第30回 青山俳句工場向上句会選句結果

(非売品:売ってはいけない。)

通常句会は今回でおしまいになります。

第一回から欠かさず投句してくださった白井健介さん、けん太さんをはじめ、 投句及び選句に参加してくださったすべてのみなさんに御礼申し上げます。

投句:白井健介、けん太、満月、またたぶ、ぴえた、足立隆、後藤一之、千野 帽子、岡村知昭、中村安伸、いしず、朝比古、夜来香、秀彦、杉山薫、古時計、 いちたろう、しんく、子壱、みのる、(h)かずひろ、遊月、ひつじ、みずくらげ、 山口あずさ

感想協力:ナツ、中嶋憲武

全体的な感想

秀彦:前回から参加したばかりなのに本当に今回で終わってしまうのですか。 実に残念です。

遊月:今回は自分の好きな句が少なかった。最後の句会というのが残念です。

隆:以下の感想は、工場句会がこれでお仕舞いと聞きコメントしたものです。 ボクの勘違い、間違いでしたら無視して下さい。今回が最後なのですか。残念 です。結社を超え、歯に衣着せぬものいいが今の俳壇とは一線を画し、爽やか な句会であったと思います。俳壇というものには大して興味はありませんが、 俳句を作っているといやでもおうでも、何かが聞こえて来ます。俳句は遊びで あると、ずーっと思っていますしこれからも変らないと思いますが、そういう 姿勢であった向上句会が終るのは残念です。お世話役の山口さんには本当にお 疲れさまでした。山口さんがいられなければここまでも続かなかったのではな いでしょうか。有難うございます。しかし、青山俳句工場は続くのでしょうね。

朝比古:「世」という御題はなかなか難しかったですね。選句リストを見ても、 皆さん苦労された形跡がよく解ります。選をしていると、毎回、五・七・五の 韻律にどうしても拘ってしまう自分が出現してしまいます。恐らく今後もこの 性癖は変ることは無いのでしょう。そんなことを気付かせてくれた向上句会に 感謝したいと思います。

ナツ:みなさんやっぱり新世紀で詠んでますね

帽子:山口様、3年以上のあいだ、おつかれさまです。まだ最後の超特選が残っ てますが、無理なさらぬよう。みなさま、いつもムラのある出句ですみません でした。

ぴえた:自分の「世」題詠を棚に上げて選句いたしました。ご無礼お許し下さ いませ。めっちゃむずかしいお題でした。とほほ。あと超特選句会があって終 了なんですね。残念ですが、本当におつかれさまでした。いろいろ勉強させて 戴いて感謝しております。ありがとうございました。

憲武:初めて参加させていただきましたが(ここのサイトも初めて)面白いで すね。もっと早くきてりゃ〜よかったという感じです。

いちたろう:選句ができませんでした。どの句も、どのような構造を読みとっ てほしいのかはっきりと伝わってきませんでした。何度か読みなおしました


が、選ぶことができませんでした。不誠実でたいへん申し訳ありません。なん だか終わりが近づくにしたがいあらためて俳句とはなんだろう、向上句会とは 何だろう、と思ってしまい、納得のゆく句しか選べなくなってしまいました。 もうしばらく考えようと思います。

(h)かずひろ:向上句会の最終回ということで、謹んで選句いたしました。

けん太:世紀が変わったって俳句には多くは期待できないのではないか。ま、 そんなことを考えながら、こつこつと今年も我が道を行きたいと思います。今 回は楽しい視点を持っている句を主に選んでいます。深刻になりすぎないこ と。それが今年のボクの指標です・・。よろしくお願いします。

みのる:一読者でしたが最後と聞き参加させていただきました。さすがに妙句 揃いで選句は非常に迷いました。

しんく:ほんとうに今までお世話になりました。ここで出会った皆様方、また どこかでお会いできるのを楽しみにしています。

ひつじ:投句も選句も大変でした。初心者がどこまで何を言っていいものか分 からなくて・・・。初めて参加させていただいたのに、これが最後というのが 残念です。

またたぶ:毎回しんどかった選の締切もこれで最後かと思うと…関係者の方々 にはお礼を申し上げるばかりです。今後ともどこかでよろしくお願いします。

古時計:これで本当に最後なのですね。若い皆さんと少し間俳句という中で遊 んでいただけたこと感謝しています。小川知子似の山口あずささん本当にお世 話になりました。

みずくらげ:当方の感受性の無さのせいだろうか。今回の題『世』が描き出され た世界が、総じて期待していたほどにはこちらに響いてこないのが不思議だ。或 いは今の「世」が正直に顕れた結果なのだろうか。どうにもならんという……。前 回の選句は興奮したのだが、今回はすこし冷静。それがおもしろくない。せっか く入会させていただいたのに、もう終わりだそうだし。ぶつぶつ……。

杉山薫:毎回、感想って人によってこんなに違うのかー、と新鮮な驚きの連続で した。あまりの展開の速さに発言の機を失ってしまったこともしばしば、迷って いるうちに目の前を通り過ぎていく回転寿司の皿。失言、妄言お許しください。貴 重な場を提供してくださったすべての方々、ありがとうございました。

健介:最後の超特選大会って、またきっと(私にとっては)つまらない大会(要 するにエントリー作品なし)なんだろうなぁ……ま、いいか。

14点句

割れてゐる煮干の腹や夜の雪   朝比古

特選:隆 特選:みのる 特選:けん太 特選:あずさ 特選:(h)かずひ ろ 秀彦 ひつじ ぴえたくん いしず 

秀彦:雪国に住む私には直感的に把握できました。思わずアッと声を出してし まいました。

ぴえた:降っていることがわからない静かな静かな雪夜と、もの言わぬ煮干の 割れている腹、声にならない声が聞こえる作品だと思います。

(h)かずひろ:明日の味噌汁のダシ用の煮干。酒の肴に食べてしまった言い訳が 「割れた腹」。ある種類のデカダン。


けん太:何とも言い難い無惨さがある。時代を反映しているというのは言い過 ぎか。とにかく気にかかる一句です。

みのる:なるほど割れている。静かさの中,普段気にすることもない単体とし ての煮干をみつめている・・。シュールな情景が目に浮かびます。

ひつじ:煮干の腸を取るのって意外と楽しいですよね。言われてみれば夏や秋 じゃ句にならないなぁ、と思ったので。

あずさ:割腹した煮干し。2.26事件のあった日の夜かも。

9点句

近づけば箱に似ている雪女   中村安伸

特選:帽子 朝比古 薫 一之 またたぶ けん太 あずさ (h)かずひろ

朝比古:雪女句としては意表をついた世界。

帽子:近づいたことがないから知らなかった。そうだったのか。

憲武:(選)そう言われればそうだと頷いてしまう。雪女の句で、こーゆー切 り口は初めて見ました。感心!

(h)かずひろ:棺桶。冷蔵庫。安部公房。

けん太:雪女を「箱」とする目を評価したい。残念なのは「似ている」がやや 弱いこと。

またたぶ:「〜に似ている」は少し弱腰。「近づけば」は手抜き。でもこの取り 合わせに一票。

杉山薫:じわじわと怖い。箱入雪女。あ、似ているだけか。「箱」の字を当て たのは意図的なのでしょうか。「はこ」と言えばいまや「匣」ですが、雪女と では即きすぎですか。

あずさ:説得力のある一句でした。

健介:…… box?

6点句

陽が射して冬の海鼠は冬の手に   満月

特選:ひつじ みのる みずくらげ 遊月 帽子 

遊月:海鼠は冬の季語なんだけど、という話は置いといて。海鼠の冷たくて、 硬く柔らかい触感。濡れた表皮に陽光が射した情景が浮かびました。

ナツ:(選)海鼠が読めません・漢和辞典で引いたけど・・・。でもなんかす きですね

帽子:上五が弱いが中七下五は「冬の波冬の波止場に来て返す 加藤郁乎」に 似て…ないか。

みのる:季重なりが逆におもしろい。深い海の底まで冬にそまってしまったの でしょう。

ひつじ:私の唯一「嫌いで食べられない」海鼠に、初めてなんだか愛おしさを 感じました。

みずくらげ:冬の海鼠はうまい。漁師のかじかんだ手の中の小ぶりな海鼠。漁 師の吐く息が白い。[海鼠腸(このわた)は裂いたら、そのまま、つるっと」  <陽が射して>がとても効いていて、こんなにおいしそうな海鼠に出会ったの


ははじめて。作者の本意はもっと幽遠なふところの中にあるのかもしれない が、つい食欲のほうが先にきてしまった。ごめんなさい。

小春日の立ち食いうどん来世かな   けん太

特選:古時計 特選:しんく またたぶ 隆 

しんく:新世紀だとバカ騒ぎしたって、日常のこんな感じはかわらんでしょ。

またたぶ:納得。

古時計:・・・・立ち食いうどんで切ると来世がよく効きます。

波打ち際で新世紀が伏せってゐた   いちたろう

特選:夜来香 特選:秀彦 特選:薫 

秀彦:波打ち際にうつ伏せになっている無気味で病的な謎の生物。そんな映像 が浮かんで来てとても刺激的でした。新世紀に明るい夢を見ることは、どうや ら出来ないようです。

ナツ:(選)よわっちそうな新世紀

夜来香:ユーモアと憂いを合わせ持っている、華々しいのではない新世紀が ゼェゼェ言っている様子がいい。

杉山薫:旧かながうやうやしさを演出。しかも擬人法が成功。「あばれている」 ほうが好きですが、おとなしい新世紀なのか。それともそんな単純でもなさそ うないかがわしい新世紀の予感も。

5点句

ドロップスの缶が開かない着ぶくれる   ぴえた

隆 夜来香 朝比古 ひつじ あずさ 

朝比古:もどかしさを上手く表現。

夜来香:缶が開かないときって、ウーンウーンと唸ります。着膨れたときの苦 しさと確かに重なります。

ひつじ:サクマですね。私は缶ジュースも開けるのが下手なので、身にしみま した。

あずさ:ドロップスの缶を開けるという動作をもう何年(何十年?)もしてい ない。大人になってしまってからは、着膨れるなんてくともなくなって、ノス タルジーがうまく響きあった。

雪兎智恵子のあをい眼を刻む   ひつじ

特選:朝比古 特選:みずくらげ あずさ 逆選:帽子 

朝比古:上手い句。手練。泣かせるよなぁ。「あをき」の方が好みではある。

憲武:(特選)雪兎と智恵子の取り合わせがベストです。あおい眼、智恵子の 瞳ってそうだったのかな〜と、想像世界を広げてくれます。

みずくらげ:色彩がきらめいて、しかも邪魔にならない。白、ピンク、青、そ して瞬間仄見える緋色の卑猥さ。南天の実の赤に被さる緋縮緬の……。人間も いるうつくしい世界。即物的散文調から一歩も抜け出せないでいる当方とした


ら、この色彩が醸し出す淫靡で清冽な抽象世界は、そのまま特選の席に直行で す。いつかこんなのを作れたらなぁ……。

あずさ:ちょっと気障な印象も受けたが、「あをい」狂気に惹かれた。

帽子:たぶん『智恵子抄』なのだろうが、この方向は苦手。

去年今年世界はぼんのくぼにあり   千野 帽子

特選:またたぶ 秀彦 しんく いしず 

秀彦:どうしたわけか「去年今年」という季語には、こうした不思議な断定が 合うんですネ。

しんく:言いえて妙ですな。

またたぶ:上五が動く気もしますが

初雪や前世をのぞく顕微鏡   中村安伸

遊月 朝比古 薫 一之 けん太 逆選:しんく 

遊月:雪の結晶をみると前世がわかるのだろうか。おもしろい。

朝比古: 理屈っぽいけど初雪でなんとか支えたかな。

けん太:こんな顕微鏡ほしい。想像力を高める一句です。

しんく:前世は蓑虫の句とこの句、この類の句を逆選にする路線は貫かさせて いただきます。

杉山薫:特選候補。参りました。一目惚れ。顕微鏡の中にほの見える、はかな いミトコンドリア(勝手に解釈)は前世そのもの。初雪、効いてます。静謐な、 祈りに似た感情。余談ですが選句表ですぐ下の句も雪を扱っているのにこの句 と比べると見劣りしちゃって哀れです。私の句なのに。

4点句

ガラス吹く此の世彼の世の夢あつめ   またたぶ

特選:一之 秀彦 ぴえたくん 

秀彦:宙吹き硝子のことと思います。詩的表現に惹かれました。

ぴえた:美し過ぎる悲し過ぎる北欧の童話のようです。「世」はそれじたいと てつもなく大きなつかみどころのない語なので、とてもむずかしい題である上 に、同様のむずかしい「夢」を用いて、ガラスを吹く特殊な行為と見事に作品 にされました。

世間体は林檎のようでひりひりする   満月

帽子 秀彦 古時計 またたぶ 

秀彦:句意のつかみづらい作品ですが、読み返すたびに面白さが増すので採ら せてもらいました。

帽子:「ように」だったら採らなかった。「××のようでひりひりする」の展開 がよい。ただし世間体がひりひりするのは当り前過ぎる。上五を変えてほしい。

またたぶ:「世間体」が「ひりひりする」とくると、新鮮味が減ってしまった 恨みがある。


古時計:世間体とは、やっかいなもので気にしなくていい、いや気になります それが林檎のようでひりひりするという語感がいいです。

すれちがふ天本英世街師走   白井健介

朝比古 古時計 みのる あずさ 逆選:(h)かずひろ 

朝比古:杉本英世でなくて善かった。

(h)かずひろ:なるほど、気分は世紀末。

みのる:世紀末なだけに死神博士がよく似合う。すれちがうだけの関係である のもよし。

古時計:人名の入った句は好きではないのですが、あまりにも天本英世にぴっ たりな風景に思わずワンシーンを見ました。

あずさ:「世」という題をうまく逃げてくれた。天本英世がいるところは皆師 走のような気がするから不思議。

3点句

ふゆやすみ疑ってみる世界地図   みのる

特選:遊月 みずくらげ 逆選:あずさ 

遊月:世界地図を疑ってみるのはよいことです。メディアからの情報を信用し てはいけません。ネバーランドやリリパットが見つからないなんて。

みずくらげ:やすみとはいいものです。いま未知の世界はわが手の内にあり。 さあ、こいつをどう料理しようか。しかし、やすみが終わると、それは疑うべ くもない知識という名の信仰の世界が立ちはだかる。冬休み限定版の開放感。 すこしさみしい。

あずさ:モチーフそのまんまのような気がします。

新世紀に待ち針をさす不惑かな   夜来香

古時計 一之 けん太 

けん太:ひたすら「新世紀」と「待ち針をさす」が楽しい。で、余るんです、 「不惑」が。せっかくの素材惜しいと思いました。

古時計:縫い針でなく待ち針でまどわずさす新世紀。下五の不惑かなのかなは 気になりますが。

風花やカーテンコールの観世音   子壱

みのる またたぶ (h)かずひろ 

(h)かずひろ:kanzeonという梵音を魅力的に思いました。

みのる:なんとなく好き。出し惜しみする寺が多いだけに,うなづけるもの あり。

またたぶ:「風花」と「カーテンコール」は近すぎるのだが、妙に可笑しい。 題の使い方もいい。


我が家の隠れペットや嫁が君   後藤一之

特選:いしず 古時計 

古時計:ねずみを隠れとはいいながらペットと言い切っているのは淋しき者、 いや優しき人。

スケートの後ろ手ひかり点となる   またたぶ

特選:ぴえたくん 隆 

ぴえた:軽やかに滑る後ろ腰に合わせた手の神秘ですね。「点となる」は宇宙 から見た「焦点になる」と解釈させてもらいました。

憲武:(選)後ろ手ひかり点となる、作者の視線を感じる。把握がいい。

こつごもり回転寿司の三順目    子壱

夜来香 一之 いしず 逆選:ぴえたくん 

ぴえた:句意は好きですが、順は巡かな?と気になります。

夜来香:小晦日の慌ただしさ・・三順目というのが自らの体験であると思う。

雪にまみれて濃き色の下着かな   杉山薫

健介 しんく (h)かずひろ 逆選:隆 

(h)かずひろ:雪のように白い下着をつけていたのは、いつの日か・・・。

しんく:この句が詩的になるのも女性用限定といったところか。

健介:戴きましょうッ!(最後ですしね)私としては<色の濃い下着>という ふうな言い回しの方がイイ、そう思うのですけど。

2点句

豊満な女ゐて地球のような顔   山口あずさ

遊月 ぴえたくん 

遊月:大地の女神 Terra を詠んだのでしょうか。頭山のようなお話がはじまるのかな。

ぴえた:どんなお顔なのかなあ、地球は祖国とか母なる大地とか全部内包 していて、地球上の生き物として抗いようにない魅力を発散しているお顔 なのかなあ。。

憲武:(選)豊満な女って、地球って感じですよね!

古めかし今めかしけりじゅうにがつ   古時計

夜来香 いしず 

夜来香:めかしこむ=粧込、と書くそうですね。洋の派手なクリスマスと和の 正月準備の十二月感でしょうか。


ピンクレディー世代焼藷割つてをり   朝比古

帽子 みのる 

帽子:うまい。いくつくらいの人だろうか。当時炬燵の上で「ユッフォ!」と 踊ってた小学生くらいの人…と仮定すると20代終りから30代半ばまでか。

みのる:30代半ば位か。割る→分ける→自分の子供にと想像しほのぼのしま した。

「あけおめ」とルパン四世から賀状   (h)かずひろ

健介 薫 

杉山薫:あっけらかんとした空虚な感じが好ましい。

健介:“バカバカしさ”がちょっとイイ。

冬夕焼け王朝という装置かな   けん太

帽子 しんく 

ナツ:(選)そういえば冬の夕焼けと王朝のみやびって響くと発見

帽子:「夕焼け」までが人工物として認知される。「装置一般」と「舞台装置」と の双方を想起。でもって、後者の流れで、なぜか1950年代の「東宝歌舞伎」とい うものまで想起してしまった(当時の小説を読んだら出てきた。歌舞伎役者プラ ス長谷川一夫とか越路吹雪とかタカラジェンヌとかが共演していたそうな。豪華 だな。ジャニーズとDA PUMPとモー娘。が共演、みたいなもんだろうか)。

憲武:(選)冬夕焼け、絶妙ですね。装置という言葉をよく見つけましたね。こ の句も王朝が装置だと言われれば、おのずと首肯してしまう世界

しんく:日本というシステムも冬の夕焼けのようになりつつある。

とまり木の酔客見つめる雪ダルマ   (h)かずひろ

ぴえたくん けん太 

ぴえた:「酔客を見る」位の表現の方が客観性が出ていいんじゃないかな?と 思いましたが、情景が好きです。

けん太:情景がおもしろい。でも困ったでしょうね、雪だるまも。どんな顔で 見つめるんでしょうか。楽しい句です。

冬薔薇に寄りそう低温火傷かな   みのる

健介 ひつじ 

ひつじ:冬薔薇、というのがともすれば私なんかは陶酔の嫌らしさを感じてし まう言葉だけど、低温火傷との組み合わせがちょっと「めうろこ」でした。

健介:「寄りそう」には推敲の余地があると思うが「低温火傷」が洒落ている。

月冴える孤高の人に巡り合い   遊月

特選:健介 

健介:気分がとてもよく分かり、感情移入できてしまうので。


遠い日の洗濯機ぶろ聖夜過ぐ   白井健介

みずくらげ しんく 逆選:薫 

しんく:そういう経験はありませんが、こんな不自由さが大好きです。

みずくらげ:洗濯機ぶろというのは洗濯機を行水の盥がわりにしたのだろう か。しかし、あれに大人が入れるのか。もし子供を入れたとしたら、危ないな あ。どっちにしてもひとに要らぬ心配をさせるということは、いいことです。

杉山薫:この情景はなんだかこれで詩情を喚起されちゃうっていうか。「聖夜過 ぐ」だからでしょうか。「遠い日」はいらないような。気になる句なので逆選。

1点句

新世紀えらの記憶が消えるまで   ひつじ

みずくらげ 

みずくらげ:すべてなぞ。だからわるくない。おそらく……。こんな訳のわか らんものをつくるのは、どんな人物だろう。と思わせることこそ、芸術の原点 です。

凍蝶の翅透きとおる世紀末   遊月

薫 

ナツ:(特選)SFのようでチョウの羽に凍りついた霜が未来都市に降る冷た い雪みたい。はかなげで寂しい。

杉山薫:文句のつけどころのない端正な句、そこが文句だったりもする句なの かもしれませんが。すらすらと口を継いで出てきたような自然さに好感を持ち ました。透きとおった羽に新世紀の寿。

また一つやらずにすます年用意   いしず

(h)かずひろ 

(h)かずひろ:「老人力」というのも死語ですか?

ふりむけば万華鏡にも世紀末   古時計

遊月 

遊月:万華鏡のつくる世界が好きです。私だったら「ふりむけば世紀末なり万 華鏡」と詠みたい。

鳳来やシスター・ローザ・ウェルカム   しんく

ひつじ 

ひつじ:無知だからか、意味は分からなかったのですが、補って余りある語感 と語呂の良さだと思いました。


熱燗やJAZZの流れるカウンター   足立隆

健介 逆選:秀彦 

秀彦:小洒落たバーの宣伝コピー以上のものではないように思います(失礼)。

健介:「流れる」は言わずもがな、か?<燗熱しJAZZが肴のカウンター>とか…。

口づけの後に忘れるこの世ひとの世   山口あずさ

隆 逆選:夜来香 

ナツ:(逆選)この世人の世が重複してる気がします

憲武:(逆選)妙に気になった句。なんども読み返していくうち、演歌の世界 になってきたので、パス。

夜来香:口づけの前に忘れる潔さがほしいっす。

世が世ならサラリーマンになつてたろう   しんく

夜来香 逆選:みのる 逆選:みずくらげ 

夜来香:歴史上の人物だれそれが・・と主語を入れるとどうってことないが、 サラリーマンである今の自分を揶揄している、「私」が数百年前の人物であっ て、今世紀に生まれていたならと突き放している姿勢が笑える。

みのる:サラリーマン川柳以外で,サラリーマンという言葉を詠んだ句をはじ めてみました。しかし,この場であえて言うこともないのでは。

みずくらげ:これは羨望なのか安堵なのか、あるいは諧謔なのか。とても大事 なことなのだからはっきりさせてほしかった。もしかして大事なことではない とおもってる? どっちにしても就労人口の八十数パーセント以上が給与所得 者という世界に類を見ないおそるべき管理社会のこの国で、生き方に対する態 度をあいまいにしておくのは、この国の多くの小説家〈特に男)の、サラリー マン(ほとんどの読者)に対する媚びた文体と同じくらいずるいことです。

その他の句

移り世に忘れ物あり新世紀   いしず

あずさ:モチーフも言い回しもありきたりのように思います。

あたたかい冬羽根布団かつぎけり   岡村知昭

あずさ:羽布団がいらないということなのか?よくわからなかった。

世も末じゃ電子回路と馴れ初めて   みずくらげ

あずさ:お年寄り?

新世紀の煩悩いくつ除夜の鐘   ぴえた

あずさ:「煩悩いくつ」で「除夜の鐘」では芸がない。


爪延びて三世に生きる寒日和   秀彦

あずさ:晩年の祖母の爪を切っていたのを思い出した。

冬の蜂世が世ならばの思ひあり   後藤一之

ナツ:(選)絶対無い情景だろうけど、この人は何を思ってはちを見たの か・・・?豪奢な前世?

新しき世紀と年のブレックファスト   足立隆

あずさ:21世紀元旦朝食を長く言ってみたということでしょうか?

前世は蓑虫後の世は柿の種   杉山薫

あずさ:前世がバナナだったために、猿が怖くてしょうがないというしょーも ない冗談がありますが。。。「蓑虫」と「柿の種」には、何か因果関係があるの でしょうか?

燃えもせず風裂けてなお柔な月   みずくらげ

あずさ:微分積分俳句じゃないですよね?

聖夜にてごみ清掃車はしらせる   夜来香

あずさ:お仕事、お疲れさまです。

指切りの指が卒業の本心   千野 帽子

あずさ:小指?

燃える樅世間知らずに抱かれけり   岡村知昭

あずさ:わからない。。。

くそはめと言ふほどのことなきくさめ   秀彦

逆選:一之 

あずさ:五七五にするほどのことでもなかったような。。。

波打ち際どちらに倒れてもいいぼくは両生類  いちたろう

逆選:遊月 逆選:朝比古 逆選:健介 逆選:ひつじ 

遊月:この発想は好きですが、長すぎるし、リズムも悪い。惜しいなあという 気持ちで逆選を進呈します。

朝比古:座五でなんで結論出しちゃったんだろう。

ひつじ:言いたいことは伝わってくるけれど、定型にしなかった理由が分から ないし、しなかったことで余計にやすっぽくなっている感じを受けました。

健介:理屈っぽいわりには内容がちょっとお粗末では?