第28回 青山俳句工場向上句会選句結果

(非売品:売ってはいけない。)

寒くなってきました。選句結果の整理を炬燵でしました。

今回、選句リストの並びについてご指摘がありましたが、同じ人の句が並ばな いようにという配慮はそれなりに行っていますが、リストを作る段階ではそれ ぞれの句をあまり見ないようにしています。ちなみに、エクセルで並び替えて いるのですが、並び方はなるべく偶然に任せるようにしています。わたし自身 が選句をするときに、みなさんとできるだけ同じ条件で選句をしたいという考 えからです。従って、選句リストには偶然以外の作為はありません。

投句:宮崎斗士、けん太、白井健介、凌、満月、中村安伸、いしず、朝比古、千 野 帽子、鬼灯、またたぶ、ぴえた、足立隆、杉山薫、古時計、いちたろう、し んく、秋、南天、(h)かずひろ、主水、明虫、たか志、後藤一之、姫余、さにー、 ら印、和夫、岡村知昭、山口あずさ

全体的な感想

ぴえたくん:わたしは夜空に白く冴えるお月様を見上げるのが大好きだったの に、最近、お月様を見るのもいやな時期がありました。ある人にそのことを話 すと、「一緒に月を見よう、いい思い出に代えよう」と言って下さって、わた しの心は晴れました。それから徐々にお月様を見るようになり、お月様を見上 げるのが平気になりました。よかった。。

凌:逆選も含めて6句選ぶのに苦心惨憺の時もあれば、楽しくて仕方のない時 もある。今回は後者で、もう自由気ままに読ませていただくことにした。

朝比古:不用意な字足らず、字余りが多すぎるような気がします。私は決して 破調・自由律を否定するものではありませんし、定型が絶対のものであるとも 思っておりませんが、今回の句稿の中で、定型に直して、元句より悪くなる句 は、私の判断する限り、1句もありませんでした。作者の想いの果てに「これ しかない」と表現される句であればいいのですが、ただ面白がってそうしてい るのであれば、全く新しくありませんし、やはり底の浅さが露呈してしまいま す。

帽子:59「眼科医の…」60「視力検査表」が並んで句一覧が終ってしまうのは いかがなものか。60の作者としては辛かった。

いちたろう:選句おくれてすみません。今回はよくわからない語が多かったで す。歳時記に載っていてもいなくても、一般人が理解できない語は、一般人に 理解されていないということを理解された上で使われているのでしょうか。効 果的でない、聞いたことのない漢字熟語を見せられても、困るだけでした。

(h)かずひろ:謹んで選句させていただきました。

姫余:今回は、好きな作品が多くて選句に困りました。嬉しい悲鳴?をあげなが らの選句、次回も期待して、また嬉しい悲鳴をあげたいな・・と思っていま す。


南天:自作も含め、「月」のイメージから抜け出すのがいかに難しいか、痛感 しました。

けん太:今回選んだ句は好きな句ばかりです。いろいろ考えずに素直になっ て。ま、最後に二,三句迷いましたが。とてもいい気持ちになれた句会でした。

さにー:恋の句をはじめとしてロマンチックな句が多かったような気がしま す。個人的にはそういうのは好きではないです。Happyなときよりも沈み がちなときの方がいい句が出来る気がします。いい句が出来たと思うときほど 私生活に欠陥をきたしているようです。

またたぶ:どうにか5句まで絞ったものの、そこから一句選べなかった。苦し 紛れの選になってます。面目ないです。

ら印:特に逆選としたいのは無かったように思う。そろってる感じ。

秋:今回は過剰な表現や、言わずもがなの句が多かったように思います。自分 のことを棚に上げて言えばですが。。。

薫:すみません、逆選以外コメントできませんでした。

満月:なんだかいろいろなものがあった。ひとつひとつの句から、作者ひとり ひとりの生体の感触が見えるようで不思議な感じにとらわれた。全体のレベル うんぬんより、いろいろなものが集まることこそがいい。短律も出ておもしろ くなった。長律も七七形も見たい。

知昭:向上句会への参加は(恐らく?)本当に久しぶりです。(ほんとうかな あ、自信ない……)始めて参加したときの気持ちを忘れず一句一句読んでみた つもりですが、どうでしょうか。よろしくお願いします。

斗士:「月」名作ぞろいでした。

10点句

劇団に石榴の夜のありにけり   宮崎斗士

特選:凌 特選:朝比古 特選:秋 和夫 隆 一之 けん太 

けん太:石榴の夜ってどんな夜かあまりイメージできません。わからないけれ ど説得力のある夜のような気がします。

秋:劇団の稽古の後か,公演の後か、柘榴の夜だという比喩に象徴された物が あって、それが甘く、すこし渋く、食べ難く、色はくすんだ紅色で、とにかく 複雑なのです。それがうまく表現されています。

朝比古: 「石榴」の質感が「劇団」によく響いている佳句と思う。用意周到に 張り巡らされた素材達が、韻文形式の中で上手く活きたと思う。「けり」の潔 さも心地良い。

満月:<石榴の夜>はどんな夜かちょっとわからないんだけど、このまま石榴 のようになってめりめりと割れて、、と思うと華やかな舞台の裏の厳しい練習 と、行き違ったりしてひび割れそうな危機や沈黙までが仕込まれているようだ。

凌:多分小さくて貧しい、それぞれの熱気だけが支えの劇団の、狭い、しかし 凝縮された空間を象徴する「石榴の夜」がすごく効果的で、ぴんと張りつめた 緊迫感が漂っている。「けり」で情景はより鮮明になっているのだろう。

和夫:熟するとわれてなにかが飛び出すのだな、そんな夜にはざくろの根を駆 虫薬に用いるのだな。

健介:失礼ながらどういう訳かこの句は私のなかで生理的に拒絶してしまって いる。


9点句

お月様分度器界に君臨す   山口あずさ

特選:薫 特選:安伸 特選:しんく 隆 明虫 ぴえたくん 

しんく:ゴンチチのチチ松村さんは、常に分度器を持ちあるいてるそうだ。ふ いに分度器が必要な時に、さっと出せるとカッコイイからだとか。

ぴえたくん:分度器の世界を創造なさった点が面白い。

満月:あれは分度器とはちょっと違うような。気合いの一発アイデアだけど、 コケた。

明虫:知的レベルで面白いと感じる分、知的操作を感じる。

健介:「お月様」からは鶴瓶師匠の顔が、「分度器」からは“ドテ高計測器”な るものが咄嗟に連想されてしまったというこの私、この度ばかりは少々(じゃ 足りねえよ!by工場長風ツッコみ)自己嫌悪…。しばらく謹慎いたします ……。 ウソ それもこれもやはりこの句のせいでは?(ちがうよ!)失礼い たしました。

8点句

星月夜人はみな水槽であり   宮崎斗士

特選:鬼灯 特選:ぴえたくん 朝比古 またたぶ しんく 凌 

しんく:小説「皆月」では、人はみな月だって言ってた。

ぴえたくん:地球もほとんど海、人間もほとんど水分。水槽の水がたぷんたぷ ん波打ってて人間。ゼロになったりあふれたりの繰り返しと、星月夜が永遠感 を効かせてると思います。

またたぶ:「星月夜」は動くかもしれないし、「人はみな〜」はほとんど決まり 文句的だが、「人は水槽」にはそれなりの発見がある。

朝比古:5・5・7の破調が生きた。「人はみな水槽」と言われればそんな気もし てくる。韻文の力か。「星月夜」は取ってつけたような感じ。

満月:ちょっと言葉の並びがもたついているが、<人は水槽>のイメージはい ろいろなことをかき立ててくれる。<星月夜>を持ってきたのはかなり甘いと 言わざるを得ないが、しかしきれい。

凌:「水槽のようであり」と月並みになる一歩手前の「水槽であり」とする断 定が句を新鮮にしているのではないか。

あずさ:「水槽であり○○であり」と続けたくなる。

7点句

黒猫の二百十日の欠伸かな   後藤一之

特選:さにー 朝比古 古時計 鬼灯 ら印 隆 

さにー:なんとはなく雰囲気が気に入りました。

ら印:猫の人生あくびで終わらせる。でも長いんだよね〜。

健介:「二百十日の欠伸」というふうに限定的方向へ「欠伸」を修飾するので はなく<黒猫の欠伸も二百十日かな>という定石どおりの叙法があり、形とし てやはりその方が好いか。でもかなり類想の可能性が高いですよね。


古時計:二百十日がとても効いている。

知昭:台風も来ず、黒ちゃんも退屈でしょう。間がいい感じで抜けてます。

朝比古:猫の欠伸と二百十日の取り合わせはちょっと面白い。「黒」が「二百 十日(厄日)」とつきすぎなのが惜しい。

満月:颱風、来ませんでしたか。というほかにあんまり何も感じない。

鰐が目覚めて月光のあらさがし   杉山薫

特選:明虫 斗士 知昭 健介 安伸 さにー 

さにー:考える前に絵が浮かんできました。

健介:これがもし<鮫が目覚めて月光のあらさがし>だったなら即“超特選最 有力候補”でした、私にとっては。僕は絶対“鮫”がイイと思います。

知昭:月光の句はいろいろあれど、あらさがしをする句は初めてでしょう。し かもわに!ヒトも先入観を捨て、やってみてもいいのでは?少し毒あるメルヘ ンができました。

斗士:鰐と月光とをうまく配合させた。「あらさがし」好。

明虫:この鰐、今夜の月光の良し悪しを吟味しているらしい。天文現象であり、 純なものの代表なような月光に臆せず対峙する尊大な鰐の性質が浮き彫りにさ れている。

満月:<の>は何かなあ。月光「が」鰐のあらさがしをする?鰐が月光のあら 探しをする?

6点句

月光に水音はつかれたでしょう   鬼灯

特選:知昭 特選:あずさ 秋 満月 

あずさ:「つかれる」を疲れると読んだ。月光に疲れてしまう感覚。よくわか ります。

またたぶ:童謡調のプラスよりもマイナス(=甘さ)を感じた。

健介:って言われてもぉ〜(ミューズのCMかッ!)

秋:感傷に落ちこんでいる自分への軽い自嘲。さらっとしているのに好感。

知昭:一見、満ち足りた光景。しかし満ち足りているからこそ、疲れも徐々に たまっていく。「つかれたでしょう」があっと言わせる力を持ってナイス。

満月:このダルさがダルくていい。<つかれたでしょう>などという話し言葉 的表現で<月光><水音>を表してしまう。水音をつかれさせるなんて、ただ ものではない。

全員がぼくを見つめる解毒法   いちたろう

特選:帽子 特選:南天 知昭 秋 

帽子:そうか、こうすればいいのか。

健介:少し前の僕の句が(チノボー氏曰く)“超ナルシズム俳句”ってことだと するとこの句なんかはどうなっちゃうんだろうって気がするよね、ホントに …。

秋:衆目がストレスではなくて、解毒法だというのが温かくてよかった。

知昭:解毒法の句なのに強い毒を感じた。すべての人が今私を見つめているこ


とへの快感も。

南天:「全員がぼくを見つめる」という解毒法、ととりました。

満月:自己陶酔にはそういう解毒法もあるかも。見つめられて陶酔しているし ているようでもあるが。

5点句

半導体工場前の無月   満月

帽子 薫 一之 またたぶ (h)かずひろ 

(h)かずひろ:ghost in the machine.....ひさしぶりにポリスを聴いてみよう。

またたぶ:半導体っていろいろ使えば面白そうだ。素っ気無さ感買います。内 容さえよければ破調は気にしない私です。ただ、この句の場合、トーンが単調 で、一発芸的印象もあります。

秋出水ピアノを壊す一家あり   足立隆

特選:一之 凌 満月 安伸 

健介:「一家あり」の特に「あり」が野暮か。<秋出水治まりピアノ壊しをる> という感じでも宜いと思うが。

満月:<一家>でちょっとあいまいな感じになった。<秋出水>と<ピアノを 壊す>というイメージは大きな力を目に見える形に変換していて力ある表現だ と思う。

凌:「秋出水」がうまく読めないが、それでも好きな句です。

秋思かな北限の象だったのに   満月

明虫 帽子 鬼灯 安伸 (h)かずひろ 

(h)かずひろ:「北限の象」を魅力的に感じました。

またたぶ:構文が好き。材料がぴったりとは思えなかったのが残念。

健介:インパクトといい、フレーズには魅力あるが、設定が想い描けない……

知昭:いなくなっちゃった象への想いが伝わってきます。

明虫:北限の象、がすてきだ。秋思かな、の収まりが悪いと思う。

壜詰の月の発酵はぢまりぬ   杉山薫

特選:(h)かずひろ 斗士 朝比古 凌 逆選:満月 

凌:じょじょに発酵していく「壜詰の月」をじっと見ているコレクタ−の少年 にとっては孤独こそが至福の時間。誰にも触れさせたくない「壜詰の月」は壜 を突き破り、世界を丸呑みするほど発酵しつづけるのだが、それでも少年の至 福はつづく。

(h)かずひろ:食べごろと捨てごろは間違えないように。

あずさ:このような発想はありがちかとも思いますが好きです。

健介:俳句工場的類想感とでも申しましょうか、そういう感じを受けました。

朝比古:「月の発酵」はいいフレーズ。「壜詰」は作者の心象。これやっぱり「始 まる(はじまる)」ということなんでしょうね。この仮名遣いだと「恥(はぢ)」


になってしまうと思うのですが。旧かな遣いの場合、出句前に一度辞書をひい て確かめることも必要でしょう。

斗士:「壜詰の月」に妙味。「発酵はぢまりぬ」はちょい蛇足かも。

満月:うーーーん、最近短律に凝っているが、この<はぢまりぬ>が作者の意 識に支配されるようで大変にうっとおしい。<壜詰>(それも瓶でなく壜!) <月><発酵><ぢ>これだけこの手の嗜好をてんこもりにされればもう逃 げ出すしかない。短律で「壜詰の月の発酵」で十分ではないかと思ってしまう のだが。

4点句

紐かけて月を動けぬようにする   凌

明虫 古時計 鬼灯 ぴえたくん 

ぴえたくん:お手伝いしたいです(^.^)できそうにないことを平然としてのける 豪気さが好きです。

古時計:夜明けが来ない方がいいと思う時がある時の気持ち。

満月:うーん、それで?と言いたくなってしまう。

明虫:面白そうなのに完結した感じがしない。このあとに七七が欲しくなる。

あずさ:発想は悪くない。表現がいまいち。

休日の月美術館 終電車   姫余

和夫 ぴえたくん けん太 あずさ 

あずさ:月美術館ってあるんだろうか。ありそうな気がする。美術館をハシゴ して最後に月美術館に行くといいと思う。終電を逃したときに、行ってみたい。

けん太:最後の四句めに選んでみました。「月美術館」という素直さに惹かれ ました。

ぴえたくん:終電は眠ってしまうと月美術館に行っちゃう。

健介:分かち書きされた「終電車」が文字通り孤立しちゃって浮いてる感じ。

満月:どうして<美術館>と<終電車>の間に空字があるんだろう。空字なし か、三つのアイテムの間を「・」で区切るような表記なら謎解きのような感じ で童話的な光景が導き出されていいなと思うのにな。

和夫:終電車は酒臭いスリのねじろだろ 休みの日に館で月が休み休み美術品 を狙ってるとしたらきっと宇都宮美術館のLa Grande Famille 1963にちがいない。それとも、ただたんにデート日誌なのかな。

パズルも月も泣くよ   ら印

特選:満月 知昭 いしず 

満月:ああ、とてもいい。胸がふぁ〜〜〜んとなった。パズルは泣いている。 たしかに。月もそれなら泣いているにちがいない。「パズル」がこんな風にな るとは!とてもいい抒情の質。このような短律ももっともっと読みたい。

知昭:ごめんなさい、笑えてきいました。でも短律がつくる世界がとても面白 かったんです。

あずさ:どのように泣くかも表現して欲しい。


孔雀鳴く精霊舟の向かうより   朝比古

特選:健介 けん太 (h)かずひろ 

けん太:孔雀はどこか豪華そう?でも鳴き声はどうなんでしょうか。きっと賑 やかなんだけど、哀しいんでしょうね。精霊舟もそんなかんじですよね。なん か共感できます。

健介:“不忍池”が彷彿としてたいへん味わい深い佳句です。

満月:孔雀と精霊舟は同一の性格の精に思えるので精霊がふたついるようだ。 おしゃかさま俳句?

(h)かずひろ:精霊舟はプリオシン海岸に流れつくことでせう。

屋上へジャズマン百人星月夜   足立隆

特選:いしず 健介 たか志 

たか志:「百人」でいいのかなあ、と気になりますが、楽しげなかんじがいい と思いました。

またたぶ:[ジャズ」と「星月」が近すぎるのがナンだと思います。

満月:ジャズマン百人と星月夜は、並べると同質のイメージが押し寄せるので 意外と効果があがらない。

健介:あっけらかんというか、ノリノリの超楽しそうな雰囲気に惹かれた。と てもイイ気分になってきちゃう句。“イナバ物置”ってオチじゃないよね…。

視力検査表の裏の裏の月   千野 帽子

満月 知昭 ら印 またたぶ 

またたぶ:「視力検査表の裏に月」を発見したのはお手柄だと思う。ただ「裏の」 を重ねることにあまり効果が見出せない。修辞的にはもっと練れると思う。

ら印:想像でちょっと笑える風景。なにがあるのかな?と楽しめる。

知昭:「裏の裏」を見せようとした句。引きつける力あり。

満月:裏の裏は表?視力検査は独特の世界だ。強いライトに照らされたところ だけだぎらぎら見えて、あとはよくわからない。しかもいつも立体に見ている 物が、片目をふさいで平面に見える。その閉塞感、違和感、異常感。なにかが 見えてしまっても不思議ではない。

突然の雨に素足の人魚かな   山口あずさ

特選:姫余 ぴえたくん いちたろう 

いちたろう:驚き=思考の一時停止→リセット→異状態にもかかわらず違和感 のない状態?だから人魚に素足があったのかも。あるいは自分のことを人魚だ と思ってる女の子が突然の雨に遭って、つい、なんにも飾られたところのない ただの「わたし」になってしまった状態?

ぴえたくん:人魚には足がなくて、お魚の尾ですよね。。突然の雨にお魚の尾 が消えてしまう幻想。みずみずしいえっち。

姫余:とても幻想的。作品に押しつけがましさがなく、それでいて一読したあ とに余韻が残る。とても素敵な作品だと思います。


満月:人魚=彼女(あるいは自分)で、水の中だから人魚。つまんない。本当 に本物の人魚をあらわしてほしいのに。

健介:陳腐か。それにしても思い出すなぁ松本隆の釈明コメント……(そんな ん誰もリアクション無いってッ)

青々と芒上海雑技団   凌

南天 朝比古 一之 またたぶ 

またたぶ:「青々と芒」なんて叙情は私にとって即パスものですが、取り合わ せで救われたとみました。でも、「芒」と「雑技団」に親和性を見てしまう人 もいるかなあ。

知昭:取り合わせの良いこと。雑技団のはつらつぶりと若いすすき、いいい じゃないですか。

健介:「上海雑技団」がやや唐突過ぎたか。

朝比古:躍動感をこれでもかと表現。上海雑技団が青々としている方が好み。

南天:上海じゃないけど、雑技団に入っていた知り合いがいます。彼女と、青々 とした芒は、なかなか魅力的だと思ったので。

満月:いまひとつ景色が見えないような。<芒>と<上海雑伎団>の関係やい かに。

三角の月夜に出逢う恋仇   古時計

南天 秋 一之 いしず 逆選:凌 

健介:「三角」好ぅっきゃぁなあ。

秋:詩的な月夜の一つ世界。「三角の」が面白いと思いました。

南天:「恋仇」という言葉にひかれて。

満月:芝居のような。ペープサートを思い出してしまった。

凌:すらすらっと読みやすい句はいい句かも知れないが、「三角の月」と「恋 仇」はつき過ぎる。どうも私は「恋仇」とかは新派的悲恋を思い出してうまく 読めない。

水曜日の耳がおちてる月見草   鬼灯

満月 姫余 ら印 けん太 逆選:薫 

けん太:このパターン、よくこの句会にはありますよね。でもこの句は「耳が おちてる」のインパクトより「水曜日」の「月見草」がきれいで、共感できま したと言いたいです。

ら印:ドキッとすることをなにげない書き方でいいね〜。

薫:水曜日に市場へ出かけて糸と麻を買ったリンチが。自分も先だって曜日の 句を作って苦労したので同胞の逆選。月見草、は私の好みからいえば弱いよう な気もします。

姫余:水曜日の耳 って何?でも、なんだか惹かれて選んじゃいました。

満月:<水曜日の耳>をさまざま考えてしまう。月曜日の耳でも金曜日の耳で もないのだ。でも、うーーん、この語順だと<月見草>が謎解きになってしま う。<月見草>の部分が切れているとすれば、上五でないとむずかしいが。


3点句

月に雲紫式部の赤い影   けん太

安伸 さにー あずさ 

あずさ:作家というのは、どこか禍々しい印象を人に与えますね。

さにー:紫式部の本名は「香子」で落ち着くのでしょうか?

またたぶ:もし植物を意図しているなら、漢字表記では無理があると思うんで すが、いかがでしょう。「人」と「花」と両方いきたかったのかな。

知昭:妙にカラフル。

満月:<紫式部>が樹木の名だとすると<月>と季重なり、<赤い>とも喧嘩 する。源氏物語の作者としてのそれなら、<赤い影>はイメージにそぐわない。

こぼれないようになみだを居待月   ぴえた

特選:古時計 しんく 

古時計:なかなか月が出てこない、じっと涙をこらえている様子がいじら しい。

満月:<なみだを>流す、と続くのでしょう。で、そこを書けないところでか ろうじて救われていると思う。

しんく:上を向いて歩こう。

曇りでもコンビニが月美少年   またたぶ

南天 ら印 たか志 

たか志:なるほど、と思いました。深夜のコンビニってこんなんですよね。で も、なんで美少年なんだろうか?

またたぶ:なぜ「美」なんて限定してしまったのか。

ら印:ちょっと説明になりかけてるけど引っかかりがある。

健介:「曇りでも」などと理屈を言ってしまってはつまらないです。

南天:コンビニと月は確かに同質のものをもっていると思う。

満月:<コンビニが月>はいい。<曇りでも・・美少年>もまあいい。でもな んでコンビニの月が出ているところにさらに美少年が。月が二つあるようで分 散する。

あずさ:一句の中に答えが出てしまって膨らみを欠いてしまったように思う。 ところでこの<美少年>、日本酒の銘柄じゃないよね?

書置きの言葉身にしむ髭を剃る   (h)かずひろ

特選:たか志 健介 

たか志:無季ですよね。違ってたらすみません。でも、秋のかんじですね、こ れって。(経験者は語る・・・。)共感しました。

健介:中七までは至って陳腐という印象なのだが、「髭を剃る」と展開したこと で巧く一句に纏めたな、って感じ。ちょっとイイっていう感じの魅力ですね。

満月:妻に家出された夫みたいです。


長女二女三女驟雨の味方なり   岡村知昭

帽子 健介 鬼灯 

健介:そして私は三人の味方なり、なんてね。ポッキー三姉妹ならやっぱ清水美 紗かなぁ…う〜ん“つぶつぶいちご”。冗談はさておき、この句結構イイ、深い。

満月:三人も並べる必要があったのかなあ。

寝返りのたび秒針の秋意かな   白井健介

姫余 古時計 たか志 

たか志:よく分かります。平凡といえばそうですが、好きです。

古時計:寝つかれない夜時計のセコンドの音が気になるのだけど秋意がなぐ さめ。

姫余:秋のたくらみが、秒針にも・・・。そんなことを思わせる作品でした。

満月:<秋意>はあんまりいい言葉と思えない。語感も悪いし。これ、うっか り「秒針の失意」と読んで、おお、と思ったのだけど、幻覚だった(--;

髪を梳く手からキノコはわいてくる   けん太

特選:またたぶ 帽子 

またたぶ:今まで「類想がある」と数々の句に難をつけてきましたが、この句 では類想うんぬんよりも、完成度を称えたいです。「梳く」と「キノコ」納得。

健介:かなりキモいっス。THEちゃらんぽらんのツカみネタじゃないんだか ら…。

あずさ:怖すぎる。

満月:ぎやっ。

王様は案山子になりし午後3時   さにー

特選:ら印 和夫 逆選:しんく 

しんく:下五に時刻は、もう飽きました。

ら印:あっと時間が止まる。3と出したのも上手い。

満月:<午後3時>が安易に思える。<王様は>の「は」も問題では。

和夫:監督v2ですか、一緒に写真撮ってください例のポーズでお願いしま す。でも投句締め日以降に優勝が決まってんだよな、あっ賭てたな。

2点句

無月なり音楽を抱く女形   中村安伸

隆 あずさ 

あずさ:「音楽を抱く」「音楽に抱かれる」というのは既視感のある世界ではあ りますが、いいと思います。

健介:「音楽を」では少し漠然として印象がぼやける感じなのが惜しい。ここは 具体的にして勝負する手があると思う。例えば<無月なり笙の音を抱く女形> とかにして、楽器はいちばんぴったりなものにするといい。中村さん、どん な


楽器がイイすかねぇ?

満月:<音楽を抱く>は深いイメージを誘うかに見えて実際はあいまいでイ メージが枯れてしまう印象があるのはなぜだろう。

灰汁めいて雨は止まない九月かな   秋

特選:隆 

満月:<灰汁めいて>は、よくわからないけどなんだか不思議な言い回し。「雨 の」でなく<雨は>であるところも不思議な感触を増す。

後の月生無きものの明るかり   朝比古

明虫 (h)かずひろ 

(h)かずひろ:変わらない、変えようのない世界への絶望感。あるいは、月より ダンゴ。

満月:ちょっとパターン的な内容かもしれないが、<生無きもの>が明るいと いう虚無感と、静謐なアニミズムのような感じがしんしんとしていい。

明虫:月の明るさから普遍化したのだろうが、生無きものにも蔭やら暗いとこ ろがあると思うので、すこし無理を感じる。

村芝居1000京トン級の月が揺れ   いしず

薫 しんく 

しんく:地球は何級なんだろう?

知昭:過ぎたるは及ばざるがごとし。具体物での比喩ができればよかった なあ。

満月:月の重さなんて考えたこともなかった。が、ここは<級>という範囲に してしまったので説得力が薄れた。「一〇〇〇京トンの月」と断定してくれた ら重さをどーんと感じることができたのに。表記も「千京トン」でないけな かったのか?でも村芝居で月が揺れる、という発想は動きがあってよく伝わ る。月を揺らす方が好きだけど。

あずさ:派手な嘘は好ましい。が、この月は重すぎて村芝居が潰れた。

秋虹や海沿いの道つづら折り   たか志

特選:和夫 

和夫:どこに行かれたのですか?教えてください。情景描写ってやつなのか な?私にとってこの情景はなかなか記憶を辿っても所在の特定ができない事に 気づいた、TV等ですりこまれた曖昧な記憶なんだと思うと是が非でも海沿い のつづら折り合う所に行きたくなった。

満月:そのまんまでは。

健介:「つづら折り」とは[(ツヅラフジのように)いくえにも折れ曲がって続 く坂道・山道]なのだから「道」と言ってはクドい。<秋紅や梅に沿うたるつ づら折り>等の言い方でじゅうぶんと思う。


仕立て屋の恋する月の火照りかな   しんく

特選:けん太 

けん太:「仕立屋の恋」でしたっけ?映画にありましたよね。それはそれとし て「仕立て屋」と「月の火照り」の距離感が気にいりました。こんな「見立て」 もあっていい。

健介:どうせなら<仕立屋の恋せる火照りなる雨月>とかにするってのは ちょっとやり過ぎですかねぇ…。

満月:だらだらとどこまでも続く。「仕立屋の恋」か「恋する月」か「月の火 照り」か「恋する火照り」か。なんとか焦点を決めさせてください。

颱風を聞かせる受話器 恋人よ   ぴえた

南天 いちたろう 

またたぶ:「颱風を聴かせる受話器」かー、なかなかと感心したら、「恋人よ」 と結ばれていた。これで、「通話中片方が相手に聴かせている」という読みが 発生し、不可思議感が消えてしまった。

健介:勝手に仲良くして。

満月:うーーーん、<恋人よ>と処理しなかったらよかったのに。<颱風を聞 かせる受話器>はたくさんのドラマが浮かぶのに、一番安手の「答え」を書き 込んでしまったという気がする。

いちたろう:恋の句は難しい。黛まどかだってほんとうに驚かせてくれる句は 恋の句ではないような気がします。一瞬の構造を切り取る俳句においてあいま いな叙情は通用しません。この句は恋という語の雰囲気に頼ることなく、きち んと句になりえる構造を示していると思います。もしかしたら電話の相手は自 分の声を聞かせたくなかったのかもしれません。何かの答えだったのかもしれ ません。自分の立場、環境を示したかったのかもしれないし、電話があるから 大丈夫、と言いたかったのかもしれません。いいようにもわるいようにも読み 取れますが、この「距離感」に接して、ぼくは中沢新一の電話に関するエッ セーを思い出しました(題は忘れました)。

逢わなければ乾くくちびる月満ちる   またたぶ

姫余 さにー 

さにー:恋の句が多い中から、これを一つ選びました。

健介:もうホンっトに勘弁して……工藤ちゃんの“わざと俳句”じゃないんだ から…。

姫余:とても色っぽい。作者の性別は解らないけれど、月夜に紅をさしなが ら、こんな色っぽい言葉が似合う女になりたい・・・という願望をこの句に重 ねてしまいました。

満月:なんだかだんだん切迫してくるようで、唇に亀裂が入ってきそうで・・・ <満ちる>がどんどん満ちてきて押し詰められるようで息苦しくなるというす ごい効果を発揮している。

またたぶ:かなり恥ずかしい。下五をもっと叙情性の低いものにしたらどうか。


新月や般若ホルダー賭けてゐる   明虫

秋 薫 

秋:「新月」と「般若ホルダー」から醸し出される物が面白かった。

満月:<ホルダー>はキーホルダーでしょうか。ブツは知ってるのでわかるこ とはわかりますが、知らない人にはさっぱり通じない句。<新月>と<般若> もかぶる。

あずさ:「賭ける」がわからない。「般若ホルダー」もわからないけど。。。般若 ホルダーを賭けるといえば、これ!というギャンブルがあるのか?

月世界高中正義と行けた   和夫

特選:斗士 逆選:(h)かずひろ 

斗士:高中正義ってリゾート音楽っぽくとられがちだけど、けっこう大気圏外 感覚あると思う。そういえば「space wagon」という名曲もあり。

(h)かずひろ:個人的には竹中尚人希望。

あずさ:CDのキャッチコピーか。

またたぶ:漢字の並び方が面白い。

健介:生まれた子供が可愛くて可愛くて“Love 2 あいしてる”どころじゃなくなっちゃったらしいって噂だった「高中正義」さん。中央競馬ダイジェスト のバックに“JOLLY JIVE”のBLUE LAGOONが流れていた当時(そりゃいつのことだよ!)からのファンです。お子さんお元気ですか。BLUE LAGOONって言やぁ“お約束の少年少女孤島漂着もの”の映画のタイトルのひとつがそれ でしたねえ…。でもって句の方はちょっとイマイチ…。やっぱフィビーケイツ の“パラダイス”だよなぁ……

満月:全体にぎすぎすして感じるのはなぜか。一語一語の選び方が内容に比し てぶっきらぼうに感じる。

あかあかとつきぬけるあか穴まどひ   しんく

たか志 さにー 逆選:健介 

さにー:やっぱり漢字で書かれていたのなら選ばなかったと思います。

たか志:音感と字面に惹かれました。「穴まどひ」である句会で作れなかった 自分に喝!!

健介:こういう句に僕がころっと靡いちゃうのを見透かしたような作品なのが 悔しいので“愛の逆選”。でも「穴まど」ってちゃぁいけません……

満月:<あか>とは?

1点句

眼科医の高飛車にいうアルファベット   古時計

いしず 

健介:眼科医によっちゃあちょっとイイかも、句のこととは関係無いか。

満月:視力検査、まんま。


ほんとうのビデオをまわす月実験   中村安伸

薫 

あずさ:「ほんとう」って、何がほんとうなの?

満月:<ほんとうのビデオ>ってなんだろう。<月実験>ってなんだろう。 他人が読むのだからもう少し読める手がかりを下さい。

月宮殿二人羽織の三人目   千野 帽子

あずさ 

あずさ:この「三人目」、なんか怪しいですね。

満月:どうにも二人羽織と<月宮殿>という華麗で雅やかなイメージとが合わ なくて吹き出してしまった。

片恋のあの人の背に月似たり   南天

古時計 

古時計:佇んで月を見ている姿がいじらしい。

満月:語順がおそろしく悪い。

健介:ちょっと勘弁して…

ゆっくりと絵の具を置きに花の雲   ら印

姫余 

健介:<ゆっくりと絵の具のかわく花の雲>っていうのが浮かんだんです けど…

姫余:いったい、どんな絵が出来上がるのでしょうか。こちらまで、作品の世 界に引き込まれてしまいました。

満月:<花の雲>が花曇り色の絵の具を置いて世界を花曇りにする?<ゆっく りと><置きに>はちょっと工夫が欲しいなあ。

あずさ:下五が「花の雲」でなければ採ったかも。

星月夜おんなごころとチャイナドレス   (h)かずひろ

斗士 逆選:あずさ 

斗士:「おんなごころとチャイナドレス」の素直であっけらかんとした味わい。 女の人ってみんな一着はチャイナドレス持ってるのかな。アンケートとってみ たい。

健介:それぞれのパーツ(言語)にはそれなりの趣があるのに三つ揃えちゃう と平凡でつまらないという例か。

満月:歌謡曲的三題噺になっているように思うが。

あずさ:おやじごころの間違いでは?


月を撃て僕がひとりになる前に   たか志

いしず 逆選:ぴえたくん 

あずさ:孤独が怖い?

ぴえたくん:女性が使う「僕」だと思いました。わたしが好きな俳句は短歌っ ぽいようで、この作品はかなり短歌的俳句だなあ、と感じました。

またたぶ:一人称代名詞(特に「僕」)をナルシスト入れずに使うのは偉業で すね。この句はちょっとそこを乗り越えられていない気がします。

健介:こういう科白が許されるキャラはそうはいませんよ。

知昭:やるならここまでやろうとうい姿勢は買い。

満月:<ひとりになる>がわからない。

望の月東京巨人軍帰れ   岡村知昭

しんく 逆選:朝比古 逆選:安伸 

あずさ:この「帰れ」は、帰ってきて欲しいのか、追い払っているのか不明。

しんく:阪神ファンのダンカンいわく「巨人の悪口を言うな。そのエネルギー があるなら、阪神のいいところを、もっと言え!」だとか。

健介:“読売巨人軍”と言えッ!ってナベツネさんが文句言うぞ。

朝比古:盲目的巨人ファンの私にとって、この句はある意味、逆説的心地良さ があった。恐らくアンチ巨人の方の御句なのでしょうが、「所詮日本のプロ野 球って、巨人を中心に回ってるんだよなぁ。」という事実を最確認させられま した。あ、それと「東京巨人軍」ではなくて、「読売巨人軍」ですね。

満月:この<帰れ>は戻ってこいの意か、帰ってしまえの意か。<望の月>な のだから戻れと言っているような気はするが。<望の月>というのったりした イメージとなんだか合わない気がする。

イッタァ・・・ふと見上げれば満月   さにー

斗士 逆選:明虫 逆選:知昭 

健介:「ふと」は要らないと思う。

知昭:いろいろ手を尽くしましても、もとがもとではねえ……。

斗士:なんかこのおおらかさに惹かれてしまった。でもきちんと心象が伝わっ てくる句だと思う。

満月:<イッタァ>はせりふだけど、なにか料理ができそうではある。が、<・・・ >でナマにしてしまった。<ふと見上げれば>も<満月>と予定調和的。

明虫:五七五を壊すというより無視しているようだが、自由律でも山頭火、尾 崎放哉、橋本夢道とかは五七五をもっと意識して壊していたと思う。

冷蔵庫冷やしたいのは頭です   主水

凌 逆選:隆 逆選:斗士 逆選:秋 逆選:さにー 

凌:冷蔵庫には耳とか目とか、内臓はもちろん、湯でもどせばすぐに使える胃 袋もある。特上の脳みそもちゃんと大切に保冷されている。いちばん下の段に は手足も左右揃って置いてあるというのに、西瓜ほどもある頭を入れるとこが


ない。いちばん冷やしたいのは頭なのに・・・。

さにー:近所に住む中学受験を控えた子供の顔が思い浮びました。

またたぶ:「冷やしたいのは頭です」の突き放し感を買いたい。できれば「冷 蔵庫」ではなく、無関係なものを上五にもってきてほしいが。

健介:この上なく発想が常識的。いささか信じられない思い。

秋:わざわざ句にする事でも無いように思いました。

知昭:頭の熱さにいらだってるんですね。興奮しないで。

斗士:オヤジギャグ。そんなに嫌いな句でもないけれど。

満月:じゃ、そうしたら、としか反応できないです。

その他の句

月まねる上目づかいの目は罠です   いちたろう

あずさ:これは経験上の事実というやつでしょうか?

健介:中七以下の内容には納得。そのとおりと思います。「月まねる」ってい うのがちょっとスベったか…。

知昭:「こういう女に気をつけろ」ってわけですか。

満月:上五が疑問。<月まねる>では切れていず、「月まねる〜目」とかかるよう だ。<目は罠>はいろいろできそうな材料だが、よく焦点を結ぶことができない。 上五でどこかにすっ飛ばしてほしいなあ。というかすっ飛ばされたいです。

黄泉の坂さがしさがして三日月夜   南天

健介:僕的には<昼三日月>とした方がしっくりするという感じがします。

満月:説得力が少ない。なぜさがすのか。あるいは自分が黄泉の坂にいて、「私 を探して」と言っているのか。これはちょっとこわい。

満月や空水槽に水流   秋

健介:だから「空」やて! 一応ツッコまさせていただきました。

満月:<に>が説明にしている。現したいイメージはわかるが、いまいち効果 を上げていないように思う。

明虫:水流る、とした方がいいと思う。月に水ではイメージ的に付きすぎと思う。

ねこあしの猫の尾を吊る月夜かな   主水

健介:私としては「猫の」と言う必要はないのでは、と思う。でも分かりにく くなっちゃうのかな?

満月:<ねこあしの猫の尾>ってなんだろう?

虫の音や猫と鳩との至近距離   いしず

健介:作り込みが過ぎるとしても私だったらこうしたいが…<昼の蟲猫の射程 にはぐれ鳩>

満月:次の瞬間・・・というだけ?


夕雲の黒が浮き出し八雲の忌   明虫

満月:八つの雲の内黒い雲が浮きだしたような。<雲>の重ねも効果を上げて いるのでは。

つき・ツキ・月・耳なしうさぎ跳ねていく   姫余

逆選:帽子 

帽子:「浮力の強い女」が言いそう(リリー・フランキー『女子の生きざま』新 潮OH!文庫102頁参照)。

健介:こういうパターンにもちょっと飽きた感じが…。

満月:中七下五はおもしろいが、<つき・ツキ・月>はアイデア倒れ。

名月や姫の降りたつクレーター   後藤一之

逆選:ら印 

ら印:正選にしたいけど語りすぎかも。

健介:「や」で切るのではなく<名月の姫の降り立つクレーター>だと思うが。

満月:某サラ金会社のCFの「姫」を思い出した。ぴったり。

イルカかよ岡目八目捕鯨船   和夫

逆選:一之 

あずさ:「イルカかよ」という言い方はなんとなくおかしいが、ここで「岡目 八目」という意味がよくわからない。

健介:<傍目八目>と書く方が私は好き。この「岡目八目」が理屈で、いまい ち。

満月:よくわからない。

月白(つきしろ)や焼き場の隠語「0番地 (ゼロばんち)」白井健介

逆選:和夫 逆選:南天 

南天:説明的な部分が長すぎるのでは。

満月:そうですか。という感じ。

和夫:月白ってのは煎餅の商標ですか?0番地ってのは焼き加減ですか?