから何を読み取ればいいのでしょうか。
伸:ジョーダンズは、結構好きで、よく観ています。
あずさ:単なるだじゃれ。

太陽に降り立てば豪奢な焼身   山口あずさ

逆選:安伸 

帽子:無理もない。
安伸:「豪奢」と思うのは焼ける本人だけでは?客観的にはショボい光景だと思います。

パンツ穿く ああソーメンが 溢れ出る   肝酔

逆選:満月 逆選:伸 逆選:健一 逆選:あずさ 

帽子:そりゃ困った。
りえ:ソーメンだけならいいが。
伸:ソーメンとザーメンをかけてらっしゃるのでしょうか?
満月:パンツの中からソーメンが???ギャッ
あずさ:醜悪。
健一:ちょっとノイローゼ気味ですね。あたまがもじばけ。