第11回 青山俳句工場向上句会選句結果  異議あり!(3/26 up)

(長文注意!)

今年はじめての通常句会です。HPもアクセス数10000を突破し、石焼きビビンバ句会も決行しました^^!。俳句に関しては例によって賛否両論。新しい仲間も増えています。四方八方、いずこへも向上する向上句会、とにかく、がんがんゆきましょーね!

向上句会とりまとめ:山口あずさ


投句:カズ高橋、後藤一之、足立隆、さとうりえ、しんく、にゃんまげ、肝酔、鯨酔、桜吹雪、小原麻貴、小島けいじ、松山けん太、城名景琳、村井秋、天乃晋次、北山建穂、立川圓水、林かんこ、和田満水、大石雄鬼、田島 健一(以上2名、豆の木)、またたぶ、南菜風、満月、山本一郎(以上4名、FHAIKU)、宮崎斗士、白井健介、吉田悦花、内山いちえ、千野帽子、姫余、中村安伸、山口あずさ(以上9名、青山俳句工場)

選評協力:うまり



全体的な感想

健介:今回はとにかく凄かった。佳い句はめちゃめちゃイイ(と私は信じて疑わない)。それから「とても惜しい、あと一歩」と思う句がちらほら。ダメな句はとてつもなくつまらない(実はこの手が今までになく多い)。このぶんだと青山俳句工場「オレも悪かった」係のパンクも間近?

景琳:全体に季節は、都会的冬。わかりやす句を選句しました。

にゃんまげ:ほんとに寒くならない冬ですね。

けいじ:何と言うか、前回とは違った意味の難しさがありました。個人的には前回の方が好きな句が多かった気がしました。

帽子:今月はコメントできませんでした。ごめんなさい。

けん太:やや今回は低調ですか。この句会で前の句会よりテンションが下がったような気がしたのは初めてです。会がかわったのか、ボクが変わったのか。次回がその意味で期待できます。

またたぶ:(前回を除き)句会で大抵ふるわない私。でも冷たくされると燃えるの。

満月:今回はなぜかおとなしくてつまらなかった。過激にエスカレートしていくより、ちょっと休憩もあった方がいいのかもしれないが。それにしても・・・そう、一番感じられないのは、元気と迫力です。それはもっとも大切。生きてんのおーー???っと言いたくなった。俳諧的な作品に多く票を入れたくなったゆえんだ。

しんく:新しい人たちの匂いがぷんぷんとする。お互いおてやわらかに。

隆:従来の七句、一句も選出に苦しみましたが、それが五句、一句になり(全体が少なくなったからですが)ましても同じように苦しんでいます。いかに選句が困難な作業であるのか、いつものことですが、改めて感じています。今回も又俳句(という詩形)の多様性に驚きつつ、混乱しています。


18点句

建国の日やキユーピーの脇甘し   またたぶ

特選:圓水 特選:雄鬼 特選:南菜風 特選:建穂 特選:健介 特選:りえ 特選:あずさ 鯨酔 景琳 満月 肝酔 逆選:満水 

景琳:確かに、人形の脇はあまい。
圓水:面白い。建国の日のキユーピーはおめでたい。下五にこの国に対する作者の批評眼がある。
満水:キューピーの脇あましがイメージできなかった。
鯨酔:甘そうに見えた鈍牛の脇は案外締まっていました。隣の一郎君とも何時の間にか仲直りして・・・・。キューピーちゃんって小渕さんちのですよね。
肝酔:戦後文化の象徴としてのキューピー脇が甘いのも当たり前というわけでしょうか。テポドンが今年も飛んできそうです。
雄鬼:キューピー人形の腕がちょっと開きぎみなのを見て、作者は脇が甘いと感じた視点。あどけないキューピッドに対する警鐘でしょうか。いや、まわりまわって人間に対する警鐘でしょう。建国の日がよいと思います。
満月:うまいなあ。これいいなあ。日本って脇甘いよね、たしかに。そこをドスッと突かれてしまう。キューピーを持ってきた諧謔が効いている。
南菜風:何かと物議をかもす「建国の日」。脇が甘いという表現にキユーピーを使ったのがいい味だしてる。左右共に甘いのでせう。
あずさ:脇、確かに甘いっすね。これは爆笑。いい発見だと思います。
健介:相撲の解説ではお馴染みの「脇甘し」。「キューピーの」とは衝撃でした。何故にそれが佳いかは容易に理屈は付けられないが「建国の日」が実によく利いている。「建国の日」の句でこれ以上のものには当分の間お目にかかれそうな気がしない。脱帽。
建穂:建国の日との取り合わせが絶妙。脇が甘いと言うのも面白い。なかなか言えそうで言えない言葉。
9点句

一月は長き顔して考へる   大石雄鬼

特選:悦花 南菜風 秋 健一 鯨酔 けいじ かんこ カズ 

秋:なんとなく私の一月感と同じだったので共感しました。
鯨酔:一月ってまあそんな気分でしょうか。二月はどんな顔して考えるの?
満月:寒い一月はむしろ縮こまって短い顔をしていそうだけど。「一月には(私は)」より「一月氏は」と読みたい。
南菜風:モジリアニ風。一年の計など考えているのかなー。全部口語で「長い顔」とした方が私はすきだけど。
あずさ:考え事をしていると顔が長くなってしまうというのは面白い。
カズ:酒でゆるんでしまう顔が浮かぶ。
悦花:一月というだけで長い顔を思うわけで。頬づえの芥川龍之介とか。
健介:イイ味出してるんだけど…でももう一息。
かんこ:長き顔 が効いてます。いかにも一月。
健一:なんか、いい。一月はそんな顔しそうな気がする。「一月は」の「は」がこの句をすこし理屈っぽくしている。そこがよくない。
8点句

年越しの煙草の灰の軽さかな   肝酔

圓水 特選:健一 健介 鯨酔 りえ またたぶ けいじ 

圓水:年越しをもってきたところが手柄。
けいじ:この“軽さ”は今年、急に思うようになりました。私も、迎えるものより棄てるものの印象の方が強かった。
鯨酔:煙草の灰は何時でも軽そうですが、年越しの安堵感の中では一入かも。
またたぶ:「年越しの」と結び付けて成功した、とみる。正月は冥土の旅の一里塚。人間の灰も軽いであろう。
健介:表現にもう少し工夫の余地が残っている感じもあるが、言おうとしている内容にたいそう共感いたしました。とても繊細な感覚に感心。
健一:年越しというのは普通、感慨深いというか、新しい年もがんばろうとか、そういうものなのに、この作者は煙草の灰が軽いと感じた。その軽さに空しさのようなものを感じる。その空しさは、作者の生き方の空しさなのかも知れない。。。
満月:そんなもの溜めてないで早く始末してください。あなたには軽くても私には臭さが重いんです。
あずさ:煙草の良さというのはわたしには不明です。

7点句

やさしさにふれすぎた日に届く河豚   内山いちえ

特選:斗士 晋次 建穂 一郎 またたぶ けん太 

一郎:やさしさにふれすぎた気恥ずかしさを、ふぐの滑稽さがいやしてくれる、そんな風に読みました。
晋次:日常は紙一重で暗転する小さな物語。
けん太:理屈なんだけど、河豚がいい。意外性があって。
またたぶ:「ふ」や「ひ」の音の重なりと心情が合ってるじゃーありませんか。
満月:実景だろうが安易な気がする。諧謔がストレートすぎてちっとも怖くないのだ。
健介:“落ち”の「河豚」がやや失敗では?
建穂:面白い表現だと思う。届くのが河豚というのが、何ともシニカルでいい。
斗士:「やさしさにふれすぎた日」の嬉しいような恐いような心情が、「届く河豚」にきっちりと表れている。うまい。

冬の旅いるかは空の輪をくぐる   桜吹雪

特選:隆 雄鬼 斗士 晋次 一郎 カズ 

一郎:跳躍不足のようにも思えるけれど、旅愁を感じました。
晋次:知恵の輪のひとつもくぐれぬ人には地上の反写絵か。
雄鬼:私は、この情景がむなしい景に見えてしまいます。空中にある輪をいるかがくぐり続けるだけですが、この「空」が「そら」ではなく、「くう」[むなしい」と読めてしまう。みんな、そんなことをしつづけているのではないかと。
満月:単純でおおらかな光景が深呼吸を誘う。旅はどうかなと思うが、空の輪が効いた。
しんく:裏ラッセンて感じ。
南菜風:よくわからないけど、空にいるかって不思議な感じ。
カズ:一番よくわかる句である。
悦花:怖れながら拙句に「木板の輪を抜け海豚の大ジャンプ」があります。
隆:冬の旅がきまっています。いるかの動きも鮮明にイメージできます。
斗士:明るい空虚感を受け取る。

帯電のゆびとつながる青水仙   南菜風

特選:鯨酔 晋次 桜吹雪 悦花 一郎 あずさ 

一郎:私もこの正月、「水仙型電流計あり旗開き」という句を作った。電気と水仙って、合うんですよね。それともこれって付き過ぎ?
晋次:青水仙の性が芽生えるこの時期、体感発語できるのは巫女のみか。
鯨酔:帯電の気分と青水仙の程よい照応。
満月:青水仙と帯電のイメージの響きあいは美しくも刺激的。それらをゆびでつなげたところはやや倒錯的な美意識を感じる。帯電のしびれるような熱さが青水仙の冷たいイメージで清く冷やされる。
あずさ:わたしは比較的静電気人間ではない方なのですが、ビリっとくることがあります。確かに指先の静電気は青水仙と繋がりがありそうな気がします。
悦花:やはり、水仙は電気を帯びている。
健介:「青水仙」という言葉は初めて目にしましたが、そういうのがあるんですか?

6点句

半分こにする癖があり花ひいらぎ   宮崎斗士

特選:けいじ 健介 健一 肝酔 にゃんまげ 

にゃんまげ:癖というのがいいですね。かわいい。
けいじ:この癖はいけない。が、この癖は簡単には直らない。半分こしてあげた相手も次を期待する。そのくせ悲しみや苦しみは受け取ろうとはしてくれない。常に損をする。その損が心に柊ぐのだ。
肝酔:なんかそういう癖ってありますよね。どうしてだか分かんないけど。深層心理が働いてるんだろうか?赤まんまをしごいたりとか、むかごの蔓を引っ張ったりとか、私も何とはなしによくしてます。
満月:何を半分こにするんでしょう???花ひいらぎの清浄でかすかに甘い香りと鋭い刺−−そこで交わされる秘密の「半分こ」。むむむ。
しんく:花ひいらぎに兄弟の秘密あり。
健介:『♪ジョリィとぼくとで半分こ〜♪』愛しの堀江美都子さまに会えるようになってボクは嬉しいっス。まあそれはいいとして『癖のあり』の方が好いのでは? 避けられるのであれば濁音でない方がよいです。
建穂:「花ひいらぎ」が私としてはどうも……「冬林檎」くらいだったら取ったかも。
うまり:そういう癖を持つ心の構造の迫力に恐怖を感じる。
健一:なんでも半分にしてしまうなんていうのはなんかとっても屈折したものを感じる。半分この「こ」は良くない。世界が限定されてしまう。この場合、「半分にする癖」とすこし突き放した言い方をした方がよい。

遠くから夜の明けくる焚火かな   後藤一之

圓水 満月 建穂 健一 悦花 けん太 

圓水:市場のせりが終った後の風景であろうか。遠近感のある構図が火の色をよく描いている。
けん太:叙情があってよろしいかなと。
満月:シンプルなおもいと光景だが、あついなにかが湧きあがってくる。「萌え」「きざし」を感じさせてくれる。
悦花:「遠くから」というのが常套的かも。でも夜明けの焚火はいい。
建穂:俳句らしい句。情景が絵としてはっきり見えてきたので取りました。
健一:一見、ありそうな句だが内容がいい。この作者は焚き火をしながら夜明けを待ってる。ようやく明けてきた朝が遠くからやってきたように感じた。いい。

面接や体の中の蜜柑山   宮崎斗士

特選:しんく 雄鬼 秋 桜吹雪 健一 

秋:身体の中に蜜柑山を感じたらそれはもう合格間違いなしですね。
雄鬼:面接されているときに、ふと自分の中では、蜜柑山の光景が繰り広げられていく。それが本当の自分の姿のように。
満月:たわわに大きな実が生っている密柑山。体の中にそれがある、と言われればああも感じようこうも感じようと思ったのに「面接」?……わからなくなった…。
しんく:これはいい!面接のあの少しすっぱい感じよくでてる。
あずさ:内なる蜜柑山をうまく見せれば合格か。
うまり:なんか、ビジュアル的に密柑山→ミカンの山と受け取ってしまい、シュルレアリスムでヤバイなと。
健一:ふるさとの蜜柑山なのかもしれない。なんか、面接の過程でどんどん自分のことについて話していく中で、決して明かさない自分の本質というものを感じました。

5点句

果実酒に沈む果実の鰓呼吸   中村安伸

特選:一之 特選:にゃんまげ 満水 

にゃんまげ:死んでいないかんじ。
満水:梅酒の梅を見ていると当初浮いていたのが沈み、しなびた部分が鰓のようになっている。鰓呼吸しているからさらに熟成するのであろうか。
満月:光景はよく見えるのだが。。。説明に終わっていて、鰓呼吸も作者の独創というより借り物の印象が強い。鰓呼吸という言葉を使いたいだけで作った感じだ。
一之:熱してゆく瓶の中の酒と果実。「鰓呼吸」に感心した。無季だがゆるみが無い句。
健介:「鰓呼吸」という発想が素晴らしい。「果実」を具体的にしてみては? このままですと季語はないと思われますが。

降る雪やガス管地より少し浮く   田島健一

特選:肝酔 特選:またたぶ 隆 

肝酔:ビジュアルな情景がすっと浮かんでくる句。言い過ぎていないから、読み手の想像力に働きかけて広がっていく。
またたぶ:「降る雪や」はなかなか成功し難いアイテムではないかと。それをよくぞやってくれました。「地より少し浮」きながら地べた近くを這わざるを得ない悲しみはガス管だけのものではない。
満月:こういう客観写生風の句は、ふと身を離れる感じがたまらない時がある。この句もそう。ガス管という危ないものが地面に出てしかもちょっとだけ浮いている。雪とガスの対比もいいが、「少し」という寸法がこの句の命かもしれない。
隆:こういう何でもない景色に季節感が加わって見事な詩になる、という見本なようなもの。
健介:目の着けどころは良い、それは伝わってくるんだけど表現がいまひとつ。特に「地より」がやや漠然とした印象。

樹を抱く遺体だいたい中年で   岡村知昭

特選:帽子 南菜風 安伸 けん太 

けん太:遺体なのにこの軽快な語呂。発想も結構「だいたい」でよろしい。。
満月:遺体が樹を抱いている。なんとも奇妙な光景だ。樹を抱くで切りたかったらやはり一字開けなければならないだろう。それにしても中年の死がが多いことと樹を抱くことにどういう心象の通じ合いがあるのか、手がかりをつかみにくい句だ。ま自分が中年なので不安になって何かにしがみつきたいんだろうが、読者がみなそこまで親切に読んでくれるとは限らない。
南菜風:樹木フェチ傾向のワタクシとしては、気になります。いだくいたいだいたいという音もいい。
安伸:「だいたい」という書き方の不器用さが、この句の魅力でもある。


4点句

枯野よりリクライニングシート起す   吉田悦花

特選:秋 隆 またたぶ 

秋:むくむくと冬眠からさめることを言っているのでしょう。リクライニングシート起こすという表現がとても上手い。印象深い。
またたぶ:枯野俳句SF風味。
満月:この登場人物は枯れ野でリラックスしていたのか。シートを起こしてみれば枯れ野だったという方が私にはリアリティがある。どの段階でそこを枯れ野と認識したかだ。
隆:シートを起こす前、そして起こした后の行為がいろいろで面白し。

恋愛を放置してより日脚伸ぶ   さとうりえ

特選:けん太 建穂 肝酔 

けん太:恋愛をモノ扱いして放置するとした大胆さが楽しい。
肝酔:いつごろから放置しているんだろうか?冬至前後からかな? だとしたらそろそろ飽きる頃かも。でも日脚だけは伸びて春になるんですよね
満月:放置という言葉で一番に思い出したのは放置自転車。恋愛と放置−−中村安伸氏は<恋より梱包>と書いた。こちらは難しいながらも成功していると思う。「放置」では安易。
健介:「恋愛を放置して」とは観念的ですね。『恋人を』とか、単純な方が私は好き。
建穂:感覚で取りました。置き去りにされた恋愛と、日脚伸ぶ、の季語の取り合わせも良い。
うまり:「放置」に参った。「恋愛」の他になにかイイモノがあったらもっとよかった。

冬薔薇握り拳は秘密です   肝酔

一郎 りえ しんく かんこ 

一郎:冬薔薇は確かに秘密を抱え込んでいそうだ。「握り拳」はごつごつして色気がないのでどうかと思う。
満月:握り拳の中が秘密なのでは?それとも怒りか決心かで拳が握りしめられていることを秘密といったのか。冬薔薇の堅い半開咲きには秘めた情熱がきっと、ある。
かんこ:冬薔薇と握り拳の対比がオシャレ。秘密って?やっぱりそれは秘密ですよね。
しんく:にぎりっぺなら、ちと困る。

まつぴらと言ふ度息の白さかな   千野帽子

秋 桜吹雪 悦花 一之 

秋:何かを否定するってとても気合の要る事ですよね。そんな感じがよく出ていて好いと思いました。
満月:登場人物はどうやらこの現実に嫌気がさしているらしい。拒絶の言葉を吐くたびに世間の冷たさが身にしみるだろう。うん、よくわかる。息の白さでそこをあらわしたところが視覚に訴えていい。
悦花:おもしろい。もっと言って!
一之:「言う度」がうまい。
健介:幾度も「まつぴらと言う」それってどんなこと?『まつぴらとけんもほろろの息白き』

祝箸細く長くのエンタシス   白井健介

満水 景琳 肝酔 安伸 逆選:一郎 

景琳:箸の謎がうまく詠めてる。
一郎:祝い箸の形は確かにエンタシスなんだけど、うーん、「詩」がほしい。
満水:祝い箸で東大寺南大門の模型を造ると面白いと思う。観察力の鋭い句で好きである。
肝酔:双方共に「ハレ」の象徴。目の付け所がよいですね。いかにもおめでたい感じがします。
満月:エンタシスには太くて丸い印象を持っているので、細く長い、キッと身の引き締まるような祝い箸とイメージが遊離してしまった。
しんく:祝箸にエンタシスではあまりにもそのままというか、ちょっと・・・。
安伸:祝箸って言われてみると確かにエンタシスですね。「細く長くの」の「の」がいい。
カズ:エンタシスってまるみを帯びていませんの!

ヒトデ それは無償の愛   山本一郎

特選:晋次 斗士 安伸 逆選:カズ 

晋次:毒々しいヒトデから愛を抽出する詩的直感に感服。倫理哲学の書替えを読者はせねばなるまい、ひとでなしと一喝されるまえに。
満月:へえ、どこが?
しんく:アングラ劇のセリフみたい。
南菜風:だからあなたはヒトデナシ・ ・ ・と、おちゃらけたくなるのですが、そういう狙いではなかったりして。海星の非存在感って無償の愛を象徴しているようで、ちょっとだけせつなくっていい。
安伸:ヒトデのほうが無償の愛より美しい。分かち書きも効果的。
カズ:なんだかよくわからない。
健介:そうなのでしょうかねぇ?
斗士:ヒトデって確かにきれいで、それでいて、ほんのすこし恐い。


3点句

奴逝きて飽和になりぬ冬銀河   北山建穂

特選:かんこ けいじ 

満月:なぜこの句は文語なのだろう。奴という俗語表現を持ってきながら「逝きて」「なりぬ」では取って付けたようだ。中身はせっかくいいのに。たとえば<奴が逝った 飽和している冬銀河>ひっくり返して<飽和している冬銀河奴が逝った>などではいけなかったのだろうか。
かんこ:「飽和になりぬ冬銀河」で、奴を失ったこの世の喪失感がひたひた伝わってきます。そして祈りも。

雪を来てバサバサと雪落としけり   足立隆

特選:満月 一之 

満月:なぜか広重の東海道五十三次の雪の場面の絵を思い出した。(いちいちのの重なりを指摘しないでよ>ATOK12。あ、どうも失礼、作者&皆さま)俳諧的で乾いた描写がとてもいい。今月はこんなすっきり手離れした句に惹かれる。
一之:ただごとのようで、そうでは無い。「バサバサ」で句になった。景が目に浮かぶ。

白亜紀の目玉は光る夏野原   桜吹雪

圓水 しんく カズ 

圓水:この目玉の正体は作者であろうか。幻想的な白昼夢の世界。窓秋の白い夏野の句を思い出してしまう。
満月:なんだかよくわからないけど怖い。夏野原にありそうな恐竜の目玉に似たものを想像してみたがわからなかった。
しんく:芭蕉は夏草を見て500年前の戦を思い起こしたが、作者は夏野原を見て白亜紀にまで行ってしまった。凄い想像力だ。
カズ:窓秋さんの句に似ている。

京よりの蕪村の手紙桜鯛   立川圓水

特選:カズ しんく 

満月:古俳諧??
しんく:渋い!蕪村についてあまり知らないのでそれ以上のコメントは出来ませんが。
カズ:きれいな句です。

透明な音懐胎(みごも)ればモスラ   山口あずさ

特選:一郎 景琳 

景琳:エコーでみれば、胎児もモスラ。
一郎:透明な音を懐胎ればどうなるのだろうと期待を抱かせ、その期待を裏切らなかったので特選。「透明な音」は少し弱いかも。
満月:えっ、じゃああなたはモスラの母……
健介:“句跨がり”になっている句ですが“字足らず”にしない方がよいという感じ。『音楽』とか『音色(おんしょく)』とか四音のものにしてみては?

姫始ピテカントロプスエレクトす   後藤一之

帽子 健介 安伸 逆選:隆 

満月:つきずぎ(爆)
南菜風:原初の姫始は如何に・ ・ ・といった感じでオモシロイんだけど、結句がそのまますぎて平坦。うけ狙いでとどまってしまうには惜しいのに〜。
安伸:ピテカントロプスエレクトスのエレクトスって確か直立っていう意味だったと思う。そこを姫始めとくっつけて、あっちのほうのエレクトにしてしまったのですね。
あずさ:「ピテカントロプス、えくすたしぃ〜」(※ジミー大西さん風に言ってみてください。)
隆:ここまで云うならピテカントロプスエレクタスでいいでしょう。
健介:この句も特選にしたかった。両方とも特選にできないのが実に残念。私は今まで“姫始”の句でこれ以上のものに出会ったことがない。まさに“姫始”の句の白眉。

青空を砕いて走る命かな   にゃんまげ

特選:桜吹雪 晋次 逆選:帽子 

晋次:抽象的ながら捨てがたいのは言葉に仮託された意志の発情か。
満月:命はダイレクトすぎる。映像が欲しい。
しんく:カリブ海の島でマラソンてのを間寛平がやってたけど正にそれ。

熱燗や貨物列車も濡れている   松山けん太

雄鬼 斗士 悦花 逆選:あずさ 

雄鬼:何に対して貨物列車「も」なのかはあいまいですが、熱燗によって潤んでいる自分の瞳に対して、貨物列車も濡れていると、私には感られました。夜の中を、運ぶためにつきすすむ何輛もの貨物車。ふと、自分と重ね合わせて。
満月:「も」が曖昧にしている。熱燗で貨物列車が濡れているようにも受け取れてしまうのだ。熱燗と濡れた貨物列車を対置すれば、泣きたい気持ちで熱燗を啜っているのかと思う。ツメが甘い。
あずさ:熱燗は液体。貨物列車は黒い。黒い色は濡れている。連想ゲームが単純にできてしまう。従って付き過ぎ、と思いました。
悦花:熱燗が熱いのは当たり前だが、濡れている貨物列車は冷えていくばかり。そして作者自身も。
斗士:ほどよい郷愁を感じる。

欠席者は手をあげて雲の名をあげよ   満月

南菜風 かんこ あずさ 逆選:桜吹雪 

しんく:不条理俳句。「空の名前」て本をプレゼントしましょう。
南菜風:浮き雲のような放浪欠席者。
あずさ:いわし雲。ひこうき雲。積乱雲。。。一回使った「雲の名」はもう使えないとかね。
かんこ:よくわからないけど、好きな句です。

2点句

波照間(はてるま)の日を傾けて鹿泳ぐ   またたぶ

隆 満月 

満月:波照間では海を鹿が泳ぐのですね。特別の光景だから、へー、そうだったのという現実レベルの驚きが先に来てしまってちょっと損だが。日を傾けるのが波照間というきらきらした名前の島の海で、泳ぐのが鹿という神の使いかもしれない動物という神々しさ。金色の西方浄土。蜂蜜のようだ。華がある。
隆:幻想的です。

酒屋さんコンビニとなり冬の晴れ   小原麻貴

特選:景琳 

景琳:近所の酒屋もコンビニになり、実感があったから。
満月:コンビニの方が作者にとって喜ばしかったのだろう。見かけ上たしかに古い酒屋さんよりコンビニの方が明るくて広々している。でも私はちょっと哀愁を感じてしまうので「冬の」が救い。
しんく:ふぞろいの林檎たちにも、このような場面がありましたが、冬の晴れがしみじみ。
健介:言い回しを変えれば良くなるかも。

沈む船を去る揚羽蝶ありぬべし   満月

圓水 けいじ 

圓水:幻想的な句。下五の措辞がちょっと重いのが残念。
けいじ:蝶は新天地へ、船は海中へ。乗員はどういう進路を取るべきか。
しんく:タイタニックはみてないんだけど、そのへんにヒントがあるのかな。
隆:どこかで読んだことがあるような。

水は湯に風の噂のどれが嘘   岡村知昭

帽子 斗士 

満月:全部嘘です。でも湯は水に、じゃない…うーん、結構この噂、いい噂か。
しんく:「か〜ぜ〜のぅわさに〜♪」確か竜鉄也だったよね。
斗士:「水が湯に変わる時間」に着目したセンスに惹かれた。ぼんやりした感じがうまく出ている。

存在の岸をはなれて椰子の実よ   天乃晋次

満水 またたぶ 

満水:この椰子の実は藤村の心の中を流れているのであろうか。
またたぶ:「椰子の実よ」という過剰な盛り上げ方には疑問が残る。でも此岸から彼岸へと流れてゆくかのような広がりを買う。かなた・で・ここ。
満月:短歌の上句。俳句と見るなら「岸をはなれて」と「椰子の実」はつきすぎだし、「存在の岸」という非常に観念的な表現をぴしりと詩的に受け止め広げる作用をしない。

初夢や剣を担いで二兎を追う   松山けん太

鯨酔 かんこ 

鯨酔:初夢らしく勇壮な気分が良い。
満月:二兎を追うなどの成句表現を使うのは俳句では難しい。ここでは剣を担いでというこれまた成句的喩があるので、印象としては<初夢や一富士二鷹三茄子>というに近い。
あずさ:気持ちがよくわかる。
かんこ:こんな愉快な初夢見てみたいな! 

引き出しに闇家族さまざまな冬   村井秋

隆 満水 

満水:家族それぞれが秘密を持ち少しほころび始めている様子が窺える。
満月:闇で切るのだろう。その方が語調もいい。しかしあえて闇家族で切って茫漠とした「さまざまな冬」の暗がりに思いを馳せる方がずっとおもしろい。この句の場合一字アキが欲しい。
あずさ:思い当たるふしがあります。
隆:家族の崩れていく様、崩壊した家族様々です。
建穂:「引き出しに闇」で切れるのだろうが、「引き出しに 闇家族」だったら、ちょっと面白いと思った。

寝返りを打てぬまま死す寒北斗   南菜風

特選:満水 

満水:北斗七星を見ていると確かに横になっているように見える。寝返りを打てぬと言う印象は理解できる。但し、このまま死ぬのかは不明であるが、うまく言ったと思う。
満月:寒北斗が死すとも読める。するとあの柄杓は元気な頃は毎晩何回も寝返りを…寝たきり老人(この言葉なんとかならないか)や難病の切実さが寒北斗にきびしく谺する。
しんく:死と北斗じゃやっぱり北斗の拳しか思いうかばない。

納豆の糸の白さや不登校   北山建穂

しんく カズ 

満月:不登校の二番煎じ。納豆じゃねえ・・・あなた、ねばってますね。
しんく:納豆のねばねばが不登校にマッチしている。
あずさ:納豆をかき混ぜながらうじうじしている姿か。
カズ:納豆の糸とはうまい。

着飾りて象は処刑を免れず   中村安伸

雄鬼 あずさ 

雄鬼:どういう状況かはわかりませんが、実景のように感じられます。インドかどこかの。ものがなしくて好きですね。
満月:サーカスの象だろうか。使い物にならなくなったら処分される運命か。その辺はよくわからないが、着飾ったものがやがて理不尽な死を免れないというのは、動物愛護を抜きにすればある種の皮肉であろう。
しんく:戦時中の象さんの話を思い出し涙が出るよ。
あずさ:説明するのは難しいが、着飾った象というのはすでに処刑されているようにも思う。ユイスマンス「さかしま」の中の宝石を埋め込まれた亀を思い出した。
健介:どうして? なぜそのようなことに? どこの国の話?

1点句

むめいせんしぶらんこいっしょうけんめい   山口あずさ

建穂 

満月:無名戦士というと墓が浮かぶ。これは無名戦士の亡霊がぶらんこをこいでいる。ぶらんことは。無名戦士が一生懸命−−もう休んでください。作者の真意は自身を無名戦士になぞらえて毎日の営為をこう表現したのだろうが。全かな書きに必然が感じられないのが別の読みへと誘うのかもしれない。
健介:まぁ悔いのないようがんばって。
建穂:表記が全て平仮名だが、こういう句も何句かは、あってもいいと思う。ブランコを一生懸命に漕いでいるのが無名の戦士。漢字で書かれていたら恐らく取らなかっただろう。平仮名書きにしたことで、何とも言えぬ悲哀を感じる。そう、大人に向けて書かれた絵本を読んでいるようなそんな気分。

日米会談はいかが アメフラシの休日   山本一郎

あずさ 

満月:構成がおもしろい。アメフラシが休日なら雨は降らない。ここはアメフラシがいて働いている、つまり雨が降っている休日と受け取るべきだろう。それにしてもアメフラシは強引。・・・で、おもしろい。
あずさ:日本代表アメフラシ vs. 米国代表アメフラシ。会談の内容が気になる。
健介:いや、よしときます。

春の雷その恋も身に覚えあり   小島けいじ

りえ 

満月:その恋もあの恋も、どの恋も?なんと多情な!なにしろ春の雷なのだから、激しさもただではない。それなのに「身に覚え」だなんて常套語句を持ってきたのは作句を途中で放棄したのか。
あずさ:あ、そういえばそういうことも。。。
健介:「恋」と言ってしまうのは野暮ったい。第一「恋」という認識があるのなら「身に覚えがあって当然。私なら『春の雷その夜も身に覚えあり』などとしてみるが。
うまり:不安感満喫。雷と恋が良く合ってると思う。

蝋梅の冷え翳りそっとしておいて   村井秋

りえ 

満月:冷えと翳りの重なりはもったいない気がする。しかし、臘梅(こっちがほんとじゃないかなあ、違ってたらごめんなさい)という気高い感じのする花の冷えの下で「そっとしておいて」というのは、単に拗ねているというよりプライドの高さを感じる。棄てられないプライドのせいですごくさびしそうだ。
あずさ:花はやはりそっとしておいて欲しいのではないかと思います。しかもロウバイ。春一番先にひっそりと花をつける姿から「そっとしておいて」は当たり前過ぎるのではないでしょうか。
健介:そうですかぁ。

冬枯れの龜の木となる荒地詩集   天乃晋次

帽子 

秋:荒涼感は感じるのですが、色々盛り込みすぎていてもう少し整理してくださると好いなと思います。魅力のある句です。
しんく:荒地詩集がよくわかんない。
南菜風:龜はATOKで出ないので、辞書登録しました。冬枯れと荒地は近すぎるなー。でも、こういう感じのはこのみ。
健介:不勉強で申し訳ない。意味が分からないんです。
満月:冬枯れと荒地ではつきすぎ。亀の木というのがあるんですか?寡聞にして・・・もしかして冬枯れの、で切れて、亀が木となる、か。イメージ力の限界を感じる。

死は眠りとさほど変わらず木守り柿   田島 健一

秋 

秋:今、特養ホームにはいっている叔母がこんな最期を向かえてほしいという願いを込めていただきました。木守り柿がとてもよく合っているのですが、少し離れた、そして上の言葉を包み込む好い季語があったらもっと句想が広がったように思います。
満月:木守柿がつきすぎと感じるので、上五中七との間に詩的ショックを感じない。
健介:字余りにした効果についてはさておき、形は容易に整うのでご参考までに。『木守柿さほど変はらぬ眠りと死』
うまり:「執着」の図、儚さと諦めがよく見えた。

春宵の「帰りたい」とは嘘である   さとうりえ

桜吹雪 

満月:彼女に帰りたいって言われたの?で、君は帰って欲しくなかったのね。まあ、わかるけどね。
しんく:じゃ、帰りたくないんだな!
健介:その嘘をついてもらえぬ私です。

手を焙り諸矢(もろや)ふたたび手を焙り   白井健介

一之 

満月:諸矢を調べなければならなかった。恥不明。寒のぴしっとした空気と、手を焙ることを繰り返す生身の指の感触がよいバランスで伝わってくる。
一之:この句会でこういうしっかりした写生句に出会うとホッとする。臨場感にあふれた句。

焼藷やぶつかつてゐる肘と肘   吉田悦花

帽子 

満月:この焼藷は「や」の切れ字を欲していない。つまりここは切れていない。

義妹の挙措眩しかる三日かな   鯨酔

健介 

満月:挙措とか漢語で何かを書いた気にならないで具体的に書いて欲しい。ちっとも眩しさが伝わらない。
健介:内容的には至って普通のことがらを言っているに過ぎない。けれども何とも羨ましい状況設定だなぁと思います。ことのほか感情移入せずにはいられませんね。多分ふだんは離れて暮らしている「義妹」と会った「三日」なんですね。何か起こってしまうことを期待したいところです。

猫の手を借りに出かける師走かな   城名景琳

一之 逆選:健介 

満月:軽い川柳的ことば。日常的な常套句を句の中に取り込むと現実側に着いてしまうので川柳と感じるが、それならそれで作りようもあろう。ああ忙しい、師走だもの、猫の手も借りたいよ、というだけで終わってしまっては、まず作品になっていない。五七五を合わせれば俳句なのではない。
しんく:師走で忙しい、(だから)猫の手を借りるという「だから俳句」になってしまったようですね。
一之:付過ぎと言って嫌う向きも多いだろうが、ここまで徹底すれば俳味充分。
健介:ふつう“逆選”というのはどんなにか強く否定したとしても、裏返った魅力的匂いとでもいうのか、何らかの惹きつける力を感じさせられているものだと思う。けれども(誠に失礼ながら)この句の様な正統的なつまらなさには滅多にお目にかかれないという印象です。(“狙い”でやっているとしたらそれは凄いこと)稀に見る熾烈な逆選争いを見事に勝ち抜いた逆選のなかの逆選、というより正に“ウルトラD”の技ですね。

宴会の日に風邪ひいてしまひけり   しんく

景琳 逆選:斗士 

満月:それはあなたの不注意でしょ。俳句にするかなあ、こういうこと。
斗士:そいつは残念でしたね・・・。
景琳:お大事に。

シベリアの窓辺で林檎凍る朝   にゃんまげ

けん太 逆選:景琳 

景琳:リンゴ食べれたのだろうか。
けん太:さ、こんな朝はどんな事件が起きるのでしょうか。
満月:窓辺でリンゴが凍るイメージはいろんなことを想起させる。が、シベリアのつきずぎですべてぶちこわし。シベリアが欲しいならリンゴには眠って欲しいが今度は朝が付く。
しんく:シベリアて行ったことないけど、たぶん凍るんだろうな。
健介:まぁそういうことがあっても何ら不思議はないと思いますけどね。

だっちゅーのかかと落としのお正月   内山いちえ

満月 逆選:一之 逆選:けいじ 

けいじ:よく意味がわかりませんでした。ごめんなさい。
満月:今しか通用しない句だが、あの「だっちゅーの」と、かかとがすとんと落とされる感じがとてもよく通じる。
一之:独りよがりもほどほどに!
健介:彼奴らに「かかと落とし」って言うんなら俺も止めねぇよ。

一本だけで冬をまつ   カズ高橋

南菜風 逆選:圓水 逆選:鯨酔 逆選:しんく 

圓水:私には詩情が感じられなかった。次作に期待。
鯨酔:上五不在? 山頭火の俳句もどきが嫌いなもので、悪しからず。
満月:いろいろ想像してしまう、と言いたいところだがいかんせん、想像を喚起できるネタが少なすぎる。字数の問題ではない。一本の本も気になる。
しんく:自由律はいいんですが、あまりにも漠然としすぎている。
南菜風:何の本数だろ。しかも春や夏でなく冬をまつ、と。気になる。

その他の句

ごつごつとしたまま枯木立となれり   足立隆

満月:かれこだち、なれり、は舌がもつれそう。現代語ではいけなかったのか。
建穂:取ろうかどうか迷いましたが、類想を感じてしまったのでやめました。

蓬莱やメキシコ経由チベットへ   しんく

満月:あのう、どこへ行きたいの?

あらたまの女湯沸かす御慶かな   鯨酔

満月:なんと古典的な!浮世絵を思い出してしまった。特にふるめかしい古語を使う場合はそれをぎょっとするくらい新しくエキゾチックに見せる仕掛けが欲しいと思うのは贅沢だろうか。
健介:これって「あらたまの」のかかるべき言葉はあるんですか?

透明な世界ひたすら流線型   姫 余

満月:何を言おうとしているのか。透明、世界、流線型、すべてが既成のイメージに頼ったために自分でしか読めない句になった。

風花や猿も入り来る露天風呂   立川圓水

満月:温泉旅行のポスター。
しんく:JRのポスターになりそうな。

夢のごと淡雪のごと薔薇の騎士   林かんこ

満月:これも何を言おうとしているのかわからない。たとえば「薔薇の騎士」が冬薔薇ならイメージははっきりする。季語派ではないし淡雪と季重なりになるが。全部の言葉を一般的なイメージだけで構成するとこういう風になるのではないか。
しんく:こりゃ、すごい。まるで宝塚だ。

椿落つしかし既に実「:」(コロン)かな   和田満水

満月:思いつきはおもしろいが説明に落ちている。<椿は実>とかなんとか料理法で結構何とかなりそう。
健介:原句では“(コロン)”という部分はルビになるのでしょうか? それにしても洒落のつもりということなのかなぁ?

悪意無き正義少女は雪女   小島けいじ

満月:悪意とか正義という言葉はこんな風に使うと散文領域の言葉だ。「少女は雪女」の詩的断定を殺してしまった。
しんく:悪意ある正義は偽善?なんだかゴーマニズム的。
健介:「悪意無き正義」というのも分かったような分からないような措辞(と私は思う)。そういえば“焚火を飛び越える遊び”を少女は最後まで拒んでいたのに、あの時みんながあんまり囃し立てたものだから……消えちゃったね。もうそれっきり会えないね…ねぇムーミン……。

北風が通るぜ 人と星の間   千野帽子

満月:よっ、北方健三!(こんな字だったかな)北風のところにもうちょっと色を付けて欲しかった。
しんく:はい!みなさん、よけて、よけて、北風さんのお通りですよ〜。
健介:へぇ〜そうなんだぁ〜あははははは…──乳牛な女の子(談)。
うまり:一瞬デフォルメだが、やっぱ、エライ風通ったもんな。

今年の朝飲むか放射性医薬品   和田満水

満月:今年の朝?飲むかって…うーん、あぶなそうなものを…。これは宣言ですか?

不可欠な空気に水と君の愛   城名景琳

満月:助詞の使い方がこれでいいのだとすると空気の中に君の愛と水とがある。それはいいとしても不可欠なのは何なのか。この不可欠という言葉も未消化のまま。

旋律は白い秩序のショパン狂   姫 余

満月:上五中七がショパンとほぼイクオールの感じなので、つい旋律が狂なのだと読んでしまいたくなる。
しんく:朗読、近藤正臣。

水門の半眼ぬけてきし小鴨   大石雄鬼

逆選:秋 

秋:とても好い句です。渋いですね。しかし、類想、類型がひどく気になります。
満月:かわいい写生句とも読めるが、水門が小鴨をじっとねらっているようでもあり、半眼が不気味な感じも。あるいは守られていると読むか。
健介:「半眼」という比喩の効果がいまひとつでしょうか。

雲の墓標に航空ショー   カズ高橋

逆選:りえ 

満月:雲の墓標がちょっと観念的。雲の墓標をはじめからわかったものとして提出しているからだろうか。航空ショーとの対比で結果的に雲が墓標に見えたというような表現なら受け入れられただろう。
しんく:向井さんと連歌でもしてはるのかな。

月天心君そこにいて吾もいて   林かんこ

逆選:安伸 

満月:吾がここにいるのはわかっています。ここでなにかがふくらむところだったのに。
しんく:「君達がいてぼくがいる。」チャーリー浜か!
安伸:ぬるい。