1999年上半期 青山俳句工場向上句会超特選大会選句結果

(長文注意!)

波瀾万丈の超特選句会でした。メールがなぜか届かなくなって、次は選句が送れなくなって。。。そんな中、困難にめげず(^^;)選句してくださったみなさんありがとうございます。(もし漏れている方がいらっしゃいましたらごめんなさい。)
1999年上半期は途中からつっこみ句会を開催し、いろいろと物議をかもしだしている中での超特選大会でした。
下半期はちょっと趣向を変えて、工場長に題を出して貰うことにしました。
辛口の青山俳句工場向上句会ではありますが、今後ともよろしくご贔屓の程お願い申しあげます。

向上句会とりまとめ:山口あずさ


選句協力:宮崎斗士,秋 ,松山けん太 ,またたぶ,千野帽子,摩砂青,しんく,後藤一之,白井健介,足立隆,石津優司,北山建穂 ,蘭丸 ,城名景琳 ,吐無 ,浜下昌宏 ,梟帥 ,Mitsuhiro ,越智 ,金子秀明 ,鯨酔 ,桜吹雪 ,三木田一彦 ,山本一郎 ,岡田 敬子 ,肝酔 ,弘美,小澤ともなり ,なかはられいこ,にゃんまげ,安伸,守口守,杉山薫,船外,鉄火 ,天乃晋次 ,田島健一 ,南菜風,満月,凌,スズキミノル,めぐみ,須田英夫,きん,山口あずさ


全体的な感想:

またたぶ:自力ですぐわかった句より、時を経て効いてきた句を選ぼう、せっかくの「偏愛的選句」だし。でも筆頭候補の「怖れつつ少年は眼をママに渡す」が私にはすこ〜しパワー不足だったので、結局自分の選句から一句。ちょっと残念。

一彦:ぼくは、俳句はまったく作らない人間なので、ほんとうにシロウトです。そのためか、じつは意味不明の句がたくさんありました。何回も読んでみて、はたと落ちがわかったものもありました。しかし、けっこう楽しいもんだなあと、思いはじめています。

景琳:日本語がわかる日本人で幸せであった,そんな気持ちが芽生えた84句でした.全体的に漫画チックな部分を吸収しました.

桜吹雪:青山に参加させてもらって四回目になります。私がいつも句会をする仲間とはまた違った感性の句が多くて、正直、選ぶのも読むのも、少々しんどい時があります。(元気な時じゃないと、ダメ)また、参加させていただきたいと思いますのでヨロシク。

秀明:俳句には詳しくないですが、全体にうまい、好いというものがなかった。

秋:半年間の特選句ですから、その時々にどんな思いで頂いたか思い出します。その時はすごい新鮮で、感動した句も今読むとそれほどでもない句もあります。あずささんの句は彼女の信念というか、生き方が背景にあるから、すごい迫力を感じます。俳句は17文字の世界であっても、短いだけにそれを生み出す俳句以外のその人の世界が重要なのではないでしょうか。

昌宏:なんかドキっとする句がないものかなあ。ひとときでも心に潤いを与えてくれるような。ガス抜きではなく、作ったものでいいのだから、ぜひ美しく仕立てたものを、そのテクニックを!

吐無:「なんだこの句は。あっ自分の句だ」というのがあって、時間が経過してからの自分の句に出会うのは自分の排泄物を眺めるのに似る苦痛が伴う。

弘美:こんな私が選句するなんて、おこがましくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。難しくて意味のわからない句が多かったのですが、きっとすばらしい句なのでしょうね。理解できないのが、自分自身とても残念でした。

肝酔:閉鎖的な結社とは違って、インターネット上の句会には色々な人が来る。最初から「和」を重んじることを前提にした場ではないので、予期せぬ問題も起こる。でもそれだから、青山俳句工場は面白いのだと思います。それと、ネットでのコミュニケーションて、どうしても言い方が端的になるだけに、他人の気持ちを害したり、傷つけたりする危険性もあるみたいです。どんな批判や批評をするにせよ、「この句はどうしたらよくなるのか」を作者と一緒に親身になって考える(と言うのは簡単だけど実は難しいのですが)、そういう態度で私自身は、これからもこの句会に参加させていただけたら、と思っています。それと、この場を設けてくださっている工場長さん、山口さんなどの運営メンバーの方々に感謝しましょうね、みなさん。こんな酔狂なことやってくれる方々、なかなかいませんから。

建穂:ご無沙汰です。久々にアクセスしました。なぜ今までアクセスできなかったのか……それは、生活環境が変わったことによる忙しさと、ネット環境の不調が原因です。(後者が主な原因)ネットも何とか復旧したようですので、これからも今まで同様、よろしくお願いします。

けん太:選びたい句がたくさんありました。でも、どこか決め手がなくて、困りました。突き抜ける凄さみたいなものが不足しているのかもしれませんね。ボクも初心に戻って頑張ろう!

ともなり:全体的に、読み手に突きつける作品が多いような気がします。サラッとあるものが、存在感を漂わせている、そんな作品が好きです。

敬子:バライティーに富んでいて興味深かった。

薫:おぉ、特選ばかりこれだけ揃うと第15回ではじめて投句した身には刺激が強すぎます。選んでみたい句がたくさんありました。

ミノル:詩としての凝縮度の足りない句が多いように思います

めぐみ:特選の句を選ぶのは悩みました。特選の句以外では、<ガラスの部屋に三十二個の扇風機><桜咲くどこか訂正されながら><菜の花がくすぐったいよ朝の恋><春は螺旋階段1/2の法則><怖れつつ少年は眼をママに渡す>も好きです。

斗士:作者名が明らかになっている上で、逆選を選ぶというのは、やはり問題があると思う。

健介:この度の『超特選大会』には私の句は一句も無いのではないかと少々マジに心配しておりました。でも、そうでなくて本当に嬉しかったです。なお「あんまんの餡が嘘をつく春夕べ」の句に関する複雑な事情については、話せば長くなってしんどいので最後まで事のなりゆきを静観したいと存じます。

隆:圧倒的にこれが特選として選べる句はない。候補句は10句を超える。一ヶ月后に選べば変わる可能性は多い。最終四句を残しました<京よりの蕪村手紙桜鯛><寝返りを打てぬまま死す寒北斗><降る雪やガス管地より少し浮く><如月の帯のながさを帰る犬>です。

きん:軽めの句から、山頭火ばりの句まで多種多様で面白かったです。


超特選5点句   

建国の日やキユーピーの脇甘し   またたぶ

肝酔  鯨酔  建穂  蘭丸  健介 

鯨酔 :やはりキューピーは小渕さんちのでした。甘そうな脇は事実甘かったのですが、その外見とは裏腹にやる事はしたたかで侮れなくなりました。国家存立に関わる重要法案を一気に通したり、突然のプラス経済成長実現(数字操作との噂まであります)・・・。現代世相風刺にも繋がる諧謔が宜しいと思います。
肝酔 :大勢の人に分るであろうごく普通の言葉を、無理のない論理でつなげて、しかも「紋切り型」や「常套句」に陥らない作者の手腕に脱帽です。1回読んで覚えてしまい、その後折に付け、頭の中で反芻できる句というのは、やはり「名句」の範疇にかなり近いのではないでしょうか。
建穂 :建国の日とキューピーの取り合わせが面白い。それにしてもキューピーの脇が甘いとは良く言った表現。……たしかに甘そう。
蘭丸 :建国の日に、キューピーという外国をイメージさせかつレトロな人形を組み合わせたところが、歴史的な意味を感じさせ、ましてや、脇が甘いという表現はいろいろと想像力を刺激されます。
健介:最後にやはりこの句を選んでしまったかぁ…う〜ん…。まあ、余計なコメントは要らんでしょう。唯ただ熟読玩味しております。とにかく面白くて、そして深い。讃。


超特選4点句

如月の帯のながさを帰る犬   天乃晋次

南菜風 帽子 英夫 隆 

帽子:これ、向上句会のときに最後まで迷って並選にしてしまったので、こんどは特選にしたくなりました。
南菜風:帯の長さで表す距離感の不思議さに惹かれた。帰る犬もまたその不思議さを帯びる。直通のワープ感というのか、繰り畳ねるとすぐ近くのような気もするのに、歩いてみると、帰路はけっこう長い。季節は如月。犬は帰り着きそうな気がする。ネコはどうだろう。
英夫:他の句は多くの場合、何かほかのもの(言葉以外のもの)をひきずっているのに対し、これにはそれが無いところがよい。


超特選3点句

神主のよろめいてゐる祭かな   後藤一之

昌宏 越智 吐無

越智 :醒めた視線がこわくて好きです。
昌宏 :光景が目に浮かびます。神主さんはたぶんご自分でも神道に確信がなくよろめきながら祭事を執り行っているのでしょう。
吐無: 厳粛な滑稽さがおもしろい。作者は神主を軽蔑などしていない。でも尊敬しているようにも見えない。普通の職業人と同等の人間愛あふれる優しさで、この滑稽さを冷ややかに見ている。


超特選2点句

春満月組体操のはじまりぬ   宮崎斗士

満月 れいこ

満月:やはりこのシュールな光景に惹かれる。体操をしている複数の人物の、無音のゆっくりした動きは、心をなくした亡霊のようでもあり、ロボットのようでもある。ポール・デルヴォーとデ・キリコの絵のような世界。<春満月>の一見心あたたか、やさしげでまろやかな印象が、かえって魂を抜かれたような感じを強調する。とろりとした水中のような薄闇の中に繰り広げられる<組体操>−−すべては<春満月>の毒が見せた幻影であるのかもしれない。
れいこ:満月の下で音もなく(たぶん)えんえんと続く組体操。月光の下で無言の子供たちが、ブリッジやサボテンを形作る。映像を想像するだけでそうとう怖い。春も満月も組体操も1語づつはちっとも怖い言葉じゃないのに、組み合わせ次第でこんなに確かな異界が出来上がる。

補助輪のいつ外されし風光る   白井健介

優司 にゃんまげ

優司:あずささんのお誘いで、久しぶりに選句に来ました。そこで、見つけた一句。この子、春にお父さんから、入学祝いの自転車を買ってもらったのでしょうか。毎日、学校がひけると、家の回りで練習、練習。ようやく補助輪も外されるころ、季節は風光る五月。さて、ボク。これから、どこまで遠出しようか?いつの時代も、少年の夏は遥かで、ワクワクすることで一杯だ。

冬の旅いるかは空の輪をくぐる   桜吹雪

一郎 秀明

一郎 叙情的な句を採っちゃった。乾いた句が続く中で、こういう叙情的な句がかえって力強く心に迫ってくる。
秀明 いるかの躍動感が伝わる。でも、冬の旅と、どう関係あるのかな。

日溜まりへ下りるほかなき観覧車   またたぶ

凌 健一

凌:いいと思った「蛇苺」には「持つ」に難があり、「蒙古斑」は「ゆけ」で特選を躊躇し、結局は平明な句を選んだ。死者を乗せてゆっくりと天空を輪廻する観覧車は、流転のあげく終焉の地に着く。死の国である。しかし下りてみれば「なあんだ、あの世とおなじ日溜まりか」。あの世とおなじ日常へ下りるほかない死者のお父さんとお母さん、それに死者の子どもたちは、仕方なく、またあの世とおなじ未定のわが家に向かって、リュックの鈴を鳴らしなが巡礼する。とこんな勝手な読みが許されるのでしょうか。
健一 :観覧車を通して、作者の気持ちがよく分かるので、いいと思いました。

桜咲くどこか訂正されながら   中村安伸

桜吹雪 青 逆選:昌宏

桜吹雪 :桜の句は難しい。「桜」は古来より、雪・月・花としてこれ以上はないほど、季語が磨かれてきた。「桜」という言葉の背後にある重層的な響きに、たいていの句は負けてしまう。毎年咲く桜を眺める心情にも桜に対する強い思い入れがある。現実の桜と、心にある桜のイメージとのズレを感じながら見ている気持ちを見事に言い当ててくれたこの句には脱帽。毎年、桜をみるたびに思い出す句のひとつになると思う。
昌宏 :趣旨がよくわからない。桜が弱く効果的でないのが不満。
青:とても正統派の句形でありながら、訂正という言葉を持ってくることで、不安感をあたえ、桜がけして自己充足的に咲いているのではないことを思わせる.

さかあがりできたくらいのうれしさよ   にゃんまげ

Mitsuhiro  守 逆選:景琳 逆選:満月

Mitsuhiro :夢が広がっています。
景琳 :1/84のひらがなだから,よろこび鉄棒物語です.
満月:ただごと中のただごと。無理な作為がないのはいいが、俳句の「俳」もない。「俳」−人にあらずと書く。これを私は現実に対する批評、お定まりの情緒に対する叛逆と解釈し、それが一句としてのオリジナル性を形づくるように思うが、この句にあるのはただ素直で無邪気な疑いのない感慨である。そのこと自体がめずらしくて点が入ったのかとも思うが、句会の雰囲気の中での”ほっとする役割”を離れたとき、この句が一句として自立の道を歩むのは不可能に思える。
守:なにがいいって?全部ひらがなで読みやすかったから…馬鹿向き。(笑)まあ、一番ストレートに実感できる、分かりやすい句だからかな。変に技巧的でなくて、気持ちを訴えるような。Simple is bestだね。ああ、アップルみたい…


超特選1点句

遊戯室うつぼの影がうつぼめき   またたぶ

安伸

安伸:「遊戯室」は昭和三十年代的っぽい、独特の暗さを感じさせる空間であり、うつぼのいる海底のイメージと重なりあってくる。「うつぼめく」という独特の言い方には、うつぼの奇怪で暗澹とした生命感のようなものが出ている。そして「うつぼの影がうつぼめく」という構文は、海底のゆらぎやうねりみたいなものまでイメージさせるようでもある。一句全体に漂うアンニュイさ、暗鬱としたユーモアに惹かれた。

腹這いのまま漂泊の身となりぬ   凌

けん太

けん太: 季語はないけれど。文章の一部のような句だけれど。何か詩を感じてしまう。どこか危険な生き方をイメージしてしまう。そんなところがボクにフィットしました。

怖れつつ少年は眼をママに渡す   蘭丸

晋次

晋次 :俳句らしからぬ印象をうけるのは文体が日本的観念を喚起する言葉をひとつも含んでいないところだろう、また季語に立脚しないところで読み手の観念を刺激するのは神話的手法によるものか? 時を超えてボーダーな言葉の永遠回帰性のあらわれとみてもおかしくないか。この句をバタイユの淫猥な詩的イメージ小説「眼球譚」の最終章に置いてみてもおもしろい。

年越しの煙草の灰の軽さかな   肝酔

船外

船外:何だか吹けば飛ぶようにこの一年が過ぎ去ってしまう。ま、人生こんなもんだろう。

サッチモといふ名のパン屋花の風   白井健介

斗士

斗士:この「サッチモ」は断じて動かない!と思う。

蛇苺予期せぬ父を隠しもつ   天乃晋次

敬子

敬子 :父親に対する複雑な思いが、象徴的に詠まれていて面白いと思いました。

でで虫や断酒の会に赤ん坊   後藤一之

ミノル

ミノル:季語が生きているように思います。断酒会と赤ん坊、一見、違和感を感じさせますが、背後の生活をいろいろ思わせます。

しゃぼん玉しゅわっと吹いて産む産まぬ   またたぶ

めぐみ

めぐみ:私は俳句はわかりません。だから解釈が間違っていたら、申し訳ありません。出産という女性にとっては重大な出来事。そんな大事な事でも、こうと決めるときは、シャボン玉をふっと吹いて行動に移すくらいのかろやかさって素敵だなあと思いました。うじうじしてるより、明るくさわやかにいきたいなあと。

熟睡の男の寝息塞ぎけり   うまり

ともなり

ともなり :初めて読んだときに、5・7・5になっていることに気づきませんでした。句について、解説する力がありませんのであくまで好みなんですが・・。こういう感覚をもっている人って好きです。もちろんこの句に興味を持ったのですが、それ以上に作者に興味をおぼえます。ただ、あえて5・7調を壊してほしかったかな。・・生意気ですね。

果実酒に沈む果実の鰓呼吸   中村安伸

一之

あずさ:夜中にこっそりと鰓呼吸してるんだろうか? うちの苺ったら、まったく。

山に来てシーツ干したよう蝶に遭う   秋

一彦

一彦 :はっきり落ちをもっている句も捨てがたかったので迷いました。結局、落ちを持たず、風景画のようにひたすら情景の美しさに充ちているこの句を選びました。都会の喧騒をはなれた田舎の開放感があり、頭の中でこの句を繰り返していると、ほっとする。

ヴィ−ナスの螺旋を滑る昼の虻   鯨酔

しんく

しんく迷ったあげく、この一句に。連作を作っていただけると、面白いかなと思った。

青空を砕いて走る命かな   にゃんまげ

鉄火

鉄火 :無季の魅力。

降る雪やガス管地より少し浮く   田島 健一

またたぶ

またたぶ:どちらかというとリベラル志向の私によくぞ採らせてくれました。

ジェンダーや姫と呼ばれて立ち上がる   山口あずさ

秋 :これ、あずささんの句で、発句の動機を伺って、私の考えていたのと丸っきり違っていた。(売春城(?)では指名を・・姫と呼ぶというもの)初めそれではつまらないなとと思いましたが、ジェンダーが妙に哀しい。それで、頂く事にしました。

ヒトデ それは無償の愛   山本一郎

景琳

景琳 :海星(ヒトデ)の愛なんか,どうでもいいじゃないって感じ.海の恋しい夏だから,選句.

樹を抱く遺体だいたい中年で   岡村知昭

薫:ほとんど樹と同化している中年おやぢ。ラブリー。消滅しつつある「トドワラ」(海水に侵蝕されて立ち枯れたトドマツ群)へのオマージュ。なわけないか。i音の重複による痛そうな、カサカサした感じが樹とピッタシ。

菜の花がくすぐったいよ朝の恋   松山けん太

弘美 逆選:薫

弘美:俳句がまったくわからないので、わかりやすい句を選ばせてもらいました。いそがしくてずっと忘れていた、昔の懐かしい思い出がよみがえってきました。爽やかさを感じました。
薫:別に恋に恨みがあるわけでも僻んでいるわけでもあるのだが、「菜の花」は別の花、ひまわりやコスモスやアイリスやドクダミでもいいのではないかと感じたので。

ここに又一軒建つか蓬摘む   足立隆

きん 逆選:隆

きん:子供の頃、草野球をしたりみんなと遊んだ原っぱ、そのみんなも今は離れ離れとなり、自分だけがここにとどまり暮らしている。春先になると蓬を取って草もちを作りみんなに送っていたが、近年この空き地も宅地造成地となり、また一軒工事が始まった。いつまで蓬とりを楽しむことができるか、いつまで元気で暮らせるか。そんな情景がうかぶ句である。

耽美的南欧女来てビンタ   白鳥 光良

あずさ 逆選:秀明

秀明 :意味不明
あずさ:通常句会のとき、回文と気付かずに惹かれるものを感じた。回文と気付かなかったお詫びと、激励と、今後の期待を込めて超特選を捧げます。

底なしの底に交わる蛇と月   天乃晋次

梟帥 逆選:凌

梟帥 :解釈はいろいろあろうが句の持つ重量感を含め頭抜けた絶品
凌:解ることと伝わることは違うのではないか。この句、「底なしの底」と「蛇と月」が過剰に反応しあい、よく解るのだが読者の掌に何も残らない。
特選句

春水を掬うメダカの学校跡   鈴木啓造

あずさ:つっこみ句会の工場長の読みがよかったですね。(※第14回選句結果参照)

くちばしの生えそうな日や花粉症   立川圓水

あずさ:嚔の光景が目に浮かびます。
斗士:準超特選。

ぼうたんやジャンジャン町で将棋指し   しんく

あずさ:ジャンジャン町が常識な人と、そうでない人とでは読みがぜんぜん違ってましたよね。

あんまんの餡が嘘をつく春夕べ   白井健介

あずさ:白餡のふりして実は鴬餡だったとか?

帯電のゆびとつながる青水仙   南菜風

あずさ:指から火花飛ばしてる人ってときどきいますね。

透明な音懐胎(みごも)ればモスラ   山口あずさ

あずさ(自解):ザ・ピーナッツっすね。

風邪流行るお局さまは定時なり   和田満水

あずさ:かぜはやると音だけを想像するとなにやら美しげ。が、しかし。。。

京よりの蕪村の手紙桜鯛   立川圓水

あずさ:ちょっと「めでた付き」してるかも。

奴逝きて飽和になりぬ冬銀河   北山建穂

斗士:「奴逝きて飽和になりぬ」というフレーズは好き。「冬銀河」が、わかりやす過ぎる。
あずさ:親しい人の死と何かが飽和する感じはありがちかも。

春は螺旋階段1/2の法則   姫余

あずさ:このよくわからない法則、嫌いじゃなかった。

薔薇の花盗ろうかやめよか考え中   吐無

あずさ:やはりCMノリが今一つでした。

櫻満開とは加速する歯車   中村安伸

あずさ:桜の季節にはヒヨドリが狂ったように飛び交い花を喰いちぎっています。確かに、加速されている感じがする。

雪を来てバサバサと雪落としけり   足立隆

斗士:何度も読むうちに、味わいがわかってきた。

春の泥無性に郷を離れたき   船外

あずさ:わたしの故郷はコンクリートかも。。

春おぼろ白面冠者の猫とおる   桜吹雪

あずさ:顔の白い猫を飼っていらっしゃる?

逡巡を重ねし春の水準器   鯨酔

あずさ:春は迷いがちか。

面接や体の中の蜜柑山   宮崎斗士

あずさ:そんな気がするから不思議。

鍵盤に手のひらひらと蝶の昼   立川圓水

あずさ:手がひらひら、蝶がひらひら、ひらひらが安易か。

梅雨入りのデニムは重く恋軽く   糸日谷麻衣子

あずさ:恋はなんといっても、つい重量感が出てきてしまうような気がします。

行きずりの男見送る夏の雨   山口あずさ

あずさ(自解):演歌っぽく読まれてしまいがちなのがとても残念。あざとい句が創りたい。

半分こにする癖があり花ひいらぎ   宮崎斗士

あずさ:そういえばわたしも、レストランなどでは友と違うメニューを頼んで半分こにすることがよくあります。このお行儀の悪さのあたりが花ひいらぎのぎざぎざ感なのかも。

梅雨空やあんさんたまには買いなはれ   肝酔

あずさ:この句、関西圏とその他の地域の印象に差が出ましたよね。

水無月をあをあをとゆけ蒙古斑   満月

あずさ:ダンシングベビーの黄色人種バージョンか?
斗士:ダンシングベビーは単純に恐い。

行く春や紙飛行機のダッチロール   白井健介

あずさ:ちょっと大袈裟に言っただけのような気もするが、紙飛行機でダッチロールさせるのもけっこうむずかしかったりして。

少年の股間に泳ぐ鯉のぼり   天乃晋次

斗士:「頭上」を「股間」に変えただけで、いろいろ楽しめる句になった。
あずさ:今読んでもちょっと臭い気がする^^;。

一月は長き顔して考へる   大石雄鬼

あずさ:作者が知り合いなので、大石さんの顔って長かったかしらと一瞬思ってしまった。(※決して長くはないですよね^^!)
斗士:「一月」効いてると思う。

黒南風の倉庫撮影禁止なり   足立隆

あずさ:黒南風と倉庫ってなんか気分出てますねぇ。

寝返りを打てぬまま死す寒北斗   南菜風

あずさ:星が寝返りを打つとしたら、それは地球最期の日?

白黒の軍艦ふかく眠る冬   天乃晋次

斗士:「白黒の軍艦」に惹かれます。
あずさ:山眠るの軍艦バージョン?

三月をよこ切る充電式の犬   千野帽子

あずさ:犬のぎこちない動きが啓蟄を思わせますです。

ピエールの黒いかばんにかたつむり   松山けん太

あずさ:この唐突なピエール。けっこうウケてましたよね。

酒屋さんコンビニとなり冬の晴れ   小原麻貴

斗士;僕が昔働いていたコンビニは、酒屋になった。

鹿は碍子に人の噂の吹き抜ける   山本一郎

あずさ:「ガイシ」を「ガラス」と読んでしまった苦い思いで。でも、ひとつおりこうになったぞ。

顔のない人に恋する春の夢   彩葉

あずさ:顔のない人はやはりちょいと怖い。

放蕩の挙げ句の果ての桜餅   肝酔

あずさ:泣きながら食べてる?

太郎の闇にテトリス降りつみ   またたぶ

斗士:一読、爆笑してしまった作品。

恋愛を放置してより日脚伸ぶ   さとうりえ

あずさ:もう厭きたってことですかね。

脱臼や深くふかくに春の泥   満月

あずさ:脱臼の深さというのを一瞬想像して、関節がとても不安な感じになった。

佐保姫は黄色い電車でやってくる   吐無

あずさ:そもそも春は黄色の印象が強いですね。

ガラスの部屋に三十二個の扇風機   中村安伸

あずさ:なぜかお洒落な髪飾りのような気がしてしまう。そういえば緑色の透き通ったプラスチックの安全ピンを耳に刺している男の子を見かけたことがあります。

掌で触るるものみな一月一日   足立隆

あずさ:何もかもお節料理になってしまうとか?
斗士:この「一月一日」は、もっとなんてことない日付けにしたほうが、かえって面白いんじゃないかと思ってしまった。

貘鍋は子供が寝静まってから   紫藤泰之

あずさ:食べようと思うところに技あり。
斗士:スタミナつきそう?

梅咲いて麻布の屋敷失せにけり   鯨酔

あずさ:一旦は所有してみたいような気もする。

枯野よりリクライニングシート起す   吉田悦花

あずさ:巨人か?

見晴るかす皇居にシミーズ春の風   肝酔

あずさ:異次元空間かも。だって、シミーズって何それってかーんじ、じゃない?

組長と呼ばれるたびに白椿   宮崎斗士

あずさ:適材適所。

桜蕊降る宦官の満身に   またたぶ

斗士:きっちりとした作りの句。
あずさ:宦官句、いつかは創ってみたいです。

万緑が万緑を呼ぶ肩車   肝酔

あずさ:赤ちゃんバージョンの森が動く。

システィーナシスティーナ真夜中の菫の交尾   満月

逆選:肝酔

肝酔 :ある言葉に対する極私的偏愛とその対極としてのアレルギー。それは、創作の種にはなっても、花や実を咲かせて他者の心や感性を揺さぶるものにはならないと思います。この句は、まさに作者が極私的偏愛を抱いている言葉を連ねただけの句のような気がします。その結果、読み手である私は、この作者から、作品により本来成立するはずの世界から最初から排除されているような気持ちになってしまうのです。それは意味がわからないとか、そういうこととは、またちょっと違う。つまり閉じてるんですよね。
あずさ:レズビアンと思ったのはわたしだけ?

iMac五色並んで春隣   白鳥光良

逆選:蘭丸

蘭丸 :イメージは分からないでもないのだけど、もしも、この商品を知らない人がいたら、なんのことか分からない。それに、iMACの商品コピーのように思えてしまう。
斗士:挨拶句っぽい感じ。

やさしさにふれすぎた日に届く河豚   内山いちえ

逆選:ともなり

ともなり:やさしさの対にあるのが河豚・・・つまり毒と解していいんでしょうか?ぼくは職業上「やさしさ」についていろいろ思うところがありますが、ぼくの中ではやさしさの対にあるものが毒だとは考えづらい。いや、河豚を「毒」と解釈してしまうぼくに問題があるのでしょうね。失礼しました。

合コンのあとの王政復古かな   中村安伸

逆選:桜吹雪

桜吹雪 :言葉の組み合わせのおもしろさをねらった句なのか。決定的にわからないのは、まるでイメージが立ちあがってこないこと。イメージではなく、意味をつなげてみても、句の意図が読み取れない。
あずさ:この間の飲み会で、つい「復古」してしまいました。

雪解けて坂道にあるコンドーム    松山けん太

逆選:健介 逆選:隆

健介:率直に印象を申しますが、その前に、私は“俳句は清く正しく美しくあるべし”(「正しく」については若干の説明を要するところですが)などと言いたいのではありません。要はこの手のことを詠むなら詠むで、もう少し気の利いた詠み方で句にして欲しいと思ったまでです。

飾り窓の薔薇@(アットマーク)アイデンティティ   和田満水

逆選:一之 逆選:あずさ

あずさ:アイデンティティーという言葉に踊らされた、あるいは今尚踊らされているニッポン人の皆さんと、その中の一人である自分への自戒を込めて逆選。また飾り窓の客は当然逆選の刑だわ。