第17回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

工場長題「指」。というわけで、第17回向上句会はちょっと不気味な展開に。。。
それにしても一つの語をそれぞれがどのように料理するか。
言葉というのは、それぞれの語の響き合いから成り立っているということがよくわかります。

向上句会とりまとめ:山口あずさ

業務連絡:<クロールの>と<ふるさとへ>に選を入れた方、選句者名がありませんでしたので、選句評の前に「?」と入れておきました。もし、鯨酔さんの選でしたらカウントしますので、ご連絡ください。よろしくお願いします。(山口)


投句:宮崎斗士、千野 帽子、中村安伸、白井健介、満月、松山けん太、山本一郎、足立隆、またたぶ、しんく、にゃんまげ、岡村知昭、凌、夜来香、杉山薫、越智、朝比古、鉄火、吐無、小島けいじ、いしず、鯨酔、朱夏、秋、城名景琳、田島健一、山口あずさ


全体的な感想

けいじ:選句する際、望みとしては候補がたくさんあって、その中から泣く泣く減らしていく格好なのですが、最近は足りない候補を無理やり5つまで増やしています。多分、私の眼がこえていない、ということなんでしょうね。うーん。
けん太:ボク自身の夏は悲惨でした。俳句がひとつもまとまらなかった。ここの作品をみても、思いました。小粒やなあと。豪快なというより大胆な、切れのよい俳句をこの秋はめざしてみましょうよ。
またたぶ:題があったからこそ詠めた句もある。題詠効果に感謝.採りっぱなしじゃなく、選を書き込み,読むことで鍛えられると実感。評を深め合おう。(無駄口もたたいてるけどごめんね)
一郎:今回あまり好きな句がなかった。対象物がはっきりしなくて、もどかしい思いのする句が多かった。特選並選句を探すのに苦労した。
:とっても楽しめました。読福、詠福。(っていうのかなー)
景琳:52句、平均点の高いこともあり、特選はなし。きっと指定のお題だったことだろう。なんか、まとまってる。
健一:選句しやすくなったのがよいと思いました。「指」→「極道」みたいなイメージの句が結構あったのにはたまげました。
健介:選評がつまらないという場合、それって私のせい? それとも作品が悪いの? やっぱ俺?……そっか、…う〜ん……
朱夏:指ってからだのセンサーみたいに思ってたけど、句になるとなんか即物的な触感に終始したかな?ピュっと放出したエネルギッシュな句に撃たれて見たかった。
秋:句の意味するところが掴めない句がおおかったです。
知昭:題「指」では予想通りというかやはりヤクザ屋さんの小指絡みの句が私も含め多かったです。題詠プラスもう1句のスタイルに意外に苦労しているなあとも思いましたが、そこはすごうでの皆様、いい句は多かったですね。そうそう、親指の句はなかったなあ。おとうさん(ゆび)の権威はここでも……。
朝比古:報告が多いような気がした。私にとって、俳句と思われない物も多く、勉強させられました。あ、それと選句用紙が改良され、非常にありがたかった。取り纏めの方に拍手。
鉄火:指というお題は作りやすいようで難しいですね。気付かない間に、お題にふりまわされてしまいそうです。
吐無:好きな句がたくさんあって選句に迷ってしまった。
帽子:向上句会不調の1999年にあって、前回がけっこう水準高く「お見それしました」などと思ってしまい、今回も期待していたら、「指」のお題で「おセンチなエロティシズム」系の句がずらずらーっと並んでいるので困りました。「小指の思い出」的な湿っぽい歌謡曲がヒットチャートから消えて久しいけど、そういうのって俳句の世界で生き残っていたのね。
:工場長からの題「指」に関して、発想が似通ってくる点、自由でありながら自由にはつくれないものを感じます。前回の海は共通点があったとは思うがさほど気にはならなかった。そういうことを考えると出題は「指」の如く具体的であり、発想の広がるものがよいのではと思う。今回の「白」は比較的散らばるのではないかと予想をするのですが。
:私のことも含めて、みんな一生懸命俳句しょうとしている。「何でもあり」の自由さがもっとバクハツしてもいい。
満月:今月は自己陶酔句や、単に十七音を目の前にある事実で埋めただけのような句が目立った。「そのまま」「素直」な感慨を読み手にもそのように感じてもらうには相当なテクニックと悪魔をもだます嘘が必要だ。「客観写生」などは実にそのあたりをうまく持っていく手法だと思うが、なかなかうまく騙してくれる客観写生句に出会わない。作者自身のつぶやきを「作品」として読むのには無理がある。まして断片的なイメージの羅列に終始した句は何をかいわんや。一方で社会批評的な句がちらほら見えたが、こちらの方も過去からの定番的批評パターンでなく時代の中でびりっと(あるいはじわっと)効くように頑張って欲しい。

10点句

極道の小指遠くで潮騒す   凌

特選:夜来香 特選:吐無 特選:知昭 秋 しんく あずさ 満月 

しんく:あの小指たちは、いったいどこへ行くんだろうと思ってたけど、こんなところで潮騒してたとは。
またたぶ:潮騒してたら確かにコワおもしろい。青山受けする句。
秋:極道の世界は分からないですけど、また、実感のない映像の世界で、頂かない方がいいのかも知れないけれど、「遠くで潮騒す」というのがきれいで頂きます。
知昭:二つのものの強引な結合が実によろしい。
吐無:指といえば極道を連想してしまうのは、旧式思考回路かもしれないが、極道と潮騒の関係が何とも言えず、惑わされてしまった。
夜来香:極道=小指がない、いうのはある意味劇画タッチでもあるが、そうはなっていないし、海にただずむという情景を連想させるが演歌にもなっていない。潮騒というロマンティックな言葉を置いたことで極道がいい味になっている。映画的な場面を思いおこされる。
満月:<白椿>の句を思い出す。俳人(人にあらざる人)になっちまった人間も、ひねったりねじったりしはじめる前の奥底から湧いてくるような潮騒を忘れてはいない。はず。。。。。
あずさ:小指が肉体を捨てたのかも。
つっこみ:
あずさ:小指と潮騒、ちょっと悔しいくらいに響きあっていると思います。この句の高得点は文句無し。
一郎:私はこの句に文句がある。前の組長の句に文句があったように。これが極道(暴力団員)の小指の真実とは思えない。暴力団員を情緒的にとらえるこういう遊びは嫌いだ。
あずさ:なるほど。でも、小指は無実だと思いませんか?
凌:この句からいきなり暴力団員を引っ張り出すのは社会正義という大義名分があったとしても飛躍が過ぎないか。小市民的過敏症ともいえる。社会通念上の常識や規範の枠組みの中へ俳句を閉じこめてしまうのは避けなければならないし、この句の虚構性は、すでにそんなチマチマした枠組みを飛び出している。ただ好き嫌いという感情は個人のものだから、これは反対できない。
月:向上句会に出てくる「極道」は映画や漫画などのキャラクターとしてのそれのような感じ。本当に現実の暴力団に対する批判を書くつもりならだれも「極道」という言葉は使わないとおもう。「極道」だから絵になる。道を極める(ために一般道を外れる)・・・俳人も一種の極道と私は思っている。
またたぶ:伝統派で雪月花など美しいアイテムが好まれ、一般に「旅の宿」など情緒的なものが好まれ、青山でエロスや極道系が好まれる(カタギの者が「極道翼賛会?」と茶化したいくらい)のは何か並行する現象に思える。反良識的なものは従来の殻を打ち破るための跳躍板としては有効だろう。でも青山で高く飛翔した極道句というものを私は思いつかない。(個人的な物差しで失礼)「極道」という語自体のインパクトに頼らず、それを生かした俳句を見せてほしい。推測でものを言えば、山本さん発言は極道を詠むこと自体を否定してはいないのでは?きます。


9点句

かなかなやゆっくり登る遅刻坂   鯨酔

特選:けいじ 特選:いしず 鉄火 越智 またたぶ 夜来香 帽子 

あずさ:今更急いだってねぇ〜。よくある光景。
いしず:下五が面白い。
けいじ:思い浮かぶ情景、イメージが好きです。
またたぶ:「遅刻坂」という語が初対面で、惚れてしまった。(次回からはそうはいかない)凡句が生じやすい点、「かなかな」も「さくら」に通じるものがある。この句はあるラインをクリアしているとみた。
越智:蝉の鳴き声の作品は、その静けさをどう表現するかだな、と思っているのですが、静けさを充分感じられましたので戴きます。
健介:「遅刻坂」はよく遣われる手。この発想ももはや在り来たりでは?
鉄火:遅刻坂に行ってみたい。上五が「ひぐらしや」だったら、そんな気持ちにはならなかったかもしれない。
帽子:ぼくはこの季語に弱い。「なんてことないことを句にしてみました」って句は馬鹿臭いか厭味かのどちらかであることが多いが、この句は両方の弊をまぬがれている。
満月:ノーマルで実直なお稽古俳句らしい句。
夜来香:まあ人生ゆっくりいきましょう、というかんじが素直に出ていると思います。かなかなという音の響きが生きています。
つっこみ:
あずさ:遅刻坂をゆっくり登る。。。というのは、発見とは思えない。この句の高得点には、ちょいと文句あるっす。かなかなも別にさかのぼってたら聞こえてくる何か、でいいような気がするし。。。言葉の決まり度がそれほど高くないと思うけど、採った方、フォローをお願いします。
鉄火:私がこの句を採ったのは、第一に「いい時間帯をとらえてるな」と思ったからです。だいたい朝の9時半から10時ぐらい。通勤とかの慌しさが一段落ついて、ちょっと気の抜けたような時間帯だと思うんですね。もちろん、この句では時刻のことはひとことも触れていないわけですが、「ゆっくり登る遅刻坂」で否応なくそういう時間帯を思い浮かべてしまう。だから「遅刻坂を(あえて)ゆっくり登る」という逆説的な部分よりも、むしろ、ひとりでにある時間帯を思い浮かばせるような工夫をこらした、という点を評価したいですね。かなかなという語の響きによって、時間に対するある種の感覚が生まれてくると思います。具体的かつ大げさに言えば、時間がちょっと麻痺してゆくような感覚です。これは「ひぐらし」や「油蝉」や「うぐいす」ではちょっと無理だと思う。鳴き声をいったん想像させるという手順を飛び越えて、鳴き声(と同時にヒグラシの別名)を直接ぶつけてくることによって初めて生まれてくる感覚ではないでしょうか。だから上五が他の言葉だったら、少なくとも時間感覚に対する表現は弱くなるし、句の印象も散漫になっていた気がします。午前中のポワーンとした雰囲気、と言ってしまうと身も蓋もないけど、この雰囲気ってなかなか悪くないと思いますよ。
凌:おっしゃる通りだと思います。切り取ったある特定の時間を誠実な感慨を込めてお書きになった。しかし、私はこの句には「だからどうなの」としか言いようがない。私が読み手として俳句に求めているものは、たとえそこに書かれている事柄は日常的な感慨であったとしても、そこからふっと何処かへ連れていってくれそうな気配、連れていってくれなくてもいいのです。その「気配」が俳句ではないかと。
あずさ: いろいろと、なるほど。でも、わたし個人としてはやはり物足りない。わたしにとっては、ちょっと上品すぎるのかも。。。遅刻が生徒ほどには深刻ではない教師がゆっくり遅刻坂を昇っているのか、なんてゆう気もするけど。この先生が、マルチェロ・マストロヤンニだったら許せる。(←誰だったら許せないのか???)
鉄火:この句については、特定のイメージから先には行けない。そういう意味では「だから、どうなんだ」の行き止まりが待っている。この点は凌さんのおっしゃるとおりだと思います。あとは読者がそのイメージを自分の履歴と突き合わせて、どう扱うかということだと思います。ニュアンスは多少違うかもしれませんが、俳句は無意識的な部分を掘り起こしてくれるものであって欲しいと思うのです。ただ、私の場合はその結果が必ずしも未知の世界でなくても構わない、埋もれていた既知の感覚であってもいい。むろん、後者の句の場合はどのようなアプローチを仕掛けているかが重要になってくるのですが。きます。

クロールの指先にある未来かな   鉄火

特選:朝比古 凌 隆 帽子 吐無 一郎 しんく けいじ 

?:爽快な気分が良い。
けいじ:指先に未来が待っているのは若さの特権ですか。
しんく:ちょっと青春してるって感じは否めないが、句の形はすっきりとしていて好きです。
一郎:このごろこのような分かりやすい句が好きになってきた。ただ、クロールの指先に未来を感じたというのは作者の発見だが、このままでは作者の思い込みの域を脱していない。
健介:なんとなく安易な(失礼ながら)印象を受ける未来志向には素直に感じ入ることをしないところが私にはありまして……あくまで個人の気分的な問題なのですが。
朝比古:気持ち良く読まさせて頂きました。若干の甘さ、類想感は否めませんが、ここでは善しとしましょう。指という席題で、ここまでの句が作れる作者はなかなかの実力者だと思います。
吐無:けれんみのない未来志向に引かれた。他に輝く未来なんて見つけられないもの。
帽子:うっわー、古臭ー、中村草田男か山口誓子か。などとつっこみつつも、爽やかでいいじゃないかとすっかり気に入っている。
満月:<未来>は抽象的すぎる。「君の未来はクロールの指先に」水泳教室のキャッチコピー。
凌:素直で言葉に飛躍はないが、前へ前へと水飛沫をあげる指先の躍動感はうつくしい。欲をいえば「未来かな」にもう少しひねりが欲しい。
つっこみ:
またたぶ:失礼な発言ですが。こういう句って、高水準の句会では沈み、そうでない句会では選ばれるリトマス試験紙的なところないですか。
またたぶ:上の発言はこの句に文句つけることが目的ではなく、次々回ではこの句に負けない句を出したいものだという自分の抱負でした。言葉が過ぎた点、お詫びします。
あずさ:またたぶさん、割かし気が弱いのね^^!。この句は、クロールの指先に未来があるぞぉ。と無難な発見句。(もっとも、そもそも発見に至っているとは思えないが。。。)
またたぶ:もちろん、心臓つるっつるの小心者です。というか、ここにオフで知ってる人が一人もおらず、かつ青山をこよなく愛する私としては、無用な誤解やトラブルを招きたくないので。やはり、自分が好調でないときには批評のキーも鈍ろうというもの、もし会心の句がアップできた暁にはばさばさ斬ってやるーーかも。
あずさ:わたしなど剛毛が生えているかも。。。青山を愛してくださって、ありがとうございます。でも、思いっきり悪口を言うか、思いっきり誉めるか、という感じじゃないと、いまひとつつっこみも矛先が鈍るのかも。。。とにかくよろしくお願いします。

7点句

回転扉に重なる指紋終戦日   田島 健一

特選:隆 特選:健介 特選:またたぶ 凌 

またたぶ:「回転扉に重なる指紋」そのものがいい句種だ。「終戦日」と出合うことで、一人一人の犯した行為が重なって立ち上がってくるような静かな深さがある。しかも「回転」によりそれが輪廻するような人間の愚かさ怖さ。
健介:いくらか生理的な不快感を覚える点で、第一印象ではちょっと敬遠ぎみでした。でも読み返すうちに、よく練られているという印象が強まり、次第に感心してきた。慣れると(?)不快な印象は薄らいでいきますし……特選の今回はこの句です。
満月:終戦からの時間の長さや現在の(不況であるにしても)繁栄等々、さまざまなメッセージを込めてあるのだろうが、どうにも迂遠で実感がわかない。
隆:回転扉のある所はホテル、ビルでも大きなもの、と限られる。硝子に付いた指紋、ノブに付いた指紋、様々、そこに様々な人の様々な人生が重なってくる。終戦日は八月十五日。敗戦の玉音放送を聴いた人の人生が扉からやってくるようである。
凌:今では一つの記念日として形骸化されててしまった「終戦日」だが、あれ以来回り続ける回転扉を、次の世代もまた受け取らざるを得ないだろう。そして、べたべたと指紋の上に指紋を重ねる、それは共犯者の印でもある。
つっこみ:
満月:この句、だんだんよく思えてきました。でもやはり<回転扉>が象徴的すぎてそこは気になる。
あずさ:終戦日にも指紋やら手垢やらが付いてきているかもしれない。新しい終戦日を欲しているとしたら、かなり怖い話だ。回転扉は毎年繰り返しやってくる終戦日であり、下手をすると繰り返される戦争なのかな。でもガラス面にべたべたと指紋がくっついているのはやはり絵としていただけない。
凌:その日になると新聞各紙定番の特集でお茶を濁す。安っぽいヒュ−マニズムを振り回して記事に気合いの入ってないのは一目瞭然です。「終戦日」はもう手垢まみれですよ。だから、この「いただけない絵」から目を逸らせない。ただ、いろいろに勝手な読みをすすめているとメッセ−ジ性が濃くなって、その分、句の力が弱くなっていくような気がする。「なあんだそんなことか」で終わってしまいそう。
満月:ふと思ったんだけど、この句、もしかして<終戦日>が「開戦日」だったら深く怖ろしく納得したような気がする。今日も遠いところで日本人の拉致が解けない。あちらこちらで小競り合いやいざこざが毎日のように勃発する。「終戦日」が続いて有効でははじめからなく、ほんとは毎日「開戦」しているのではないか。ヒトがヒトである証明ででもあるかのように。指紋が重なって重なって、限界まで来て何かが起こる。それは回転扉のように、きっちり閉められることなく次から次から繰り出される果てしない業のすがた。それを今、私たちも開けつつ歩いているのではないか。この句が観念の絵から出られないのはキーワード<回転扉>が終戦ではなくまさしく開戦そのものを思い起こさせるからではないだろうか。なぜか誰も「開戦日」を書かない。
あずさ:開戦日って不思議ですね。100%悲劇の始まりなのに、どこか高揚感があったりする。。。あの悪夢のパールハーバーだって、開戦当時は「してやったり!」みたいな高揚感があったわけですよね。なんかガツンと目を覚まさせるようなツールがないと、同じような「お祭り感覚」で戦争を始めたくなってしまうのかもしれない。あーなんか、青山俳句工場ったら高尚だわ。
またたぶ:1.私は観念の絵にとどまってるとは思いません。原句も(今でも)深いと思ってます。設定基準が低いかな。「開戦日」の方が深いかどうかも、一概には私には言えない。別の魅力が出て好句になるとは思いますが。ご指摘自体はいい示唆になりました。その意味で満月さんに感謝。
2.「回転扉」は終戦より開戦を想起させる←回転扉は開始でも終止でもなく宙吊りではないでしょうか?
あずさ:年寄りの句会じゃないのに(^^;)戦争談義になりましたね。それにしても、回転扉かぁ。確かに平和って、宙吊りというか宙ぶらりんとかインパクトのない状態なのですよね。健康に似ている。健康も回転扉か。食べ物が私を通って出ていくみたいな。。。で、体内の老廃物が指紋なの。(つい、絵解きをしてしまいたくなるのはビョーキか?)
満月:われわれこそが将来戦争を起こしたいという衝動に無防備に行動してしまわないために、自分自身の内なる開戦衝動みたいなものを明確に意識していなければこわいと思います。戦争を知らない世代が戦争を詠むのにもいろいろきっかけがあるでしょうが、その一つとしてそういうことを私は思っています。
(あずさ:体内の老廃物が指紋なの。)老廃物がたまってしまうと病気になる。治ったら治ったで再び老廃物を際限なく溜め始める。その場合、<回転扉に重なる指紋発病日>か、<回転扉に重なる指紋退院日>か。どちらも行けそうな。
(またたぶ:2.「回転扉」は終戦より開戦を想起させる←回転扉は開始でも終止でも>なく宙吊りではないでしょうか?)
うむ、間違えました。「この回転扉」つまり指紋がべたべた重なっている、それが進行形の、この回転扉。です。宙吊りという把握も面白い。でも私はもっとなにか、とどめられない業の進行形、蓄積しやまない状態を思ってしまう。。。
またたぶ:何物にも捉えられない自由な、だからこそ永遠に着地収束が許されない「回転扉」。食指じゃなく、詠指をそそります。この句は満点とはいえないだろうけど、私は以前高い支持を送りたい。これを超える「回転扉」句を詠めるものなら、さあ詠んでごらん。って、作者でもないのに挑発してどーする。

緑野よ平行線は可憐です   松山けん太

特選:斗士 特選:一郎 鉄火 朝比古 安伸 

またたぶ:それはそれで悪くないんだけど「よ」がいかにも甘いよ。
安伸:平行線は可憐、がいい。
一郎:「平行線は可憐」は分かりにくいが、「よ」という呼びかけまたは詠嘆から一気にたたみかけて「です」でおわる句の展開がおもしろい。
朝比古:口語が上手くはまった佳句。緑野もイイ。
鉄火:平行線は人間の営為の象徴でしょうか。あるいはそんな邪推さえ可憐になってしまうのかもしれません。
斗士:「平行線は可憐」という感覚に惹かれる。「緑野よ」の効きも好。すきっとした読み味。
満月:<平行線は可憐>はちょっと観念的。もう少し具体性、あるいは具体的体感を呼び起こす措辞がほしいところ。特に<可憐>は定番語にもたれた印象がある。また、「りょくやよ」の音感がもたつく。<よ>は必要か?魅力はとてもあるので惜しい。
つっこみ:
またたぶ:えー、私は「みどりの」として読んでいます。「平行線は可憐です」のよさはわかってきました。でも、「緑野」と「平行線」が私にはほとんどダブるという第一印象があって、それ以上の鑑賞がストップしてしまった。この句とは幸運な出会いを果たせなかったということか。残念。
あずさ:わたしにとっては、平行線と可憐はやはり遠い。平行線はやはりちょっと硬質な感じがする。可憐になるためには、メビウス的ねじれが欲しい。
またたぶ:「平行線」など理数系というか無機質なものと、「可憐」など情緒的なものを掛けると、意外で新鮮な化学反応が起こることがあります。わりとよくある手といえるかも。断定が効いていると思います。とはいえ、双方が遠すぎれば反応しないでしょうね。あずささんにとっては遠すぎたんでしょう。個人差がありますから。
思いつくのが遅すぎたが、「平行線」って永遠に交わらない、空しいような潔いような性質ですね。だからって、正面から「平行線は淋しい」とか詠まれたら、「ハイハイ」で終わってしまう。「平行線は可憐」くらいのとどめ方はなかなか巧みなさじ加減と思えてきました。

終戦日カメラに黒き布垂れて   朝比古

特選:凌 特選:健一 朱夏 薫 またたぶ 

またたぶ:俳人好みの「終戦日」句。「黒き布垂れ」られちゃ、つきすぎ感は否めないが、佳句と思う。
薫:伝統の底力を感じます。じわじわと怖い。「終戦日カメラに垂れし黒き布」ではだめ?
健一:まじめなのがいいと思いました。
健介:古めかしい印象を増幅させてしまう働きをするせいか、「終戦日」とした計らいが少々鼻につく感じがしました。
朱夏:大判カメラの黒布の中の画像は逆行しています。
凌:終戦日そのものの記憶は定かではないが、語りぐさとして文字と映像で繰り返されるあの事件は、いつの間にか私の経験そのものになっている。そして子どもの頃、写真機の黒い布からひょいと顔を出した写真師の卑屈な笑いも私の経験の中に気味悪く残っている。その二つの経験が一つになった時、私の中に新しいリアリティが生まれた。しかし「カメラ」は軽い。

6点句

土用波小指は二本とも箱に   岡田知昭

特選:帽子 吐無 鉄火 朱夏 薫 

薫:夏の想い出。「コレクション一つ増やして夏果つる」
健介:今回よく分からなかった句、その二。何だか不気味。
朱夏:遠い昔の約束なんて可愛いものね
鉄火:小指を箱にしまって、これから何をしようというのか。でも、小指がしまわれている限りは安心な気もする。「土用波」がよく効いていると思います。
吐無:これも極道を連想した。でもなんで二本とも箱にしまって置くのだろう。泳いでいるうちに落としてしまうといけないから(いくらぐらいするんだろう)?
帽子:今回のお題「指」では、指詰めその他、肉体から独立してしまった指を題材にしたものもけっこう多かった。そのなかでは意味というものをはぎとろうとする意志を感じたこの句が印象深い。もっとも「箱」のなかにあるとは言っていないのだから、「二本とも箱に」触っているだけかもしれないけど。
満月:うーむむむ、そうですか。。。

台風に死者数多爪切らなくちゃ   田島 健一

特選:薫 健介 安伸 凌 夜来香 逆選:知昭 

安伸:落差がおもしろい。
あずさ:テレビ画面の向こうだけの事件。
薫:死者の爪もしばらく伸びる。不慮の死をあくまで普通の日常である、爪を切る動作にあっけらかんと還元して秀逸ではないでしょうか。口語の呟きも絶妙。
健介:「切らなくちゃ」という口語的言い回しには、いつでも共感するという訳ではないが“唐突さに妙味のある”発想に惹かれた。この場合、この言い回しも似合っているし……。
知昭:陽水が傘がないと歌うところを爪を切ろうと言った。それだけ。
満月:<に>は句の前半を爪を切る理由の説明にしている。何か大変なことがよそで起こっていて「爪を切」るという句(類想含む)は「口語俳句」にゴマンとある。また爪か、、、という感じ。もし<に>を取って詰めた場合、<死者数多>で空字が必要か。
夜来香:爪を切りたくなる瞬間ってありますね。なんでもないときにいきなり、爪切りたい!って思うもの。それでそれは絶対後には延ばせない。そんな状況がわかります。それに人間って勝手なもので、自分と関係ないところでどんな事件が起きようがどうってことないって思ってしまいますね。
凌:この身勝手さ好きだなあ。テレビの前にだらしなく座って見ている惨禍の映像とかかわりなく、ふっと漏らす呟き。風刺が効いている。

5点句

にょろにょろと指伸びている晩夏の湯   満月

特選:鉄火 吐無 いしず 夜来香 

いしず:上五、中七が面白い。
健介:「にょろにょろと」という擬態語に違和感があった。“怪物くん”の様なのか?
鉄火:いかにも気持ちのよさそうな湯。ニョキニョキでもフニャフニャでもなく、「にょろにょろ」に融通無碍な開放感がある。
吐無:そういえば温泉に浸かっていると、指先がにょろにょろとした感じで見える。
夜来香:にょろにょろと伸びている、と言っては言いすぎの感をありますが、暑さが一区切りついてシャワーじゃなくて、久々に風呂につかった、というかんじがとても良く出ていて気にいりました。
つっこみ:
凌:いい悪いでなしに「晩夏の湯」が、こんなのあり?、という感じでよく解らない。ただの夏の終わりの湯なのか、あるいは言葉の中に何か俳句の約束事が込められているのでしょうか。
あずさ:まだ暑いけどちょっとお日様が早く沈むようになって、早めのお風呂に浸かってだら〜として、湯のなかで手を泳がしている。と、水の中の指がにょろにょろと長くなってゆくような気がした。(のかな?)

東より呼ぶ声のして赤のまま   しんく

斗士 朝比古 健一 けいじ あずさ 

あずさ:赤のままには何か魔力がありそう。
健一:「して」がちょっと気になりました。「せる」口語なら「する」として、軽く切った方がいいような。意味の無いところがいいですね。「東」にいろいろ意味をつけて詠むと面白くなくなってしまうと思います。
朝比古:こんな状況あったような気がする。西日を正面に受けながらあそんでいると、ご飯よーなどと声がして、はっと我に返る。ノスタルジー。
斗士:「東より呼ぶ声のして」味わいのあるフレーズ。風雅。
満月:とても俳句的。感じはよくわかるのだが<赤のまま>が、<呼ぶ声>の主というより先に「ああ、俳句的取り合わせだなあ」と感じてしまう。なぜだろう。仏壇に供えた赤まんまを思いだすからか。この世に引き戻されるには弱いのか。いずれにしてもきれいに出来た俳句だとは思う。

秋夜長指輪一つの軽いこと   小島けいじ

斗士 秋 越智 にゃんまげ いしず 

あずさ:軽いよねぇ。
いしず:下五「軽いこと」に切なさのようなものを感じる。
にゃんまげ:指輪の軽さに若さを感じました。
またたぶ:この季重なりはどうみてもマイナス。作りは上手だが、もう少し新味がほしかった。
越智:う〜ん、指輪が軽い、と表現できるのですね〜
健介:よく似た句を見たことがある。“ありがちな発想”ってことかも。それに「秋夜長」というのは何とも野暮ったい感じがします。
秋:これは逆説の面白さで、軽いといいながら軽く無いとちゃんと言えてるから、面白いです。
知昭:「はめたら重く感じるのに」との思いが隠れてはいるけど、うまく隠れたかな?
斗士:このドラマ性は捨てがたい。
つっこみ:
あずさ:ところで、指輪って軽いのか重いのか?コメントには重くなくてはいけないという願望が込められているような。。。軽い場合も重い場合もありそうだけれども。

月が出た場合: 急いで口で吸え   千野 帽子

特選:満月 特選:朱夏 秋 逆選:鉄火 逆選:薫 

薫:無月の場合:ニュー越谷で待つ しばらく笑っちゃいました。個人的にはとても好き。句会に出した勇気に敬意の逆選。
朱夏:なんだかね このあたふた加減がここちよい
秋:かなり自己中心的というか能動的なのが、元気があって、励まされます。
知昭:「:」は入れる必要があったのかと思いました。思い切った句だけにいろいろしたかったんでしょうけど。
鉄火:何かのマニュアルと考えたら納得はできますが。
満月:なんだかエロティック。好きだなあ。いや、この句が。この月はぷるるんねっとりした地卵か中村汀女の<触るるばかり>の月か。急いで吸わなければならないのだから置いておけばきっと誰かに盗られてしまうのだ。しかも<出た場合>だから確かな予定でもない。登場人物はうっかりと月が出た場合に備えて、いつでも吸える漏斗状の口の生物に変身しようとしている。「:」で区切ったコピー的な表記がユニークでマンネリ感を一掃する。
あずさ:要するに卵の黄身だと思うのですが。。。月見うどん?

4点句

ふるさとへ夏のこびとが降ってくる   山本一郎

特選:あずさ 健一 満月 

?夏休み入りの歓喜、躍動がストレートに伝わって来る。
あずさ:楽しいふるさとだ。
健一:よくわからないけと、気になったのでとりました。
知昭:うだうだ考えず頭の中でこびとが降る姿を思い浮かべましょう。
満月:<夏のこびと>ってなんだろう。いろんなことを想像してとても愉しくなってしまった。不思議感いっぱいのまま持っていたい。

指相撲絡みしままの無月かな   鯨酔

朝比古 知昭 一郎 けん太

けん太:これは迷った。無月がよくつかめない。無邪気になれないもんね。この言葉では。ま、次の企みを指を絡ませながら模索している主人公の浅はかさは、ちょっと、いいな。
一郎:あまりよく分からないんだけれど、なんとなく採りました。感想になってなくてごめんなさい。
健介:まぁ仲良くやってよ、って感じ。
知昭:絡みしままだからいまだ勝敗はついていないわけで、動きを思いユーモアを感じました。
朝比古:指相撲と無月の取り合わせはまあまあ。中七が常套的表現なのが残念。
あずさ:なんか哀しい
満月:四畳半、同棲時代、ビンボー、、、

夕焼けを負うて剽々セールスマン   またたぶ

健介 一郎 けいじ あずさ 

あずさ:<飄々>がいい。
けいじ:単純に好み、というだけです。
一郎:今回シチュエーションの分かりにくい句が多くて選句に苦しんだが、その点これはよく分かる。でも、欲を言えばもっと鋭い切り口が欲しい。
健介:ところで、「それも、仕事だ」という穂積ペペ氏の台詞がシブい。餃子屋さんは繁盛しているのだろうか。
知昭:「飄々」はいらない。言い尽くしてしまってます。
満月:<飄々>と言ってしまわれたら飄々としているなあと想像したくてもできない。

指先に粘膜のある深夜かな   足立隆

凌 夜来香 しんく けん太 逆選:けいじ 

あずさ:なんかやらしいこと考えたのはわたしだけ?
けいじ:単純に好みじゃない、というだけです。
けん太:深夜が弱いけど。ウエットな世界なんだな、これは、きっと。いいな、いいな。こんな飛躍、こんな不思議感。
しんく:何なんでしょうね、深夜のあのネバネバ感。
健介:ちょっと芸が無すぎて面白くない。思わせぶりに“ひねり”がないのはいけません。
満月:やらしい。気持ち悪い。急いで指を洗いに行こう。
夜来香:ミステリー風でいいです。はじめ粘膜を「鼓膜」と読んでしまいました。ホントは鼓膜としたかったのではないですか? しーんと物音ひとつしない深夜、指が耳になっている・・
凌:水かきのある手を誰にも気づかれないように、深夜こっそりと開いては呪ったものだ。自分の手の水かきのことは永遠の秘密にしておこうと思っていた。しかし私だけではなかったのだ。粘膜は毎晩オキシュ−ルか何かで拭き取っておかないと、本当に水掻きになるからね。
つっこみ:
凌:(あずさ:なんかやらしいこと考えたのはわたしだけ?)
じゃないでしょう。いやらしいことがそのまま書いてある。私は好きだけど「深夜」が失敗かな。
あずさ:って、ことはそのまんまってことですか?--;

3点句

この指に止まれば魅惑する蜻蛉   城名景琳

特選:安伸 けいじ 

安伸:姿のうつくしい、陶酔感のある句
健介:言わんとすることは伝わってきたと思う。言い回しに工夫が欲しい気がします。
満月:<魅惑する>のは蜻蛉だろうか登場人物だろうか?<魅惑する>とそのまま書かれてもどう魅惑してくれるのかはっきりしない。

秋の蚊は足の人差し指刺せり   朝比古

特選:しんく 知昭 

しんく:確かにしつこい秋の蚊は、一番痒みの強いそんなところを刺してきやがる。
健介:「秋の蚊“は”」という限定が私には引っ掛かった。「刺せり」も「螫せり」とする方が個人的には好き。 
知昭:「足の人差し指」の具体性がすごい。句またがり(でいいかな)がいい効果挙げている。
満月:足で人を指差したバチ。

巻貝のおおきな殻の奥の指   千野 帽子

満月 薫 安伸 

またたぶ:「巻貝の奥に指」はいい着想だと思うが、中七を練ってほしい。「殻」は言わずもがな。「おおきな」も効いていない。
安伸:エロチック
薫:殻を割って奥の指を引きずり出して食べる。全身が巻貝になりそうな予感。特選にしたかったけど、「おおきな」がなんか納得いかない。ひらがななのも、?。
満月:うわ、やらし。。奥「に」だったら発見という感じだが<奥の>だからずうっと前からこの登場人物はそのことを知っているのだ。知ってて言わない。こっそり思っている。もっともやらしくて、むふ、とくちもとがゆがんでしまう。

冷えし指もて月光を摘み出す   杉山薫

吐無 朱夏 一郎 

あずさ:冷えた何かと月はよく見る。<月光を摘み出す>はちょっといいけど。
一郎:何か物足りないが何かありそうという感じ。よく分からない感想でごめんなさい。
朱夏:ナイトメア 
吐無:芯から冷たい人格がにじみ出ていないか。月並みな風雅や侘び寂を拒絶していて気持ちいい。
満月:月光も冷えている気がする。わざわざ<冷えし指>を持ってくるのは冷たい月光を溶かさないためか。<もて><摘み出す>では音感も語ももたつく。

電灯の紐のたましいほどの揺れ   凌

帽子 知昭 またたぶ 

またたぶ:佳句でしょう。「たましいほどの」ていうのも手垢ついてきたけどね。
知昭:「紐のたましい」でいただきました。
帽子:ちょっとおセンチかな。でもシュアな無季の句。この句と「じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 池田 澄子『空の庭』」を足してリミックスすると、あの「たましいのたとえば秋のほたるかな」ができるのかもしれない。
満月:ゆーれーほどのゆれ。
つっこみ:
満月:<たましい>というのも私には「闇」などの「この言葉入れれば詩だよ」的言葉に思える。ま、私も使いますが。
あずさ:むかし、電灯の紐を超能力で揺らそうと思って努力したことがあった^^;。結果はともかく、とても疲れた。。。以前つくったパロディ句。<じゃんけんで負けて小樽に生まれたの   あずさ>小樽の方、ごめんなさい。

国歌法暑いアイロン次から次   秋

斗士 朝比古 景琳 

あずさ:真夏のアイロンかけ。しかも賛成した覚えのない法律が成立している。実感あり。
景琳:アイロンをしてる情景がみえた。
朝比古:私自身は、国歌法について、「まだ法律になってなかったんだ。ふーん。」程度の認識しかなかったのだが、この句の作者は、少なくとも私以上の何らかの想いが、国家法にあるんだろうなあと感じられましたので、一応戴いておきました。
斗士:「暑いアイロン次から次」の、とてつもなさと深さ。時事俳句も、ここまでやってもらえたら感服。
満月:暑いのか熱いのかで切れどころが違ってくるが。。<熱いアイロン>ならわからないでもない。
またたぶ:あずささんの「アメリカの国旗にアイロンの形」の句に勝ててない。
つっこみ:
またたぶ:みなさんの評を読んで、少し甘すぎないか?と思った。「暑いアイロン」イコール「悪法」みたいな単純な構図に私には見えてしまうので。時事モノだったら、たとえば<抽斗の国旗しづかにはためける   神生彩史>くらい深めてほしいと思いますが、欲深でしょうか。
凌:確かに単純な構図ですが、アイロンかけでもなく、熱い、でもなく「暑いアイロン」が次から次へと飛出してくるという子どもだまし(失礼)の飛躍はちょっとオモシロイ。
あずさ:これって、フライイングトースター(=マックのスクリーンセイバー、ウィンドウズにもあるのかな?)のアイロンバージョンってことでしょうか?
暑い日にアイロンかけをしていてもっと暑くて、アイロンかけながら国歌法のことが頭をよぎる。国歌を法律にしたい人たちの気持ちはわたしにはよくわからない。うちの母は賛成していましたが、非常に情緒的な意見を述べていて、わたしはその「情緒」部分に賛成できない。情緒などそれぞれの人がそれぞれに持てばいいわけで、法制化する類のものだとは思えない。明治維新直後に諸外国に国歌や国旗があって、日本になくて恥ずかしかった、らしいですが、そんなアナクロな「恥」に共感するのは困難です。また、これと同時に、どうしても日の丸が好きになれない人というのが存在すること自体は、わたしにとっては別にストレスにはなりません。なぜなら、その人たちはわたしに日の丸を嫌いになるように強制するだけの力を持たないからです。(もし、そんな力を持っていたら、わたしはその人たちも同様に嫌うでしょうが。。。)国歌も同様です。アイロンかけという日常と、国旗国歌というときたま出会う日常と、法というわれわれの日常でありながら、どこか感覚を異にする超日常。時事ネタをここでも一応押さえたという評価をしてもいいような気もします。(って、採ってないんだけども。)ちなみに、またたぶさんがコメントしてくださった、<アメリカの国旗にアイロンの形>は、時事ネタというよりもアメリカに対する皮肉なので、この句とはそもそも作りが違うかもしれない。(でも、コメントしてくれてありがとね。)
またたぶ:(凌さんの指摘された)その子どもテイストは思い至りませんでした。悪くないですね。私自身が時事モノによく挑戦していて、成功率の低さを痛感しているので、時事モノには点が辛くなってしまうところがあります。半端な時事なら散文で書けば…ってことになりかねない。いずれにせよ、この「国歌法」の作者にもさらに高い時点を目指してもらって、全体として、情緒やスローガンにとどまらない句が出てくれば、いいと思います。
あずさ:ぐさっ、って感じの句が読みたいですね。
今朝、突然思ったのだけれども、(※以下は、右翼の方は読まない方が精神衛生上いいと思います。)きよしろーのロック「きみがよ」もいまひとつインパクトがなかったようなので、、、トイレットペーパーの芯を回すとオルゴールが鳴るやつを「きみがよ」にする。
これで右翼の宣伝カーが怒ってくれるだろうか?っと思ったのだけど、どうかね。不敬罪なんてのもないわけだし、、、、、考えたら、国歌なんか別にどうでもいい人が大半を占めているような気もする。(わたしも含めて。。。)何の為に他人を強制したいのかが、とにかくワカラナイのよ。

実石榴や中指にある秘め話   吐無

隆 知昭 けん太 逆選:斗士 

けん太:いいな、いいな。どんな秘め事かな。興味津々になってしまう、そんな句ですよね。思わせぶりだけど好きです。
健介:「秘め話」などと言ってしまうとは何たる野暮でしょう。もっと洒落た思わせぶりが出来ないものでしょうか……難しいでしょうけど。
知昭:ねえねえ、教えてよとうまく読む人を引きつけているのと思いました。それも余計なこと言わずうまく処理してるからでしょう。
斗士:「中指にある秘め話」というフレーズのベタつきが気になった。「実石榴」もつきすぎだと思う。
満月:<秘め話>??ちょっと語に無理が・・・
あずさ:Fuck you?

駆け落ちの汽車待ってゐる熱帯夜   足立隆

特選:けん太 健介 逆選:凌 

けん太:浅田次郎の言わずもがなの世界。それを堂々と句にして。いいねえ。いいねえ。こんなわかりやすい俳句も大好きです。
健介:いまどきの「駆け落ち」だと…やっぱり携帯電話を新しくして…とか?
満月:息苦しいでしょう。
凌:ドラマの設定が安易すぎはしないか。

2点句

指尺でくるぶし発ちぬねじり花   またたぶ

特選:越智 

越智:艶な風情がたまりません。。ものすごく好きです。
健介:今回よく分からなかった句、その一。
またたぶ:ハイ、仰る通り、表記が美しくないです。うちの辞書では「捩り」が出てくれず!、人に送ってもらって貼る時間もなかったもので……

指たてて寒きかなたへ歩み寄る   朱夏 

特選:秋 

秋:指立ててを三つ指を付くと解しました。女性の躾には人権を踏みつけるようなものがありますが、これもそんな感じがします。
満月:<かなた>へ<寄る>?やっぱりひねりすぎ。

指をさす 狐がいたところ まうしろ   山本一郎

満月 安伸 

あずさ:たどたどしいだけの字開け。
またたぶ:「さす」は「指す」だから上五が甘い。そこを練れば生きてくるのでは。
安伸:分かち書きがけっこう効果的では?
満月:おもしろい。こわい童話だ。一回目の字空けは<指をさす>が<狐>にかからないようにするために仕方のない操作だろう。しかし二回目の字空けは<狐がいたところ>と<まうしろ>のたたみかけで怖さが迫ってくる効果を断絶してしまうので大いに損をしている。この句を採ったのは、その効果を納得すれば詰められる可能性があると思うから。ただし<指をさす>はやや説明的で一考を要するか。

夏に知る媚薬は土に返らない   岡田知昭

斗士 健一 

健一:「媚薬は土に返らない」が面白いと思いました。「夏に知る」がちょっと説明的かなゥ・
健介:訳の分からないことを言われているみたいな……
斗士:今回、広がりに富んだフレーズが多くて読みごたえがあった。この「媚薬は−」もシャレていて印象に残る。準特選。

高千穂ゆ指宿経由桜島   越智

しんく いしず 

いしず:題の「指」に指宿を持ってきたところ万歳である。
しんく:以前、メキシコ経由チベットという句もあったが、これならば安心して九州旅行が出来る。だが、「ゆ」とは?
またたぶ:「経由」なんて薄めないで、ここも地名で埋めたら?「知覧」とか「志布志」とか。
健介:この句もどなたか私に解説して戴けないでしょうか。
知昭:上五が夏の季語だったら何かしら味わいが出たかも。
満月:せっかく<高千穂ゆ>と神々しく丈高く出たのに、天にも昇らず地も生成せず近隣観光でおしまい?読んで損した気になった。

指貫をはめてみてをり蚊遣香   白井健介

隆 あずさ 逆選:越智 

あずさ:指貫って、存在感あるよね。
越智:お裁縫の合間に見るのか、指貫をわざとはめてみて蚊遣香を見るのか、判然としなくてとても残念に思いました。情景としては好きです。
満月:指ぬきをはめてみる気になった動機が読みとれない。蚊取り線香の煙だけでは遠すぎるばかりか指貫という古めかしいものにわざわざ合わせたようでかえっておかしい。「今」はどこに?昭和中期の設定なら指貫も蚊遣香も当たり前なのでなおさら動機が欲しい。

ゆびさして刺さらぬ鳥よふいに秋   満月

またたぶ いしず 逆選:朱夏 

いしず:下五「ふいに秋」がいい。
またたぶ:「ゆびさして刺さらぬ鳥」今回随一の詩情。これなら「よ」も上滑りせずはまっている。なのにこの龍頭蛇尾は何?わざと? 傷ついたけど、前半だけを買って一票。
あずさ:刺さる鳥もいるんだろうか?
健介:今回よく分からなかった句、その三。「ふいに」も充分な効果が発揮されていない感じがしますが……
朱夏:ゆびさして刺さらぬ君にあきあきした

肉体点滅派ホタル堂々デビュー   山口あずさ

薫 越智 逆選:隆 逆選:しんく 

しんく:坪内さんあたりはこういうの好きなのかな?
越智:堂々とデビューして、あっさり消えてしまうのが、蛍の短い命に似通い過ぎているのかも知れませんが面白いと思いました。
薫:いよっ、待ってましたっ。マントを取り去ると堂々たる体躯のホタルちゃん。場末の劇場のド派手な看板。チープな電飾が明滅して、いい絵だ。
知昭:点滅が余計かな。「肉体派ホタル堂々デビュー」の方がシュールでいいし、句の短さが生きそう。
満月:<堂々>は余計な感じ。いっそ「肉体点滅派宮川ホタルデビュー」とかなんとか。。。。(^^;うーーん、するとデビューが余計か。

1点句

新涼やティファニーと競う指の白   いしず

鉄火 

健介:伝えようとする作者の思い入れとは裏腹に、発想は平凡では?
知昭:清潔な一句。
鉄火:予定調和を超えていないが、さわやか。
満月:勝手に自己陶酔されても・・・・
あずさ:競う? 装身具は所詮引き立て役なのでは? 服に着られたり、指輪に填められたりしているようじゃ修行が足りんよ。
つっこみ:
満月:読み手が女性化男性かでくっきりとわかれたようですね。女性は自分が(または他の女性が)指輪をはめて「ふん、けっこう負けてないじゃん」とか思っている図。男性が見たのはCMやポスターなどの計算された美的映像。・・・と思いましたがいかがでしょう。
あずさ:指輪のコマーシャルに、男性がケチケチしてお金をためて、給料?カ月分の指輪を買ってプレゼントすると、その愛情表現に女性がたいへん喜ぶ、という構図があるけれども、で、そうゆー女性というのは実際に存在するのかもしれなけれども、また実際にそういうめにあうと、それなりに喜んでしまったりするのかもしれないけれども、、、、、嫌いだ。以前、電車の前の席に美しいエメラルドの指輪を填めた不機嫌な女性と、さえない男性が並んで座っていた。男性はおどおどし、女性は不愉快であると体全体で表現していた。彼らは指輪に支配されている。とわたしは観察してしまったのでありました。
鉄火 :この句を選んだ者です。(満月:男性が見たのはCMやポスターなどの計算された美的映像。・・・と思いましたがいかがでしょう。)
まったく、そのとおりです。何も付け加えることはありません。いやはや。

夏の小指忘れた歌の流れをり   秋

けん太 

あずさ:あなたが噛んだのね。
けん太:「小指の・・・」なんて歌を思い出してはだめだ。ただ静かに小指をみつめているとほら、ボクたちの歌が・・。流れをりはやや流れてしまっている。でも、いいな、いいなこんな感傷的な気分も。
またたぶ:うん「夏の小指」と合ってる気がする。でもそれこそ中島みゆきの「りばいばる」くさい。
満月:♪ん、あんなんたんがぁ〜噛んだ〜ん♪

過ぎゆくは 夏服の皺 指からめ   夜来香

隆 

満月:三節がみなばらばら。この字空け(この場合分かち書き)はばらばらを強調するための仕掛けだろうか。しかしてこの句はどう自身のイメージを訴えようとしているのか。すべて不明。

動くとは愛撫することなめくじり   宮崎斗士

朱夏 

あずさ:一瞬、『瘋癲老人日記』(谷崎潤一郎)かと思いました。
またたぶ:あなたも赤阪真理読んだんですか。『コーリング』所収の『水の膚』キてましたねー。
朱夏:ぎゃ!ときどき私もなめくじり
知昭:Lover or nothing! ということかな。でもなめくじとの取り合わせはよかったですよ。
満月:うううむ、青俳にはたびたびなめくじりが出没する。。

黒葡萄の肥満したるを撃ち落とす   中村安伸

景琳 

景琳:ぶどうを「食べる」が「撃ち落とす」、愉快。

夕顔や一番好きな人は誰   鉄火

越智 

あずさ:彼。
越智:源氏物語の夕顔に聞いているような錯覚が好きです。
健介:もう勝手にやって頂戴、って感じです、ホントに…。
知昭:罪のない句。毒もないけど。夕顔を源氏物語の夕顔とムリヤリ解釈は、ムリか。
満月:鏡よ鏡・・・・・この<や>は切れ字になっていない。

抜歯せるごと姫百合の蘂失くす   白井健介

健一 

あずさ:いてぇ。
健一:姫百合の感じがよくでていると思いました。
満月:<抜歯>・・・・また強引な直喩。花粉が着いたら取れないことを嫌って生け花では葯をちぎって生ける。またブーケやコサージュ用に葯のない品種も早くから開発されている。自然の状態で葯が落ちるのは受粉したあとで、すでに花として鑑賞できる状態にない。さて、この句はどの辺を詠んだものか。

中年の自栽続けり鉄線花   朱夏 

秋 

あずさ:鉄線花って家にも咲きますが、<中年の自裁>に手向けたくなる花ですね。ところで、自栽は自裁の間違いのようですが?
秋:中年は自立しなければいけないと思います。そこを共感しました。
満月:言葉がナマな気がする。鉄線花の強さと自裁も合わない(表記のまま「栽」で自分で栽培する?)。
つっこみ:
満月:鉄線という植物はその蔓がまさしく鉄線のように強いところから名付けられたもの。脆くも自裁する中年にせめてこの強さがあったならと思わせられるのですが。他の方のコメントは逆の性格に取ってあるようですが。。
あずさ:鉄線の名前の由来は知りませんでした。わたしはあの濃い青い色をした花から、自死のイメージが浮かびました。

小指立て750cc(ナナハン)語るキャンプかな   いしず

健介 

健介:何度か読み返してみたら、この句かなり可笑しい。作者のシニカルな眼差しが味わいを生んでいる。「小指立て」に、かなり想像を膨らませる要素があるし……

忘れよう水色の爪乾くまに   にゃんまげ

景琳 

景琳:マニュキュアと哀愁の水色、すぐ忘れそうだ。
健介:意外と誰でも思い付きそうな感じがしちゃいまして……
満月:水色じゃ、まだ忘れられないな。

指先の溝の流れて敗北日   山口あずさ

帽子 

帽子:敗戦日と「敗北日」とはべつのものと解釈しました。そう解釈するまでの一瞬の遅延、慣習との戯れが生じる。
満月:敗北と指先を見つめていることと両方一緒になると、なんだかいじけてちいさくていや。しかも溝が流れる。。。<敗北日>も語呂の悪さからか泥にまみれた感じ。ここまでみじめにしなくても。。

薬指に稲垣吾郎の指人形   宮崎斗士

景琳 逆選:朝比古 

景琳:稲垣君を五本の指だと、確かに薬指だ。
あずさ:不器用ってことでしょうか。
健介:軽い“芸能界スキャンダル風刺ネタ”?
知昭:題に苦労したのでしょう。苦労の果ての一句。それだけ。
朝比古:俳もない。諧もない。詩もない。こんな報告されても困ってしまいます。
満月:なんだか想像してしまう。
つっこみ:
あずさ:スマップって5人だっけか? ところで、稲垣五郎が他のメンバーに比べて不器用だと、何かでちらっと聞いてわたしもかろうじて知っていたけど、これってどの程度世間に知れ渡っているのだろう。(わたしがかろうじて知っていたということはかなり広く知れているのか?←ほとんど仙人状態なもので。。。)それにしても、薬指ってなんで一番不器用なのかな。一番奥ゆかしい繊細な指のような気もするが。。。

その他の句

指詰むるそれも生計(たつき)ぞ放屁虫   吐無

健介:内容は好き。でも「放屁虫」は失敗では?
知昭:その通り。屁をこくこともね。
満月:今月は兼題のせいか指を詰める句が多い。しかし放屁虫とはなんとちまちました批評だろう。

針千本誰も心に隠し持つ   越智

逆選:あずさ

あずさ:つまらん。
健介:何度も常識的すぎるとしか私には思えませんが……
知昭:そうです、終わり、ではいけません。さあ、みんなで考えよう。
満月:そうですね。それで俳句はどこ?

種とばし西瓜が怒る召使   城名景琳

あずさ:意味不明。

雀蛤と化す不器用な小指   杉山薫

健介:う〜ん……この季語が利いています?
満月:この季語の感触がまだしっかりと掴めていないので申し訳ないが、それでも<不器用な小指>と互いに説明しあっているような気がするのだが。。

指で種はじきながらに西瓜食ふ   しんく

逆選:一郎 

あずさ:それがどうした。
一郎:この文でいったい何を表現しようとしているのか。
知昭:「西瓜食ふ」に種をはじくところ入っているのでは。
満月:それで・・・?俳句はどこ?

指からめ 秋刀魚の残骸 月ひとつ   夜来香

逆選:健介 

健介:私にはこの句が最も“分からなさ”の程度が大きい。「月“ひとつ”」というのも如何なものか……
満月:<過ぎゆくは…>と同じ。しりとり連句のようですね。こちらはさらに無惨。

石榴落ちてイルカとなりぬなむあみだ   中村安伸

逆選:満月 

満月:石榴→イルカ変身譚をもっと劇的に読みたかった。ちょっと難しそうだが。逆に<なむあみだ>を生かすならイルカになって元気に泳いでしまっては困る(^^;。一句に<なむあみだ>というような語を入れるのはものすごくむずかしい。
つっこみ:
満月:私には逆選を入れたこの句がもっともおもしろい。なんとかうまく<なむあみだ>でまとめて欲しいのだけど。
あずさ:石榴が落ちてイルカにというイメージに説得されなかった。音のつながりは面白いかも。なむあみだ、なみだ、石榴の形態なんてことをちょっとおもったけど。。。イルカが出てこなかった。

垂乳根の母はいずこや寺山忌   小島けいじ

逆選:帽子 逆選:吐無 

あずさ:寺山忌で母は付き過ぎ。それに、垂乳根という枕詞が一つあれば、母はいらないのでは?
またたぶ:ストレート母恋いに寺山をぶつける蛮勇がコワイ。
健介:“超つき過ぎ大会”で優勝できるのでは?
帽子:こういう句にたいする態度って、全面賛成か全面否定しかできないような気がする。歌人でもある故人の忌日句に枕詞を持ってくるのって、気が利いているのかもしれないけど、でも寺山って退屈だし、寺山的なるものに一定の需要があるこの国の文化を過大評価なんてできないから。「や」も、わざとやってるんだろうけど大袈裟。って完全に好き嫌いで逆選にしたので、作者の人ごめんなさい。犬に噛まれたとおもって忘れてほしい。もっともこの犬は今後同じパターンで来たらまた噛みますけど。